JAの活動:農協時論
【農協時論】米、貯金、人―インフレの時代 協同の結集力を 生川秀治・JAみえきた組合長2025年7月28日
「農協時論」は新たな社会と日本農業を切り拓いていくため「いま何を考えなければならいのか」を、生産現場で働く方々や農協のトップの皆様に胸の内に滾る熱い想いを書いてもらっている。今回はJAみえきた代表理事組合長の生川秀治氏に寄稿してもらった。
JAみえきた代表理事組合長 生川秀治氏
1・三つの集まりにくいもの
今年の年3月27日に開催された理事会の冒頭で、「今年度を振り返ってみると三つの集まりにくいものがありました。一つはご承知の通り米です。二つ目は貯金、そして三つ目が人です」とあいさつした。この時は深く堀り下げなかったが、この三つは歴史的にも現時点においてもJAみえきたの事業運営の根幹をなすもので、対応次第では経営に大きな影響を与える。これをどう考え、どうするか。
2・米
まずは米について、これには多くの方が意見を述べておられるので、ここではJAみえきたの現状を報告する。私が組合長になった3年前のJA米概算金は9500円(コシヒカリ一等60キロ)で、多くの農家から厳しい意見をいただいたと聞いた。その後は県下JAで一番高い概算金にするよう言ってきたが、なかなか米は集まらなかった。それで2024(令和6)年産米から直接買取制度を導入したが、一定の評価は得たものの、初めての試みであったことや令和の米騒動のなかで思ったより集まらず、課題が残る結果となった。25(令和7)年産米については備蓄米や輸入米などで市況が混乱しているなか、7月初旬に認定農業者向けに早期米買取最低保証価格、あきたこまち2万8000円、コシヒカリ2万6000円(一等二等米同額)を提示した。(概算金は現在検討中)
令和の米騒動以降、小泉大臣の登場、参院選もあって久々に米価格のあり方、農協改革が話題となった。今こそJAの存在意義が問われていることをしっかり認識し、日本の米を守る強い決意が必要であろう。農業所得増大の手段としては、米の買取価格や概算金の引き上げが最も効果があるし、たとえそれ以上の価格で他に流れたとしても農家にとってはプラスになる。これでJAの利益が減っても農家に不満はないだろうことを踏まえて、後は地産地消、販売努力をすればいいのではないか。今後の米政策には期待したいが、今年度はJAが頑張りたい。
3・貯金
組合長に就任してから半年もたたないうちに日銀総裁が交代し、金融政策の変更が見えてきた。金利が復活すれば、世の中が変わり貯金獲得競争の時代が来ると直感した。そこで運用体制強化のために機構改革を行って運用部を新設した。併せて職員には貯金を伸ばすよう指示をした。ストーリーとしては貯金を1000億円伸ばそう、その利ザヤが1%あれば10億円利益が増えるから給料も上げられると宣言した。2023(令和5)年度は個人貯金の伸び率は2・7%で多少の意識改革はできたと思っている。24(令和6)年度になるとネットバンク・地銀・証券の高金利や投信など金融商品の多様化で集まりにくい状況が続き個人貯金の伸び率は2・0%にとどまった。25(令和7)年度は春の子ども食堂応援キャンペーンに続いて、夏のキャンペーンとして初めて3年物定期貯金100万円ごとに新米コシヒカリ5kgを3年間プレゼントする商品を企画した。500万円の預入で3年間合計75kgのプレゼントとなる。
JAみえきたのエリアは米の生産地であり、57万人の人口を有する消費地でもある。地域の農産物を地域の消費者に橋渡しすることはJAの大きな役割である。貯金についても単なる金利競争より、JAらしい個性のある商品を出していければと考えている。もちろん投信も共済も積極的に取り組んでいる。金利が復活したインフレの時代には信用共済事業に力を入れることが当JAでは不可欠で、共済を含めた預かり資産管理、重点管理先には全体資産管理の考え方が必要である。496のJAそれぞれに地域特性に応じた経営があると思うが、当JAでは貯金・預かり資産に対しては強い思い入れを持って経営をしたいと考えている。
なお、人については2025年4月15日付農協時論に「人的資本経営の時代」として寄稿したので、ここでは割愛する。
4・インフレの時代
今回のメインテーマはインフレの時代とした。コロナ対策のため世界中でマネーの膨張が起き、戦争などの要因もあるが、コロナの終焉に合わせるようにインフレが高進した。
米を含めた農産物価格には、需給ギャップや気候、災害、貿易、政策など多くの要素が絡むが、インフレになると結局は生産コストの上昇を価格に転嫁できるかどうかが問題となる。今後も生産資材や人件費の高騰が続く中で、JAとして農業者の所得増大に向け何ができるか、果たすべき役割は大きいと思われる。営農指導の強化、高値買い取り、販路開拓、直売所活性化など課題はたくさんある。
貯金については、インフレで金利が復活すれば各金融機関が必死で預貯金を集めにかかるのは当然のことである。資金を集めて運用し、収益を稼ぐことは金融機関の基本中の基本であり、競争は厳しくとも知恵を絞って貯金を伸ばしていく必要がある。全国的に貯金が減少しているJAが増えているが、人口減や運用の多様化はあるにしても、インフレによるマネーの膨張もあり全体の預貯金量は増加しているのである。
人については、JAのみならず全国的に中途退職の増加、求職者の減少が顕著になっている。地域にもよるが、インフレで人手不足の時代になると継続的な給与の引き上げは必須であり、それが可能な経営が求められている。
インフレの時代とは、これまでとは違う時代が来たということである。同じことをやっていては時代の変化に適応出来ない。端的に言えばたくさん稼ぎ、必要な部署や人にたくさん投資しなければならないということである。最初に戻ると、集まりにくい米・貯金・人が集まるようなJAの組織、仕組みを築き上げることが今求められていることではないか。
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