【農協改革】中央会は再出発、安倍総理が強調2014年7月1日
政府は6月24日に閣議決定した「規制改革実施計画」と、同日に首相官邸に設置された農林水産業・地域の活力創造本部が決定した「活力創造プラン」の改訂版に農協改革を盛り込んだ。これで農協改革は正式に政府が取り組む政策課題となり、今後は、来年の通常国会に提出する農協法改正法案など関連法案の検討が焦点になる。政府が決めた規制改革実施計画でも「農協系統組織内での検討も踏まえて」結論を得る、とされており、JA全中の萬歳章会長は24日談話を発表し「ただちに自己改革の検討に着手する」と表明した。一方、政府としてどのような方針で臨むかが注目されるが、その焦点のひとつが「中央会制度」となる。
◆焦点の中央会制度 役割への理解必須
「農林水産業・地域の活力創造本部」は昨年5月、官邸に設置された。本部長は安倍総理。農水省だけでなく関係省庁が連携して農林水産政策全体を決める。「地域」の文言が盛り込まれているように、農業政策には産業政策だけではなく地域政策も欠かせないとの考えもある。
6月24日に同本部が決定したのが「農林水産業・地域の活力創造プラン」の改訂版だ。昨年12月に決定されたプランでは米の生産調整の見直しや農地中間管理機構の創設による農政転換を盛り込むとともに、この6月には農協や農業委員会のあり方を含めた農業改革について、産業競争力会議と規制改革会議の検討をふまえて改訂することとされていた。
改訂版には農協改革について与党がとりまとめた「農協・農業委員会等に関する改革の推進について」をそのまま別紙として盛り込み、これを「展開する施策」として明記した。一言でいえば単協が経済事業中心の事業運営を行い、これを連合会・中央会が適切にサポートするあり方に見直せというものだ。5年間を改革集中期間として、自己改革するようJAグループに「強く要請する」との文言も明記された。
改訂プランの決定を受け安倍総理は次のようにあいさつした。
「農協については60年ぶりの抜本改革となる。これにより中央会は再出発し、農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないこととなる。改革が単なる看板の掛け替えに終わることは決してない。地域の農協が主役となり、それぞれが独自性を発揮して農業の成長産業化に全力投球できるようにしていく」。
(写真)
6月24日の「農林水産業・地域の活力創造本部」(首相官邸HPより)
◆単協のサポート、農業振興に必要
総理の発言は中央会の廃止をただちに意味するものではないが、現行制度の存続は認めない意向まで踏み込んで示したといえる。
こうした総理の意向については、改訂プラン決定前の20日の本部会合ですでに林農相が「総理からとくに強い指示のあった農業協同組合の抜本的見直しについて」とあえて強調し、「中央会は新たな役割・体制を検討したうえで、農協法に基づく現行の中央会制度から新たな制度に移行するので、現行の中央会制度が存続することはない」と発言している。
これに対してオブザーバーとして出席していた自民党の高市早苗政務調査会長は、農協改革については党でも「大変精力的に議論をしてきた」と強調し、JAグループの自己改革案を前提にした見直しを進める与党の考えを尊重すべきとの姿勢を滲ませた。その一方、麻生太郎財務大臣は「農業者の所得向上につなげるため、単位農協の自由な経営を制約しないような制度改革となるようしっかり具体化を」などと注文をつけた。政府が正式に政策課題とする段階になってもなお、相変わらず単協の経営を中央会が制約しているという誤解があるとしか思えない発言だ。
これらもふまえて、JA全中の萬歳章会長は次期会長候補としての所信説明で(6月24日)、「中央会は単協が独自性を持って経営を行っていることを前提に、中央会でしかできない固有の役割を発揮している」と強調した。組合員のための農協運営が行われているかどうかの視点に立った監査と経営指導を一体として行う体制によって一つも農協破綻を招いていないことや、米の生産調整と全国的な取り組みが急務となっている飼料用米の推進など中央会の「総合調整機能は新農政にとっても不可欠」と指摘し、こうした役割を果たすためには「任意組織ではなく農協法で明確に位置づけられるべきである」と主張した。
また、国内外の協同組合運動と連携し「ともに助け合う社会」を広げるためも協同組合セクターのナショナル・センターの必要性も指摘した。
中央会については自民党が党としての決定を行った6月10日、農協や農業委員会改革についてのPT(プロジェクト・チーム)座長を務めた西川公也氏と森山裕氏は記者団の質問に対して以下のように話したことを改めて紹介しておきたい。
◆中央会の位置、農協法を念頭
Q:中央会制度は廃止になるのか、ならないのか?
森山氏:まったくなくなることはない。なぜそういう質問が出ますか。素直に読めば、新しい組織に移行するとなっている。それも団体の議論を経ていくということにもなっている。全中がなくなるとか、県中がなくなるとか、そんなことはまったく考えていない。
西川氏:その通りであって、これから自己改革案をつくっていただいて。(中央会が)必要なことは誰も分かっている。どういう改革案が出てくるか、それらを私どもと調整をしながら農業の発展に尽くしてもらいたい。こういうことであって、なくすなくさないの議論ではなく、どんな改革をやってもらうか、われわれもどういう改革をするよう意見交換するか、これが真意だ。
Q:自己改革に求められる視点は?
森山氏:農家の所得をいかに増やしていくか、そして農村集落をいかに活性化するかだ。
Q:自己改革で進むと思うか?
森山氏:改革は進むと思う。農協は組織だから、やはり組織で議論をしていただくことは大事なこと。組織の議論を抜きに方向づけるということは慎まなければいけない。
西川氏:われわれも議論をしたが、とくに県の中央会が果たしている役割は大きいという意見では一致しているので、中央会制度はなくなるということはない。とくに都道府県の中央会は農業者と密接に仕事をやってきている。都道府県の行政ともうまく連携をとれているので、これはもともと組織としては残す、残したいとこういう議論をしてきた。どういうかたちになるか、自己改革案を含めて、よりよいかたちにしていきたい。
森山氏:昭和29年のときと、今は大きく変わっている。それは中央会の関係のみなさんも理解している。新しい農政に向かってどういう役割を果たしていくのか、を中心に議論をしていただけると思う。今の法律が求めているままで残るということではなくて、新しい役割を担っていくかたちで議論が始まるだろうと思う。
Q:監査や指導権はどうなるのか?
森山氏:監査については私はいい仕事をしてきたと思う。ただ、必ず全中の監査でなければいけないのかというところは、やはり単協に選択権を持たせるということは考えたほうがいいのではないか。それは単協の判断に任せるということだと思う。
指導権とか、調整権というのもしっかり考えていかなくてはならないが、今からどういう役割を担うのかということからスタートするわけだから、そのためにどういう法律の枠組みをつくるかというように話が進んでいく。どういう役割を担うかということの話を詰めないと次の話をしていけないのではないか。
Q:農協法で位置づけることに変わりはないか?
森山氏:農協法上で位置づけていくことになると思う。
(関連記事)
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