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特集:第28回JA全国大会特集「農業新時代・JAグループに望むこと」

2019.03.15 
地域での多様な連携と担い手育成を 「成長産業化」は地域の衰退招く【榊田みどり 農業・農政ジャーナリスト】一覧へ

 政府が進める農業の「成長産業化」は農業を単なる産業とみなし、規模拡大と競争力強化を基本としている。しかし、農村は人々が日々暮らすところであり、生産だけの場ではない。農村では、稲作を中心に大規模も小規模経営も併存しながら暮らしてきた。それを崩して大規模だけの農村は考えられない。農業は産業政策だけでなく、社会政策としての位置付けも必要だ。農業・農政ジャーナリストの榊田みどりさんは、このことを鋭く指摘する。

所得は増大しても
中小農家の離農増

 

 昨年5月に公表された「食料・農業・農村白書」では、ここ2年連続で農業総産出額と生産農業所得が上昇に転じたことがトピックスとして大きく取り上げられた。さらに、「世界需要も視野に入れた農業生産へ」と、輸出振興でさらなる「成長産業化」へという展望もそこには描かれていた。
 JAグループが掲げてきた3方針のひとつである「所得の増大」は、その意味では目標どおりに進んでいることになる。しかし、果たしてこのままでいいのかという懸念は、現場の多くの農業関係者が抱いているはずだ。
 「所得の増大」の一方で、耕作放棄地の増加は止まらず、果樹・野菜・酪農・畜産、どれも生産量は減少傾向にある。つまり、一部の農業者の所得は増大しても、全体で見れば、中小規模農家の離農が増えて生産基盤のぜい弱化が進行していることは否めない。
 離農の増加による生産減少を、担い手への集積と規模拡大によってカバーするというのが、今の農政の理想的な姿なのだろうが、実際にはそうなっていない。そこに天候不順や自然災害による突発的な生産減少が加わり、市場単価が上昇したことが、今回の「所得の増大」の背景のひとつと私は理解している。
 仮に、担い手への農地集積と規模拡大による生産拡大が実現して生産量が維持できていたとしても、それで問題は解決するのだろうか。
 以前、北海道の酪農地域で聞いた、酪農リーダーの言葉が私の心にずっと残っている。「酪農に特化したこの地域では、離農イコール離村になり、それは地域の衰退につながる」という言葉だ。農業所得が上昇しても、人口減少で学校や病院や店舗などのインフラが消えたとき、暮らしの場としての農村はどうなるのか。
 この地域は、離農者は増えているが、残る担い手の規模拡大によって地域の生乳生産量は維持されている。今の農政でいえば"優等生"だ。農業所得も高い。そんな地域でさえ、現場のリーダーは懸念を抱いている。
 農業に限らず、ひとは仕事だけで生きているわけではない。「産業政策としては今の農政は理解できるが、これを本気でやったら地域が壊れる」という懸念の声も、他の地域で聞いた。
 そもそも、「所得増大」は何のためなのかということを、改めて問いたい。
 「所得増大」が最終目的なわけではなく、「この場所で暮らし続けるために生活を豊かにし、地域を持続すること」が最終目的であり、そのための手段として「所得増大」があるのではないか。地域には「強い農業」も必要だが、弱者を地域から排除して強者だけが生き残るのであれば、それは「地域の持続的な発展」という最も重要な目標から見れば本末転倒ではなかろうか。

定住希望者が増えている自然に囲まれた農村の住居(写真)定住希望者が増えている自然に囲まれた農村の住居

 

