「鳥獣との闘い」から「過疎・人口減との闘い」へ 鳥獣被害対策で視座転換、専門家ら議論 2026年2月16日
深刻化する鳥獣被害対策。その問題解決には視座の転換と枠組みの拡大が迫られているのではないか。2月12日、東京都内で開かれた第13回全国鳥獣被害対策サミットで、専門家、自治体担当者らが経験を踏まえて問題提起した。

獣害対策は目的ではなく手段
野生鳥獣による農作物被害は2021年頃まで漸減していたが、その後増加に転じ、2024年は188億円にのぼった。シカ79億円とイノシシ45億円で、被害額の3分の2を占める(グラフ参照)。鳥獣被害が離農の引き金になるケースもあるが、離農すれば「農作物被害」ではなくなる。数字に表れている以上に被害は深く、しかも2025年はクマによる死者が過去最多を更新した。
こうした状況の中、「従来の枠組みを超えた対策」を考えようと、鳥獣被害対策サミットは初めて、東京、大阪の2会場開催となった。東京会場での鳥獣被害対策の事例講演、パネルディスカッションを報告する。
特定非営利法人里地里山問題研究所(さともん)代表理事の鈴木克哉さんは、鳥獣害が解決しない原因として、①自治体にビジョン、戦略、対応体制が不足している、②現状の問題解決のビジョンに限界がある、の2点を挙げた。多課題を抱える地域にとって、獣害対策は目的ではなく手段である。「獣害の激化→将来展望が持てない→担い手不足・交錯放棄地増→獣害の激化」という悪循環をどう好循環に変えていくか。鈴木氏は、外部人材を呼び込んで「獣害を減らし→経済を活性化→後継者・新規就農者増」の好循環を実現していった兵庫県丹波篠山市でのさともんと地域の人々の取り組みを紹介した。

身の丈から始め土壌を耕す
島根県美郷町・美郷バレー課の安田亮さんは「鳥獣被害問題を鳥獣被害対策で解決する時代ではない」とし、「鳥獣と人間との闘い」から「過去・人口減少の波との闘い」に発想を転換し〝人〟に焦点をあてた取り組みを提起した。同町では、有害鳥獣駆除から資源利活用、地域づくりを経て産官学民の集結、共創(美郷バレー構想)へと取り組みが進化してきた。安田さんはその肝を「視座を高く、身の丈から始めて土壌を耕し広げていく」と語った。
問題解決型から価値創造型へ
神奈川県大磯町産業観光課の弘重穣さんは、住民主体で鳥獣を寄せ付けない・増やさない地域づくりの歩みを紹介しつつ、「問題解決型」から「価値創造型」への転換、人づくりが重要で行政は実践的な学びの場を設定する、ファシリテーター、キュレーター、ネットワーカーが重要と提起した。鳥獣害防止だけでなく営農管理も併せ、果樹の低面ネット栽培をすると高齢でも剪定、収穫がしやすく「100歳まで楽しめる農業」になるとか、里山の古道を復活させる活動が結果として獣を寄せ付けない環境づくりになる、集落点検を「アラさがし」にしないよう「宝さがし」と名付けるなど、創意あふれた取り組みに参加者は聴き入った。
地域のニーズと民間のシーズのマッチング
日本総合研究所の大島裕司さんは、自律協生社会をめざして政策提言から事業化支援まで取り組むシンクタンクの立場から、自治体アンケート、ヒアリングから浮かんだ課題を解説。「JAが中心になりスピード感を持って取り組んでいる」例にもふれつつ、基礎自治体単独の対策は限界にきているとし、「令和の里山」緩衝地帯をつくるための課題を説明した。地域の悩み(ニーズ)と民間の技術、サービス(シーズ)のマッチングが鍵になるとし、自治体は「いかに民間の裁量を増やし、民間側が新たな対策を積極的に開発し、それを実装・展開しやすい環境を整えることこそが重要」と投げかけ、その手法の一つとして「成果連動型委託」(鳥獣対策実施事業者は自治体と契約するが、まずは民間資金で対策を実施し、成果が上がったら自治体が対価を払うスキーム)を挙げた。
住民の一人になって
その後、丹波篠山市獣がい対策支援員の木下麗子さんも加わって、ディスカッションが行われた。管理栄養士でもある木下さんは、子育てをしながら「おいしい食べ物ができる現場を見せたい」と耕作放棄地を耕すさともんの活動に参加。「何かあって食べ物が届かなくなると都市の人がまず困る」と気づき、丹波篠山市に移住して対策に関わるようになった。「人が動かないと何も進まない。住民としてちょっと聞きに行くようなコミュニケーションが必要だ」と話した。
成果連動型委託への民間資金の出し手について大島さんは、「自治体の担当者には『一人で悩むより、民間の力も使って』と伝えたい。鳥獣被害を防ぎたい損害保険会社やホテル、温泉組合が考えられ、クラウドファンディングを募ることも考えられる。医療、介護分野が多い」と説明した。
人手不足で忙しいからこそ
対策が成功するための課題について安田さんは「国の言うことではなく、地域で考えたことが成功する。一番難しいのは利害関係の整理だ」と話した。
みんな忙しい役所で連携を進める秘訣について、弘重さんは「自分の部署にも大事とわかれば考えてもらえる。忙しくて大変だからこそ、獣害対策と林業振興を兼ねる施策は効果的だ」と指摘した。
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