農政 クローズアップ詳細

2014.04.11 
【クローズアップ・消費税増税と農業】税率アップで大打撃一覧へ

・ベアは一部の話
・非正規雇用の増加も
・生産資材、すでに高騰
・地域企業と連携に力
・ピンチをチャンスに

 4月1日から消費税が8%に引き上げられた。3月には駆け込み需要が起きたがその反動で消費不振も懸念される。農業経営にとっても値上がりをしている生産資材価格が消費税アップでさらに負担増となる一方、農産物に増税分を転嫁することは難しいのではないかといわれ、将来の経営にも不安が出てくる。今後は来年10月からの10%への引き上げも検討されることになっているなか、消費税増税をめぐる経済情勢ととともに、今回は若手の農業者に増税の影響と将来展望などの声を聞いてみた。

買い控え、食品にも懸念

所得階層別の消費税負担額と収入に占める割合(調査世帯全体)

◆ベアは一部の話

大手量販店では価格の表示を切り替え、値上げを感じさせないようにしている。 日本生協連が3月19日に公表した調査結果によると、2013年の1世帯あたりの年間消費税額は平均で約16万7000円だった。これが3%アップで年間約10万円の負担増になるという。
 収入に占める消費税の割合は平均2.46%。しかし、年収によって差がある。年収1000万円以上の世帯では1.92%だが、年収400万円未満の世帯では3.48%となる。2倍近い差があり、低収入ほど負担が重くなるという「逆進性」がくっきりと示されている。
 消費税アップを前に安倍首相は「アベノミクス」で景気が回復したことを理由に、経済界に対して賃上げを要請、それに応えて一部企業ではベースアップが実現した。所得が上がれば消費税が引き上げられても痛税感は緩和され消費の落ち込みもないとの考えだ。
 しかし、ベースアップは大企業の話、自分にはまったく関係がない、という声を多く聞く。
 実際にそれはデータで示されている。
 農林中金総合研究所の南武志主席研究員のまとめによると、現金給与総額は消費税が5%に引き上げられた1997年から下がる一方である(下図参照)。
 それでも春季賃上げがまったくなかったわけではない。が、グラフに示されているように民間平均の賃上げ率は1%台で推移し、しかも働く人全体の基本給(所定内給与)は2000年代に入ってからは、前年比ゼロどころかマイナスという年もある。
 政府は消費税の3%アップも含めて物価を2%上昇させてデフレから脱却することを目標にしてきた。そのため消費税が上がっても2%台のベースアップがあれば大丈夫だとしてきた。しかし、南主席研究員は「ベースアップによる所得増は一部企業でのモデルケースに過ぎない」と指摘する。実際、働く人全体の基本給ベースでは、今回もせいぜい0.4〜0.5%上昇に過ぎないという。

(写真)
大手量販店では価格の表示を切り替え、値上げを感じさせないようにしている。

◆非正規雇用の増加も

 その理由のひとつは、日本の労働力が全体として高齢化していることである。消費税が3%から5%に引き上げられた17年前、団塊の世代は50歳前後で教育費などもっともお金が必要な年代であり、また、それだけ賃金水準も高かった。グラフ1で1997年ごろに現金給与総額がもっとも多くなっているのは、そのことを示している。しかし、今の団塊の世代の年齢は、現役を退いているか、賃金が抑制される世代だ。 さらにかつてと違うのは非正規雇用者が増えていることである。非正規雇用者の賃金はもともと動かない。労働力の高齢化とこの非正規雇用者の増加を背景に、グラフに示されているように所定内給与の伸び率は2000代以降、ゼロ、またはマイナスが続いてきた。この状況のなかで消費税率の引き上げが行われたことになる。
 「所得増が実現していることが消費税引き上げの前提だった。しかし、所得が増えないなかで物価だけが上がるとモノは売れなくなる。景気への影響は当然、懸念されます」と南主席研究員は指摘する。
 3月は駆け込み需要で耐久消費財を中心にバブル期並みの消費となった。しかし、増税後も続くかどうか。かりに消費が冷え込み景気が悪化すると企業の操業も減って、残業も少なくなる。そうなれば所得の減少にもつながりかねない。それを政策で補てんすることになれば、消費税増税が目的とする財政再建に逆行する。
 南主席研究員は「消費税引き上げに反対はしない。しかし、景気が昨年よりも回復しているわけではない。十分に体力がついてからの増税でなければ結局は税収も減る。タイミングが悪いということです」と指摘している。

現金給与総額の動向

 春季賃上げ率と賃金の動向

 

 

