セーフティネットの強化や国民の農業理解必要 自民の構造転換推進委2025年9月11日
自民党が新設した農業構造転換推進委員会は9月10日に第1回会合を開き、JA全中やJA全青協などからヒアリングを行い意見交換した。
農業構造転換推進委員会
同委員会は新たな水田政策を議論する。作物ごとの生産性向上支援や、セーフティネット対策、農地の集約化・大区画化による生産コスト削減などが課題となる。
JA全青協の北川敏匡会長は「今までの経営努力を水の泡にしないこと」を求めた。農業者はこれまでもコストダウンや農地の集積・集約を進めてきているが、今後、米価が下落して「コスト割れになればわれわれは何をしていたんだということなる」として、需要に応じた生産で経営を安定させるため、米の需給見通しや作況の精度の高度化などを「早期に示してほしい」と要望した。また、食料システム法のもとで取り組むコストを考慮した価格形成のためのコスト指標の検討にも期待した。
また、10年後、20年後に農業者として農産物を「作り続けることができるかどうか」が大きなテーマだとして、そのためは作物、農地、インフラ、セーフティネットなど整理・整備されなければならないさまざまな課題があると指摘し、これらの積極的な協議を求めた。
国民の理解を深める
さらに強調したのは「国民の食と農に対する理解を深める」ことだ。北川会長は「この国で生産される食料がどんな状況にあるのか、日本人として食、文化、国土に対してどう振る舞うべきかもう一度問い直すべき時ではないか」と訴え、国民の課題として農業が抱えるさまざまな問題点が改善されていけば「10年後、20年後の農業は明るいものになる」と話し、今後も同委員会の場に地域の意見を発表していきたいと述べた。
JA全青協からは水田農業部会座長の湯ノ口詢也理事も出席した。
湯ノ口理事は現在は生産コストに見合った米価となっているが、「安いときには1俵9000円台のこともありコスト割れしていた。大規模農家から小規模農家までよく耐えて頑張ってきたと思う。それで消費者が躊躇なく米を買えていたことは決して忘れてはならない」と強調し、JA青年組織では消費者との交流に力を入れ、農業の実態への理解醸成に取り組んでいることを報告した。
輸入依存の麦・大豆増産も
また、需要に応じた米の増産とともに「輸入依存作物の麦、大豆の重要性を考えなければならない」と話し、実需者が望みに応えて国産を増やすとともに、担い手に農地が集積されることがますます見込まれる今後は、米に加えて麦・大豆を営農体系に組み込むことで「年間で雇用ができる」など、地域の農地を維持する農業経営にとっても必要になると指摘した。
また、省力化技術について、最近は節水型乾田直播が注目されているが、水田の機能を活かした湛水直播や、従来の田植えについても省力化が検討されるべきなどと話した。
JA全中の山野徹会長は、当面の米の需給と水田農業経営の安定に向けて「備蓄米の機動的で適切な買い戻し、買い入れとセーフティネットの充実、強化が重要だ」と述べるとともに、水田政策の見直しについては「生産現場の声を十分に聞いたうえで早期の見直し方針を示したほしい」と要望した。
また、全国農業会議所の國井正幸会長は、「地域計画」の推進や見直しに向けた市町村の体制確立を支援する予算確保と国の支援を求めた。
政府全体に理解があるのか?
出席議員からは食育も含め、今回の農業構造転換の必要性とその支援策についての国民理解が重要になるとの意見とともに、藤木眞也参議院議員は「政府内の理解醸成が極めて大事だ。とくに財務省」と強調した。
江藤拓委員長は、政策立案のためには「エビデンスが大事」なことから、生産量や需要量など統計調査の精度を上げていくことが短期的な対応として重要だと話した。とくに農水省が実施した米の流通事業者への実態調査は7万業者のうち2割程度からしか回答が得られなかった。実態が十分に把握できたとはいえないが、食糧法では報告義務が課されておらず、江藤氏は実態を把握するためには「法改正も含めて議論しなければならない」と提起した。
水田政策の見直しでは品目別に支援策を検討する方向となっているが「たとえば、麦・大豆の(交付金)単価はこれでいいか。大胆に(議論を)やりたい。小手先では失望が生まれるだけ」などと話し、農地の大区画化や共同利用施設の再編などのために5年間で2.5兆円の予算を別枠で確保することについても「議論の結果、2兆5000億円では足らないという話になってもしかるべき」と予算拡大も視野に入れる。
江藤氏は開会のあいさつで「農業の構造を改革するのはこの国の安全保障を確立するため。国民に安心してもらえるため覚悟を持ってこの議論をしていきたい」と話したが、党の議論をどう国民に発信するのか問われる。また、備蓄米放出も含めて米の在庫量が増える見込みのなか、米価暴落への懸念もあり、農業者にとっては実効性あるセーフティネットの確立も早急な課題だ。
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