JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
全農の販売事業改革着実に【岩城晴哉・JA全農代表理事専務】2018年6月5日
政府の「農林水産業・地域の活力創造プラン」に対してJA全農を中心にJAグループはどのように対応しているか。5月23日に開催された新世紀JA研究会の課題別セミナーで岩城晴哉JA全農代表理事専務が報告した。
本会は、先進技術に投資するようになり、また販売事業においては、米穀卸事業者や園芸の冷凍会社等との事業提携、出資などに積極的に取り組む組織に変わりつつあります。このことをご認識願いたいと思います。
(写真)岩城晴哉・JA全農代表理事専務
本会の平成30年度の事業について4つの柱で説明します。
(1)事業別実施具体策
(2)役職員の意識改革、外部からの人材登用、組織体制の整備
(3)生産資材事業の効率化・スリムな事業体制
(4)年次計画の販売事業をサポートする営業・生産体制の整備です。
この4つの取り組みは全体に順調に進捗しています。本会は2年前のJAグループと政府与党との協議のなかで、韓国の資材価格の比較の議論などがあったとき、空中戦をしていても意味がないと考え、国、業界、農業団体のそれぞれの役割を整理し、やるべきことを明確にしたアクションプログラムを策定しました。平成29年度は、それに沿って取り組み、平成30年度に向けたレールを敷くことができた1年だったと思っています。
国は農協改革に期限を定めていますが、われわれの改革にはゴールはありません。決めたことを着実に実行すれば、日本農業の将来展望が開け、農家の所得向上もできると考えています。そのために関係する業種との業務提携を進めています。
◆ ◇
◆サプライチェーン構築へ
本日は販売事業を中心に説明します。本会の販売事業における直接販売への対応として、米穀事業では大手卸の木徳神糧と、園芸事業においても中・外食サプライヤー等と業務提携をおこないました。平成29年度園芸の直販実績は3200億円の計画に対し、こういった取り組みをおこないながら3,243億円となりましたが、平成30年度は3300億円をめざします。このハードルは決して高くないと考えています。
米穀事業においては、平成29年産は直接販売で100万t、買取り販売で30万tの計画は達成できる見込みで、平成30年産は米の直販125万tを目指しますが、このハードルは高いと感じています。25万tという数字は金額にすると750億円で、大規模な米穀卸売業者一社の年間実績に相当する規模です。
我々は、全農パールライスの販路開拓などと併せて、パートナー卸などと協議しながら取り組んでいく方針です。全農パールライスの事業は1045億円を越える見通しとなっており、有力なビジネスモデルであり、今後も大きな戦力になると考えています。
園芸では、本会の取引先約1000社のなかから、重点取引先300社程度を選別しました。このことで直接販売を強化していきますまた、市場向け販売では、全国の卸売会社約600社を平成29年4月に販売力があり戦略を共有できる147社に選別しました。平成30年度は全国域の35社、および県域65社の市場を対象に、実需者を明確にした予約相対取引を強化する方針です。広域集出荷施設、園芸直販関連施設の設置も順調に進んでいます。
一方、輸出事業については、102億円の見通しで、前年比122%となりました。国の前年比107%を超えています。しかし、牛肉・野菜は輸出の仕掛けが構築できつつありますが、米については課題を抱えていると総括しています。
本会の29年度米輸出額は前年比111%の6億円となりましたが、計画の27億円をクリアできませんでした。グループ全体でも計画の28億円に対して前年比122%、8億円の見通しです。
輸出国を所得層マーケットで分析してみますと、ハイエンド層をeコマースで取り込むことができましたが、ミドル層においてはアメリカ短粒種に価格面で負けています。国際市場で価格競争に勝てる国内産地をつくることが第1の課題だと考えています。
◆ ◇
◆農業生産拡大も積極展開
平成28年の食品製造業などの食品産業の国内生産額は約99兆円で、農業・食料関連産業全体116兆円の約85%を占めています。「100兆円マーケットを耕せ」のキャッチコピーとともに、農業には伸びしろがあると言われるゆえんです。本会はこのマーケットに挑戦していきます。本会は素材供給事業から食料品製造・供給事業に変わっていこうというベクトルを持っています。
また、平成28年の農業生産額は9兆2000億円ですが、耕種部門における産出額のベースとなる作付面積は野菜類55万ha、果実23万ha、米160万haです。本会はこの耕地面積をかならず維持し、拡大していこうと事業を展開しています。
マーケットインの販売といっても、品物がなくてはどうにもなりません。担い手を育てても、収穫時期に人手が不足していては出荷できません。本会は、AI機能を持つドローン開発による農薬散布の労力軽減や多収性の種子の開発などに取り組んでいます。
また、果実においては、海外のハイエンド層マーケット向けに高級果実を積極的に輸出していきます。米の生産額は前年より10%伸びましたが、国内における消費は、人口の減少などによって、年間8万tずつ減っています。学校給食の拡大などに積極的に取組んでいますが、農地を維持するためには輸出による拡販が必要となるため、本会は平成31年度までに最低2万㌧規模の産地づくりを計画し、やり遂げていきたいと考えています。
◆ ◇
野菜の国内生産額は約2兆5500億円ですが、冷凍・生鮮で約3000億円の野菜が輸入されております。本会は、この合計3兆円のマーケットに挑戦し、品目ごとに国産へシフトするよう戦略をもって取り組みたいと考えています。
具体的には、輸入3000億円のうちブロッコリ-が140億円で、国内消費約20万tのうち7万tが輸入で、単価も1kg200円と国産の半分です。これでは太刀打できません。しかし、花蕾が1kgのブロッコリーを冷凍用につくると約250円でできますので、本会は、冷凍専門会社に資本参入するなど、品目ごとのサプライチェーンも構築していきます。本会はそうした方向へスタンスを切り替えています。
平成27、28年の農業生産額は野菜、果実とも前年比107%ですが、卸売市場における取扱いは102~103%に留まっています。つまり生産額の伸びに市場が追いついていないのです。これまでのビジネスモデルだけではマーケットを受け止められなくなっています。本会のビジネスモデルも見直しが必要です。本会は自らが直販事業をおこない、売り場を選べる、あらゆるニーズを取り込めるアンテナを持つ販売システムが必要だと考えています。
本会はいま、次期3か年計画の策定に取り組んでいます。農業生産額全体を10兆円にするためにはどのような仕掛けが必要なのかを考えています。そのうえで、実需者からも生産者からも選ばれる機能をもった組織になろうと考えています。都道府県域を含め、農業生産額全体をどう伸ばしてくかを3か年計画に織り込む作業を続けているところです。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
(関連記事)
・実需に基づき園芸産地づくり【酒井 肇・JA全農園芸部次長】(18.06.04)
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