JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
コスト感覚を明確に 安易な人員削減と施設整理【水谷成吾・有限責任監査法人トーマツJA支援室】2019年2月28日
JA改革の中で、最も重要で難しい経済事業改革。収支改善がなかなか進まないだけでなく、内容やJA経営に占める比重、改革の進捗の差が大きく一括りで考えられないという特徴がある。収支改善の課題についての監査法人の話と、経営破綻から再建した生協の報告をもとに意見交換した。
◆漠然とした問題意識
全国の農協で経済事業の収支改善について意見交換すると、経済事業に対して漠然とした問題意識を持っているだけで、本質的な原因追及を怠ってきたのではないかと感じることが少なくありません。そのような農協では、経済事業の収支改善は「できたらいいね」の努力目標になっていることがほとんどです。
これまでは経済事業の赤字部分を補填する信用事業という打ち出の小槌があったので、「経営事業の赤字は当たり前」などと悠長なことを言っていられました。その結果、「業務に無駄がありそう」「物流に無駄がありそう」などと漠然とした問題意識は持っていても、部門別損益計算を理解し、どこに改善すべき無駄があるのかを把握している役職員は多くありません。
◆場当たり的な改善策
経済事業の解決すべき課題を理解していない農協に対して、全国連主体でさまざまな改善策が提案され、それらしく取り組んでいるものの一向に成果が出ないというは当然です。農協の経済事業は、何をするか(改善策)を検討する前の段階です。このまま収支改善に取り組んでも、思い付きの施策が形式的に実施され、成果の検証もないままに消えていくことになるでしょう。
農協現場に危機感がないなかで、いくら全国連が音頭をとっても経済事業改革が進むことなど期待できません。まずは、各農協が「経済事業の赤字は今に始まったことではない」と言って臭いものに蓋をするのではなく、何が「組合員のための非効率」であり、何が「改善すべき無駄」なのかを明らかにすることで、農協が取り組むべき経済事業の収支改善を具体化することが必要です。
(写真)水谷成吾・有限責任監査法人トーマツJA支援室
◆サービス低下を防ぐ
漠然とした問題意識で経済事業の収支改善に取り組む農協が陥りがちなのが、安易な「人員削減」と「施設の集約」です。部門別損益計算を眺めてみれば、特ち出しているのは「人件費」と「施設費」であり、経済事業の実態をあいまいにしか把握していない役職員が、ここを改善することが一番効果的だと考えるのも無理はありません。
しかし、人件費と施設費は組合員に対するサービスレベルに直結する費用であり、職員数(人件費)を減らせば、組合員に対するサービスも低下するおそれがあり、施設(費)を減らせば、組合員にとって不便になるおそれがあります。それでも、「背に腹は代えられない」と、安定経営のために採算性の悪い事業・事業所を廃止することが農協らしい事業のあり方と言えるのでしょうか。都合よく「組合員のため」と言い訳し、経営が苦しくなったら切り捨てるのであれば、農協を資本の論理で改革しようとする規制改革推進会議の主張と変わりません。
◆収支構造の要素分解を
経済事業の収支改善に取り組むには、「"この辺"に無駄がありそうだ」と問題を大雑把に捉えるのではなく、「〝ここ〟に無駄がある」と漠然とした問題意識を明確化する必要があります。そのために、まずは、経済事業の収支構造を要素分解し、問題の所在を見極めることです=表=。役職員が「なぜ赤字なのか」を理解したうえで、農協の経済事業に対する想いを整理して、収支改善に向けた取り組みを方向付けていかなければなりません。
組合員のために非効率を受け入れようという経済事業を、どんぶり勘定で運営していればコスト過多になることは当然です。「組合員のため」という"赤字"の大義名分があるために、費用対効果(採算性)を問うことが悪であるかのように錯覚し、コスト感覚が鈍くなっています。
そのうえで、「経済事業にはその程度の人材しか配置していない」という負い目もあり、経済事業に抜本的な改革など期待できないなどと諦めてはいないでしょうか。「組合員のため」という言い訳で経済事業の赤字を正当化し、問題の本質から目を背け、「昔からやっていること」を継続しているだけなら、収支改善が進まないのは当然です。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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