初動5年で農業の構造改革 28の目標掲げ毎年検証 次期基本計画2025年1月30日
農林水産省は1月22日の食農審企画部会に次期基本計画の骨子案と目標の検討案を示した。
あるべき姿から目標設定を
次期基本計画は初動5年間で農業の構造改革を集中的に進めるため、計画期間は5年間とする。
食料安全保障を確保するため食料自給率だけでなく、農地面積、担い手への農地集積率、肥料資源の国内資源利用割合など28の目標を掲げ、その目標達成度を検証するためのKPI(重要業績評価指標)を設定する。そのうえで少なくとも年に1回は食農審企画部会で検証し、施策や目標値を見直すなどのPDCAサイクルを回すことを計画の冒頭に明記する。
企画部会でJA全中の山野徹会長は「幅広い項目で目標とKPIを設定するのは画期的」と評価した。ただ、現行の基本計画では2030年にカロリーベース自給率を45%に引き上げるとの目標を設定しているが、今回は5年後の目標を示すとしており、その数値が焦点の一つとなる。
山野会長は「現場では期待が高い。少なくとも目標が下がったと受け止められないよう、10年後目標を設定するなど中長期目標の設定も必要だ」と指摘した。
また、目標の設定にあたっては20年先、30年先の日本農業のあるべき姿を示したうえで、そこに向かう5年後の目標として示すべきだと意見や、目標達成までに時間を要するKPIと、数年のスパンで見直すべきKPIもあるなど柔軟に設定すべきとの意見もある。
日本生協連の二村常務は「目的」の取り違えが起きないよう設定すべきと強調した。たとえば、食品アクセスの確保のために「フードバンク活動を行う団体の食品取扱量の拡大」をKPIとして設定するとしている。しかし、フードバンクが取り扱う食品の量が増えることは、そもそも食料を十分に入手できない人が社会に増えていることを意味することにならないか。「国民一人一人の食料安全保障」という基本理念の達成を測るKPIになるのかという問題だ。
輸出重視への違和感
基本計画の構成について農水省は主要テーマを①わが国の食料供給、②輸出の促進、③国民一人一人の食料安全保障・持続可能な食料システム、④環境と調和のとれた食料システムの確立・多面的機能の発揮、⑤農村の振興の5つで整理し、この順に本文を記述していく。農水省は改正基本法の理念を実現する観点で構成したと説明する。
しかし、委員からは異論も。日本生協連の二村常務は「②の輸出より③のほうが先ではないか。まず国内の食料自給を考えるのが市民感覚」と指摘した。御茶ノ水女子大の赤松利恵教授は「基本法との整合性を考えると③の国民一人一人の食料安全保障が最初にあるべきではないか」と疑問を呈し再考を求めた。
これについて農水省は今回の基本計画は、構造転換を短期間にどう進めるかが「最重要の力点」として、そのために品目ごとの生産構造を示し、そのなかで生産力を維持するために輸出が密接に関係すると整理していると説明した。また、輸出額は国内生産額のわずか2%で10%を超える輸出額の諸外国と比べれば少なく、輸出を通じて農業所得の確保の重要性も強調した。ただ、委員からの指摘を受け基本計画の構成について「もう一度何ができるか考えたい」と述べた。
企画部会は2月5日に基本計画の骨子案を議題に開かれる。
基本計画で掲げる目標(例)
主要テーマ1:我が国の食料供給
【国内の農業生産の増大】
◯食料自給率(飼料自給率を含む)
(KPIの例:品目ごとの生産量・輸出量、単収、作付面積、国内消費仕向量。15ha以上の個別経営体の米の生産コスト。国産飼料の生産量など)◯肥料資源の国内資源利用率
◯肥料原料の備蓄の確保(りん安・塩化加里)
◯種苗の安定供給の確保【安定的な輸入の確保】◯輸入の安定化
【備蓄の確保】
◯食料の備蓄の確保(米・麦・大豆)
◯飼料の備蓄の確保(飼料穀物)
【食料供給能力の確保】
◯担い手への農地集積率◯農地面積の確保
◯農業の成長産業化や国土強靭化に資する農業生産基盤の強化
◯スマート農業技術を活用した面積の割合
主要テーマ2:輸出の促進
◯農林水産物・食品の輸出額
◯食品産業の海外展開による収益額
◯インバウンド(訪日外国人旅行者)による食関連消費額
主要テーマ3:国民一人一人の食料安全保障・持続可能な食料システム
【食品産業】【合理的な価格形成】
◯食料システムの持続性の確保
【食品アクセス】
◯食品アクセスの確保
主要テーマ4:環境と調和のとれた食料システムの確立・多面的機能の発揮
【環境と調和のとれた食料システムの確立】
◯温室効果ガス削減量
◯化学農薬・化学肥料の使用量低減
◯有機農業の取組拡大
◯事業系食品ロスの削減【多面的機能の発揮】
◯農業生産活動の継続を通じた多面的機能の発揮
主要テーマ5:農村の振興
【地域の共同活動の促進】
◯地域の共同活動の促進による農業生産活動の継続
【多様な人材が農村に関わる機会の創出】
◯農村関係人口の拡大がみられた市町村数
【経済面の取組(所得向上と雇用創出)】
◯農山漁村地域において創出された付加価値額
【生活面の取組】
◯農村関係人口の拡大の取組が移住・定住につながった事例のある市町村数
【中山間地域等の振興】
◯中山間地域等の振興
【鳥獣被害対策】
◯鳥獣被害の防止
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日