農政:ウクライナ危機 食料安全保障とこの国のかたち
【ウクライナ危機!食料安全保障とこの国のかたち】岸田内閣の経済被害への「危機意識」は皆無(2) 藤井 聡2022年3月17日
ロシアのウクライナへの侵攻で、多数の犠牲者が出る深刻な事態が続き、穀物市場で小麦などの価格が急上昇している。こうした事態に日本政府は臨機応変に対応していると言えるのか。藤井聡・京都大学大学院工学研究科教授に寄稿してもらった。
16日の(1)から続く
京都大学大学院工学研究科教授
藤井聡 氏
写真:内閣官房HPより
ところで岸田氏が、「いま行っている激変緩和措置」と言っているのは、ガソリン代の補助金の事だ。
全国平均ガソリン価格が1リットル170円以上になった場合、1リットルあたり「25円」(かつては5円)を上限として、燃料油元売りに補助金を支給する、という仕組みだ。この制度は、上述のように「燃料油元売り」に対する補助だから、その販売価格にそのまま反映される保証はない。だから、その補助が農家を含めた食産業にどの程度の効果を持つのかは未知数なのだ。だからこそ岸田氏は、「原材料費の価格高騰について、進めている激変緩和措置などの対策の効果を見極めながら考える」という逃げを打っている訳だ。
ただしここで重要なのは、岸田氏が言う激変緩和措置は、単なるガソリン価格の高騰対策に過ぎないという点だ。
今、食産業が直面しているのは、ガソリン代の高騰という危機だけなのでなく、小麦を中心とした輸入食品の価格高騰なのだ。
そもそも国内で消費される小麦のうちおよそ9割は輸入で、安定的に確保するため政府は一括して調達し製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直している。そしてこのウクライナ情勢の煽りを受けて、小麦価格が17.3%引き上げることを決めたのである(令和4年3月現在)。この価格は2008年10月期以来、過去2番目に高い水準となる。そもそも、ロシア、ウクライナで全世界の小麦輸出量の3割を占めているが、この供給が止まる事になったのである。日本はロシア、ウクライナと小麦について直接貿易しているわけではないが、小麦の供給量の下落を通して、日本が直接貿易しているアメリカ、カナダ等の小麦輸出価格が高騰したのだ。
だから、岸田氏がどれだけガソリン価格についての激変緩和措置をやろうが、この小麦価格高騰に対する対策には何らなっていないのであり、食産業はこの価格高騰のダメージをそのまま被る事になるのは、100%間違い無い。
にもかかわらず、この小麦価格の高騰に対する対策を、準備するかどうかは、ガソリン価格についての激変緩和措置の効果がどれくらいあるかどうかを見極めてから考えると、岸田氏は言っているのである。
どこまで果てしなく、岸田氏には危機感が欠如しているのだろう。
この岸田氏の恐るべき及び腰は、偏(ひとえ)に、財政当局に気を使っているからに他ならない。
この小麦価格の高騰に対する最も効果的な対策は、補助金の支給だ。
しかし、そんな事を総理大臣程度の限定的な権限しか所持していない人物が財務省にお伺いを立てずに勝手に決めてしまっては、後々財務省から批判され、今後の政権運用に支障を来してしまうかも知れない――岸田氏は、そうした財務省におびえ、今後の政権運用に支障が生じてしまう事を恐れているからこそ、小麦価格の高騰対策についての抜本的な対策について、超弩級に慎重な態度を崩してはいない――そうとでも考えなければ、こうした岸田氏の及び腰には説明が付かないのではないか。
そういう岸田氏であるから、このウクライナ情勢の煽りを受けた小麦価格高騰の最も抜本的な対策である「小麦自給率の向上」という対策を長期的に行う様なこともやらないとしか思えない。それをしようとすれば、大規模な国費が必要になるからだ。
そもそも岸田氏は、国民がコロナ禍で苦しんでいる令和4年1月の時点で、早々とプライマリーバランス「25年度黒字化」目標維持を表明している。つまり、税収以上に政府支出はしないように、徐々に支出を削っていきます、ということをコロナ禍のまっただ中で表明したわけだ。
岸田氏は、この財政規律の目標を守りたいからこそ、日本の農家や食産業、果ては国民経済を守る事を蔑ろにしているわけだ。つまり、政府のお財布の事情を、国民の暮らしの窮状よりも大切にするのだ、と言っているのだ。
この岸田氏の緊縮的態度が無い限り、岸田氏の「政府がオカネを国民に使う事を準備することを検討することを検討します、そのために情況、とりわけ今やってる対策の効果を、緊張感をもって見極めて参ります」というような緊張感のまるで無い発言は繰り返され、その間、日本国民は激しい被害に苛まれ続ける事になるだろう。
財政規律至上主義、PB規律至上主義とは、一見、理性的で倫理的で社会的に望ましいかのように見えるものの、その実態は、実に反社会的で恐ろしく危険な代物なのである。
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