「農業関係人口」と
多様な担い手の場に

榊田みどり 農業・農政ジャーナリスト
 「生産拡大」に向けた新規就農者の確保・育成に関して、各地のJAが積極的に取り組んできたことは知っている。現に、農水省によると、2017年の新規就農者数は、過去最高の数字を記録し、「田園回帰の流れが若年層に続いている現れ」というコメントも出している。
 ただし、農業次世代人材投資事業を活用し、生産品目を絞り込んで自立経営体としての新規就農者を育成する現在のJAの手法とはちがった新規就農の流れが生まれていることも、現場を回っていて痛感する。
 私事になるが、近年、意図しているわけではないもののJA関連の取材が減り、代わって自治体、さらに小さな自治会・地区などの取材が増えている。そこにある大きなテーマは、「どうやってこの地域の暮らしや農地を守り、次の世代につなげるか」で、その中に農業・農地問題がある。
 たとえば、町会(自治会)組織や旧町村単位で結成されたNPO組織が、防犯活動・福祉活動・社会教育(ひとづくり)・観光交流定住促進活動などと同様に地域づくりの中の一部門として「農業部門」を位置づけ、非農家も含めた地域全体で農地管理や生産販売戦略を企画・実践している事例を見てきた。
 言うまでもなく、地域の中での農業人口は、平地でも中山間地域でも2割前後。地域内ですでに少数派だ。その限られた農業人口だけで、「新規就農者の受け入れ」や「生産拡大」「地域活性化」を考えるより、地域全体で考える環境を整えたほうがいい。
 国の農政は「農業の成長産業化」と農業に"純化"して自立経営体の育成を目指すが、上記の視点で地域農政を考えると、自立経営体の育成の一方で、人口減少の中、「どうやって地域に人を呼び込むか」という地域に立脚した視点で地域政策に農業を組み込むことも必要だ。
 実際、自立経営体以外にも、兼業就農、自給農での移住定住、さらには、農業をやらなくても、農産物を加工・調理する人材、地元食材や地域情報を域外に発信する人材、さらに婚活イベントで成果を挙げている人材など、取材先では多様な移住人材に出会う。そのほうが地域の活力が生まれ、めぐりめぐって地域農業の販売戦略や活性化につながるのではないかと私は感じている。
 昨年10月、山口県で開催された「全国過疎問題シンポジウム」のパネルディスカッションでその趣旨を話したら、コーディネーターだった雑誌「ソトコト」編集長の指出一正氏が、"関係人口"という言葉と掛けて「"農業関係人口"の重要性ですね」と応じてくれた。
 「関係人口」とは、不特定多数の「交流人口」でもなく、かといって「移住定住人口」でもなく、その中間に位置する人々のこと。つまり、定住はしていないが定期的に地域を訪れ、単なる観光の"お客さん"ではなく、地域課題を自分ごととして一緒に考え行動してくれる存在のことだ。近年は、都市と農村を行ったり来たりする「二地域居住」の人々も散見される。
 この「関係人口」と同時に、多様な「農業関係人口」も、地域や農業にとって大きな存在ではないか。実際、こうした新たな流れを呼び込むべく、島根県では、「半農半X支援事業」(兼業での移住就農支援)を2010年からスタートしている。長野県でも昨年から「一人多役型の地域社会づくり」を打ち出し、多業での移住・定住支援策を始めている。移住政策は移住政策、農業政策は農業政策と分けてしまうと、そこからこぼれ落ちてしまうものがあると気づいた地域は、すでに動き始めているのだ。

(写真)農業・農政ジャーナリスト 榊田みどり氏

 

地域・農業の担い手
広くとらえて連携を

福島県旧東和町のNPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会が運営する堆肥センター 近年、地域おこし協力隊や緑のふるさと協力隊として農村で活動する若者たちに会うことも増えたが、そこでもとくに注目したいのは、彼らの多くが農業や農業関係の活動にかかわっているという現実だ。
 3年間の任期を終えた後も、隊員の6割が派遣先に定住しており、そのための職業として就農を選んだ人もいることは知っていたが、昨年、3年間の任期中に「農業」が地域おこし協力隊としての活動になっているケースにも遭遇した。地域の仕事に取り組みながら農業を営み、そこから農業専業になる若者もいるだろうし、他の仕事と兼業で定住する若者もいるかもしれないが、どちらも地域農業と地域の貴重な担い手であることにちがいはない。
 JAには、これら新たな担い手たちとの連携も広げながら、営農販売事業だけでなく地域協同組合として、より幅の広い地域活動を期待したい。

(写真)福島県旧東和町のNPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会が運営する堆肥センター

 

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