米の備蓄制度 根本見直し議論を 産地の声2025年1月27日
農水省は1月31日の食糧部会に政府備蓄米を一定期間後の買い戻し条件付きで全農など集荷団体に売り渡すことができるよう盛り込んだ「基本指針」(米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針)を諮問する。諮問どおり答申を受ければ、条件付きで備蓄米の売り渡しが可能になる。発動するかは農水省の判断だが、産地や流通関係者から「今ごろ? なぜもっと早くやらなかったのか」、「備蓄米は飼料用米に販売するという制度ではなかったのか」など批判やとまどいのほか、「備蓄制度を根本的に考え直すべきだ」との声も聞かれる。
価格下げの見込みも
埼玉など近隣の産地で米を集荷販売する業者は、備蓄米が主食用として販売される見込みとのニュースで「卸間売買の仲介サイトは売り一色になっている」と話す。
今のところ価格は高く埼玉、茨城、千葉の米で60kg4万9000円、新潟コシヒカリで同5万円超まで高騰しているが、「ここからジリジリと下がるのではないか。農相の発表には3000円から5000円下げる効果はあると思う」と見ており、「値上がりを見込み、抱え込んでいる業者から米を吐き出させようという目論見があるのではないか」と話す。
ただ、農水省は今回の措置の発動について「価格は判断基準に入らない」としている。24年産米の生産量は23年産より18万t増えているが、一方、全農などの集荷量は前年比で17万t減となっていることから、中食や外食から米不足が叫ばれている。今回の措置は、米価高騰ではなく、こうした需給状況を改善するための手当だとする。
そのため売り渡しを受けた集荷業者から一定期間を経た後に米を買い戻すことを条件とする。備蓄米の販売によって主食用米の供給量が増えれば米価が下落することが懸念されるが、買い戻すことによって「需給への影響を極力ニュートラルにしたい」とする。
農水省は、仕組みの詳細は今後検討するが、売り渡しを受けた集荷業者には、一定の期間を経た後に同量・同等の米を政府に売り渡す義務が課されることになる。
集荷がカギ
仮にこの措置が発動され全農などが政府備蓄米の売り渡しを受けて卸や実需者に供給した場合、いずれ同量同等の米を政府に売り渡す必要がある。
では、政府に売り渡すための集荷が産地でできるのだろうか。
あるJA関係者は「JA段階では全農も含めて卸などと結びつけして契約している。JA段階で政府が買い戻すための集荷はできないだろう」と話し、各県段階で結びつきのない米を積み上げていくしかないのではないかと話す。
一方、産地では政府備蓄米は主食用以外への生産調整の一環として取り組まれている。主食用米の価格が下落していた時期は、政府備蓄米の作付けに取り組み、需給環境の改善を図った。生産者が生産するかどうかは政府が提示する価格水準によるが、生産者にとって確実な手取りの一つとなった。
ある米産地のJA関係者は主力品種の価格が高かったときは、価格水準の低い雑銘柄を政府備蓄米に回すなどで手取りを確保してきたという。2025年産米の政府備蓄米の播種前入札はこれからで価格水準が明らかではないが、米の価格高騰を受けてそれなりの水準が提示されれば政府備蓄米の取り組みも進むとみられる。そのため政府が買い戻すため、政府備蓄米の作付けを増やすということも考えられる。ただ、「それを個々の生産者にどう割り振りしていくのか、イメージが湧かない」と話す。
そのうえで「もともと棚上げ備蓄制度は古米となったら飼料用米に販売するということだったのでは。果たして米は全国で足りないのかどうかも分からないなか、備蓄米を出すとなれば国民はこういうものなんだと思ってしまう。根本的に備蓄制度を考えなければならないでのないか」と話す。
水田農業政策 見直しを
別のJA関係者は、農相や農水省は新米が出れば価格は落ち着くと言っていたが「あれは何だったのか、今さら? と呆れている」と話す。
農水省の見通しははずれ相対取引価格は10月から3か月連続で高騰し、年産取引価格は60kg2万3715円となり1990年以降、最高となった。
米を抱えている人が価格をつり上げており、消費者に不安を与え、輸入米も増えた。「生産者と一緒に米を守ろうという消費者との関係が壊れてしまった」として出来秋の時点で備蓄米を市場に出すべきだったと指摘する。
一方、米の生産について現場では収量も1等比率も地域によって大きな違いが出ており、気候変動による病害虫、水不足、さらには耕作者の急速な減少で「地域の水田に本当に米づくりの能力がどれだけあるのか心配だ。備蓄制度だけでなく、水田農業政策から考え直さなければならない時期に来ている」と強調する。
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