37年ぶりの国主催の国際園芸博 国民全員が「農」を考える契機に(2)つなぐ「国民皆農」運動に 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年5月13日
2027年、横浜市の旧上瀬谷通信施設で横浜国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)が開催される。37年ぶりの国主催の国際園芸博となる。横浜国際園芸博覧会農&園芸コーデイネーターを務める千葉大学大学院園芸学研究科客員教授の賀来宏和氏に同博覧会の意義などについて寄稿してもらった。
つなぐ「国民皆農」運動に
千葉大学客員教授・賀来宏和氏
この博覧会が単に狭義の「花き園芸」を対象としたものではなく、「農」ないし「農業」全般を対象とした事業であることは前回に述べた。
また、横浜国際園芸博覧会は、最上位の博覧会の仕組みとして、万博にも認定されており、さらにはどちらも「博覧会」の用語を使用しているため、国際園芸博覧会は、「園芸」をテーマとした万博と同義の博覧会とみなされがちである。しかしながら、そうではない。その一つの証拠として、国際園芸博覧会には出展される作品、植物、技術などについてのコンペティションと称されるコンテストがある。いわば共進会の大型国際版といってもよい。
つまり、国際園芸博覧会とは、その開催に至るまでに広く蓄積された農業全般を含む多様な植物に関わる生産、育種、加工、あるいはそれらの組み合わせによる庭園や緑化などの装飾や農業生産を支える技術・素材・機械器具さらには企業の生物多様性保全活動や森林保護活動などの社会貢献活動などまでを対象として、その関係者が一堂に会する大会であり、総会であり、技術研究会、交流会、さらには「花の万博」が「緑の三倍増構想」に基づいて構想され、その諸政策の普及啓発をねらいとしたのと同じように、広く国民への普及啓発大会である。そして、コンペティションとはその日頃の生産品や作品、技術、活動等に対する顕彰を行い、その功績を讃えるとともに、広く社会に広報宣伝する顕彰会である。
このような博覧会などの大型事業を行う場合、レガシー(遺産)と称される事業後のことが問われる。こと国際園芸博覧会にとってこれは明確である。つまり、国際園芸博覧会の遺産(レガシー)とは、博覧会後に会場跡地として残される都市の貴重な公園緑地であり、また、一人一人の農家の営みや造園事業者などを含む関係者の事業に対する国民の関心を高め、その生業や活動を活発化させ、博覧会の理念を継承する運動を拡充することに他ならない。
このたびの横浜国際園芸博覧会では、これまでわが国で行われた同種の国際園芸博覧会、あるいは万国博覧会、さらには都道府県が実施してきた博覧会という名称のすべての事業の中で、その歴史上はじめて会場内に水田と畑地の農地が位置付けられる。元々、会場予定地はその昔の相模、武蔵の国境にあたる境川水系の境川支流にあたる相沢川の両岸に広がる田園地帯であった。その一部の土地は戦前の海軍による接収を経て、戦後は米軍の通信基地として占用もしくは土地利用制限がなされ、平成の御代にわが国に返還されたものである。そのよすがを残すべく、一帯は相沢川沿いの水田や畑地の一部を残し、復元しながら、横浜市民の都市公園として整備されるものであり、博覧会会場として使用の後は都市公園内に農地として存続され、市民の「農」への体験や関心を高める場として活用される予定である。
私は横浜の国際園芸博覧会を、「農」もしくは「農業」に対する国民の関心を飛躍的に高めるべき事業にすべきだと考える。今後の担い手対策のためにも、農業に係る事業規模の拡大やさらなる機械化、電子情報化などが不可欠であろう。と同時に、その高度化や集約化のみでわが国農地の存続が図られ、経世済民の根本となる、国民に対する安全で十分な食料を未来にわたって担保することができるとは思えない。
さて、どうすべきか。私は「国民皆農」と呼びたいが、一人一人がわが国の文化伝統や国土保全にまでつながる「農」の価値を再認識し、農業専従者はもとより、都市と農村の人的交流や一鉢から「農」を実践する運動の喚起を行う、それこそが横浜国際園芸博覧会の開催意義の大きな柱の一つではないかと考える。
ともすれば、博覧会などの事業はその会場、その会期での一過性のものと考えられがちである。事業主体は目標人数の達成と事業収支が一番の懸念事項である。しかし、園芸博覧会とは運動である。それまでの運動・活動の集大成であり、行き先は運動・活動のさらなる充実発展である。
大会としての横浜国際園芸博覧会は会期と場所を定めて2027年に横浜で行われる。しかし、その事業は限られた場所と時間で行うものではない。運動を広める日本列島園芸博覧会として開催することが求められる。幸い、農林水産省及び国土交通省において、横浜国際園芸博覧会と連動して日本全国の運動、すなわち啓発事業を進める連携プログラムの制度が始まった。会期と会場にこだわらず、開催2年前から、全国の公園、フラワーパーク、植物園、花の名所地、試験研究機関、企業・団体の社会貢献施設や研究所、さらには農業の現場などでの多様な連携プログラムの登録を期待したい。
横浜国際園芸博覧会では、現時点で概ねすべての都道府県による屋内もしくは屋外、あるいは両方の出展が見込まれ、既に出展期間や場所の調整に入っている。これらの出展に各地の農産物が含まれることも期待される。ドイツの国際園芸博覧会では各地の代表的な作物の出展がある。国際園芸博覧会ではないが、世界最高のフラワーショーと言われる英国のチェルシーフラワーショーの野菜の出展は圧巻である。各地の連携プログラムをこうした横浜国際園芸博覧会の各都道府県の出展と結びたいと思う。
全国のJAを見回すと、それぞれの地で、「農」への興味や関心を高める普及啓発の事業が行われている。例えば、「親子農業体験教室」など。それぞれのJAの特色を生かしつつ、既に行われている事業、もちろんこれを契機に新しい普及啓発事業を行う事もよいと思うが、これらを連携しながら、「農」への関心、ひいては「国民皆農」を実現しようではないか。
国際園芸博覧会。ご存知の通り、それなりの国や自治体の公金が投入される。横浜市が手を挙げて、会場とお披露目の場を提供してもらえる。この期を逃す手はない。
私が耕す農地は微々たるものである。たが、国際園芸博覧会とは運動であり、実践である。耕す理由はそこにある。
【編集部より】
賀来さんと私は千葉大学園芸学部の同窓です。小林一茶の句を通して、世界に誇るべき江戸の園芸を描いた園芸文化史上の画期的な一書である620頁に及ぶ『一茶繚乱―俳人小林一茶と江戸の園芸文化』(八坂書房)をまとめられ、2023年度の造園学会賞(著作部門)を受賞。自らも「邊庭(へんてい)」の俳号をもち、俳句結社「古志」の同人です。賀来さんは農協人文化賞を受賞された神生賢一JAやさと代表理事組合長の管内で農地を借りて実際に作物を生産しており、単なる観念論から国際園芸博覧会を準備しているのではなく、「この博覧会とは運動であり実践である」を身をもつて進めていることに感銘を受けます。(農協協会理事・加藤一郎)
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