農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

2014.04.07 
(83)忘れてはならない自給率目標の経緯一覧へ

・企画部会の問題点
・50%目標に根拠あり
・必要な施策は実現したか
・栄養バランスも課題

 「基本計画」見直しが進んでいる。焦点の一つは、基本法が"その向上を図ることを旨とし"て定める(基本法第15条二項3号)ことを求めている食料自給率の扱いである。現行基本計画では周知のようにカロリー自給率20年50%を目標にしているが、3月26日の農政審企画部会で"農水省は現状を報告し、カロリーベースは2012年度で39%にとどまり「目標から乖離(かいり)している」
と整理。自給率低下の要因は「消費変化に国内の生産体制が対応できなかったため」とした"そうだ(3・27付日本農業新聞)。

◆企画部会の問題点

 自給率低下要因の見方については、“生産体制が対応できなかったという一面だけ”見るのは不適当という萬歳全中会長の意見があったらしいが、この点は後でふれるとして、まず問題にしたいのは50%という現行目標のたて方について、生源寺名大教授が“現行目標が「50%の数字ありきで設定されている」と指摘。「持てる資源を全て投入した時に初めて可能になる高い目標」との整理に対し、「目標として妥当なのか疑問」としたことについてである。

 

◆50%目標に根拠あり

 50%という数字は、基本計画上の目標数値としては確かに民主党政権化でつくられた現行計画の中で初めて登場した数値ではある。が、50%という数字そのものは基本法に基づいての最初の「基本計画」(00年3月)のときから、“基本的には食料として国民に供給される熱量の5割以上を国内生産で賄うことを目指すことが、適当である”とされていた数値である。が、最初の基本計画策定時の判断は、目標年次である2010年までには無理ということで45%になったのだった。
 その50%がクローズアップするのは、世界的な穀物価格急騰、食糧暴動、主要穀物輸出規制などがあった08年に持たれた「国連食糧サミット」での福田総理の演説からだった。“世界最大の食料純輸入国であるわが国としても、自ら国内の農業改革を進め、食料自給率の向上を通じて、世界の食料需給の安定化に貢献できるようあらゆる努力を払います”という総理の国際公約を受けて、若林農相が50%実現の工程表づくりを事務当局に指示、工程表が出来上がったのが08年12月だった。それが当然ながら民主党政権下の事務当局には引き継がれていたのである。
 こうした経緯を念頭に置くなら、“数字ありきで設定した”などとは農政審委員としては言うべきではないと私は思うのだが、如何なものか。
 「持てる資源を全て投入した時に初めて可能になる高い目標」など「目標として妥当なのか疑問」という発言にも問題がある。問題にすべきなのは「持てる資源を全て投入」できるような施策が目的達成のためにとられたのかどうか、である。その吟味こそが次期計画を立てる農政審の役割だろう。

 

◆必要な施策は実現したか

 その点は萬歳全中会長の発言にもかかわる。
 “一面だけ”をみるのは不適当する萬歳会長の発言は“農業経営や政策からの視点も必要”と続いていた。その通りである。特に施策の検討が大事だ。例えば08年88万トンだったのを20年には180万トンにする計画だったのに、75万トンになってしまった小麦については、“良質な水稲晩生品種の育成による広範な水田二毛作の普及と、作業効率や排水性の向上のための水田の団地的な利用と汎用化”が“克服すべき課題”の一つにあげられていたが、実際にそのためにどういう施策が取られ、どういう成果をあげたのか、が吟味されるべきだろう。
 自給率50%実現のためには、20年になお耕地面積461万haを維持し(08年463万ha)、耕地利用率を108%に高める(08年は92%)というのが現行基本計画である。が、2010年で耕地利用率は変わらないが耕地面積は460万haを割って459万haになっている。耕地減をくい止め耕地利用率を高めるためには、何をしなければならないか。それこそ農政審が第一に究明すべき課題だろう。

 

◆栄養バランスも課題

 もう一つ、今回の農政審で究明してもらいたい重要問題の一つに、PFC栄養バランスの問題がある。「基本計画」では08年P13%、F29%、C58%だったのを、20年P13%、F27%、C60%とする目標を掲げている。脂質摂取改善計画である。が、昨年の農業白書は1965年、1980年、1990年、2000年の各年度のPFCバランスを示した上で、“平成23(2011)年のたんぱく質(P)、脂質(F)、炭水化物(C)の構成比(PFCバランス)について、米を中心として、水産物、畜産物、野菜など多様な副食から構成され、栄養バランスに優れた「日本型食生活」が実現していた昭和55(1980)年度と比較すると、脂質の割が3.1ポイント上昇する一方、炭水化物の割合が3.1ポイント低下しており、栄養バランスの崩れが見られます”と警告していた。この警告に対して、『和食』が無形文化遺産になったいまこそ、明確な改善指針を示すことを、基本計画の重要課題とすべきではないか。

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