若手農業者の声
「将来展望描けない」

◆生産資材、すでに高騰

 若い農業者は今回の引き上げをどう考えているのか。今後も農業で生計を立て地域を担っていく青年農業者に率直な意見を聞いた。
 熊本県玉名市でミニトマトを80a栽培する前本勝さん(JA熊本県青壮年協副委員長)。消費税増税にはまだ「ピンと来ない」と言い、増税よりも生産資材価格の高騰で苦労していると話す。現在42歳。就農した20年ほど前の燃油価格は1リットル42円ほどだったが、現在は95円から100円の水準だ。年間の燃油代は600万円にもなるという。円安でハウス資材の鉄も値上がりしている。規模拡大して法人化する構想もあるが施設への投資に二の足を踏む。「資材価格は高止まり。アベノミクスの恩恵は感じられません」。
 栽培に集中しようとミニトマトは全量JA出荷している。量販店との相対契約分もあるため、きちんと消費税増税分は価格転嫁できているというが、今後の売れ行きそのものに不安も持つ。「食料は必需品だから買ってくれるはず、と思うが消費税アップのしわ寄せもじわりと来るかもしれない。社会保障費のために必要だとは理解しますが…」と話す。
 佐賀県佐賀市で米麦のほかイチゴを栽培し通販でも全国販売するITO FARM代表の伊東宣尚さん(34)も燃油の高騰に加えて、イチゴを詰める箱代が1箱あたり100円以上値上がりした。「生産資材費の請求は今月から。これから消費税アップを実感するんでしょうね」。今回は販売価格の値上げはしなかったが、10%引き上げとなったら顧客に理解を求めたいという。また、送料込みで販売していたが、送料を別にすることも検討する。販売ルートに開拓に他企業の経営者仲間も回る。レストランなどのデザートにも売り込む。
 「今の日本の財政状況から消費税はやむを得なないと思う。国の政策に左右されないよう自身のビジネスモデルをしっかり持つことを心がけています」と話す。

◆地域企業と連携に力

 景気不振と消費税増税は農業者だけでなく商工業者も苦しんでいますー、こんな地域の実態を話すのは島根県益田市で稲作とイチゴ、メロンなどを生産している草野拓志さん(25)だ。
 米は地域の飲食店や幼稚園、老人福祉施設などに販売しているが3月は駆け込み予約が殺到した。しかし、「これからはその反動が怖いです」。消費税アップにともなって納入先には3%値上げを納得してもらったという。取引先からは3%アップなら「まだ良心的だ」といわれたという。
 一方で直売するイチゴやメロンなどのパッケージ代も値上げ。ブランドイメージを大切にするため使用する素材などのランクを落としたくない。が、負担は増える。
 ただ、草野さんは商工会にも入って情報交換をしているが、地域経済は疲弊、「価格転嫁できない中小業者もいて苦しんでいる人もいます」と話す。こうした厳しい状況のなかで地域では企業どうしの連携の動きも活発になってきたという。
 草野さんが父親と兄と経営する草野農園も地域の米穀店や土木業者との連携をしている。米穀店は生き残りをかけてより有利な取引にニーズがあり、土木業者には耕作放棄地の開拓を発注している。整備された農地では需要が伸びているベビーリーフなど軟弱野菜の生産拡大につなげている。 「不況が続くなかで経営者は提携や合併など、まとまっていこうという考えが出てきています。足りないものを補い合いシナジー効果を生み出す。結局は私たちは農業がその核になるということだと思っています」と話す。 厳しい時代だからこそ、地域の農商工連連携をリードしていく夢を持っている。

◆ピンチをチャンスに

 消費税アップで外食などを控えようという動きがあるなら、「今こそ食の啓発のチャンスでは」との声も届いた。埼玉県川越市の野菜生産者の飯野芳彦さん(36)(JA埼玉県青年協副委員長)だ。
 消費税アップで他の生産者と同様に生産資材の値上げが苦しいが、農園で雇用している人への人件費も「せめて消費税アップ分は上げなくては」と苦労を話す。
 ただ、今回の増税で外食などが控える動きが出るのなら、逆に農業者が「家での食事を啓発してはどうか」と提案。日本農業は内需に支えられるのが基本なのだから、ピンチをチャンスに変える発想を持つべきだと飯野さん自身も直売所など身近なところで啓発活動をしていきたいという。
 今回の消費税アップの影響評価はまだこれからのことになりそうだが、次代を担う青年農業者からは意外な発想、地域の実態も聞かれた。こうした声にも耳を傾けていきたい。

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