農業所得の増大へ 地域戦略を例示2015年4月9日
3月31日に閣議決定された新たな食料・農業・農村基本計画ととともに農水省は「農業経営等の展望について」も決定した。そのなかに生産現場で期待の高い「農業・農村の所得倍増」も位置づけられている。食農審議会の検討を経て、農水省は「農業所得の増大」と「農村地域の関連所得の増大」に分けて施策を整理した。
◆所得を品目別試算
「農業・農村所得倍増」は25年4月、自民党農林部会が参議院選挙前に「農業・農村所得倍増目標10か年戦略」を取りまとめ、これを契機に農政の目標のひとつとなった。その後、25年12月、政府の「農林水産業・地域の活力創造プラン」、さらに26年6月の「日本再興戦略」に「今後10年間で農業・農村の所得倍増をめざす」ことが盛り込まれた。日本再興戦略は閣議決定事項だ。
このため政府は新たな基本計画自体に“所得倍増計画”を盛り込む方針だったが、食農審企画部会で、「農村」の定義自体が明確でないことや、「倍増」の実現可能性を疑問視する意見も出されたことを受け、基本計画本体ではなく、関連施策として「農業所得」と「農村地域の関連所得」の分けて対応方向を示した。
「農業所得」の増大については、米、野菜、畜産など各品目ごとに、生産額の増大と生産コスト縮減に向けた課題を示し、それらが解決された場合の10年後(平成37年度)の農業所得を試算した。合計では25年度の2.9兆円が37年度に3.5兆円となるとの試算だ。
たとえば、主食用米は中食・外食などのニーズに応じた生産と安定取引、輸出の促進など、大規模化と直播栽培や情報通信技術を活用した生産管理体制といった課題を挙げている。これらが実現することによって25年度の主食用の農業所得6130億円が37年度に6460億円に増えると試算した。
主食用の米の生産努力目標は、飼料米や米粉用と違って需要の減少を見込み、25年度の859万tから37年度は752万tと縮減方向で設定されているが、規模拡大などの生産コスト削減で所得は増大できるとの試算となっている。試算の前提となっている価格はどの品目も25年度。また、主食用米のこの試算では現行の10aあたり7500円の直接交付金は廃止されるとしてゼロを前提としている。
ただ、26年産の米価は大きく下落している。30年産からは生産数量目標の配分がなくなることもふまえれば、新基本計画のスタートにあたって、すでに需給改善と価格回復が所得増大の大きな課題であることが示されているともいえる。

◆地域特性を生かす
一方、「農村地域の関連所得」は加工・直売や輸出、都市・農村交流、医福食農連携など今後成長が期待できる7分野を対象にして、対応方向を示した。そのうえで10年後に見込まれる分野ごとの関連所得を試算し積み上げた。それによると25年度の1.2兆円を4.5兆円にできると試算している。合計では25年度の4.1兆円が37年度に8兆円とほぼ倍増ということになる。 こうしたマクロの展望のほか、おもな営農類型の所得増大に向けた経営発展の姿を「農業経営モデル」(モデル数は35)として示した。また、地域農業の発展に加え、関連産業との連携よって雇用や所得が創出される姿を「地域戦略」として例示した。現場でどんな営農類型を選択し、さらには地域としてどのような取り組みが有効なのかを具体的にイメージできるように考えたという。
地域戦略では「畜産クラスターによる収益性の向上」、「加工・業務用野菜の供給」、「集落営農法人での加工等の展開」、「交流を契機とした地域農業の振興」など20例が示されている。農水省によると、これらはすでに地域で実践されている工夫や努力をふまえた「現場の宝」の事例だという。
4月7日に農水省が開いた新基本計画についての全国説明会では出席者から「現場がいちばん期待したのは所得倍増政策」と指摘した。
農水省は「倍増の方程式はなかなか簡単に描けるものではなかった」とこの間の検討を振り返り提示した営農類型モデルや地域戦略事例を参考に「さまざまな施策を組み合わせることが重要。それぞれの地域特性を考えて検討を」と説明した。
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