革新的で持続可能なソリューションを提供 コルテバ・アグリサイエンス日本(株) 代表取締役社長 野村真一郎氏2022年12月14日
アグリビジネス・トップ・インタビュー
コルテバ・アグリサイエンスはデュポン・パイオニア、デュポン・クロッププロテクション、ダウ・アグロサイエンスが2019年に集結して誕生した。日本ではコルテバ・アグリサイエンス日本(株)とコルテバ・ジャパン(株)が「コルテバ・アグリサイエンス」ブランドで農薬事業を展開している。今回は11月に両社の代表取締役社長に就任した野村真一郎氏に同社がめざすことなど聞いた。
----改めて企業としてめざすことを聞かせてください。
コルテバの企業目的は、生産者と消費者の生活を豊かにして確実に次の世代につなぐ、というものです。人類の基礎となる食料生産を支えている生産者のみなさんとわれわれ消費者の生活を豊かにし、その環境を守っていくことが使命だと考えています。
この企業目的を達成するためにわれわれがめざしている「ありたい姿」も定めています。それは世界中の生産者のために革新的で持続可能なソリューション・リーダーになるということです。
その姿になるために六つの価値観を掲げています。それは「生活を豊かにする」「高い目標に向かっていく」「好奇心を持って仕事をする」「協力して前に進む」「誠実な行動をする」「安全に暮らしていく」です。
こうした理念に向けて具体的にはわれわれが持っている農業生産資材、日本ではコルテバジャパングループは直接供給していませんが種子、そして一般的な化学農薬、それに合わせたデジタル技術を提供していこうということです。さらにこの先はバイオロジカルズと呼ばれている生物農薬、バイオスティミュラントが柱として入ってくると思っています。
----単に農薬を販売するだけではない「ソリューションの提供」に向けどんな取り組みをされていますか。
昨年、日本農薬と戦略パートナーシップを提携し、旧ダウ・アグロサイエンスが直売していたほとんどの製品の販売、普及は同社を通じて行っていただいています。
そして営業本部を一旦閉じて昨年10月1日、市場開発本部を新設しました。役割は北海道から九州・沖縄までエリアマーケティングマネージャーを配置し、農業生産現場の課題の掘り起こしや、新しいマーケットの調査などをしています。
つまり、組織も含めていわゆる農薬を販売するということから、マーケティング機能を強化して地域の課題を掘り起こし、ソリューションを提供できるベースづくりに切り替えているところです。コルテバの農薬製品は引き続き、同じコルテバブランドでみなさまに使っていただいていますが、直接の販売は提携企業に預けているということです。
----「ソリューションの提供」に向けては、社員には何が求められますか。
六つの価値観のなかに「好奇心を持って仕事をする」がありますが、いちばん求められる資質は農薬以外の、たとえば農業生産全体、さらにさまざまな社会事象に広く好奇心を持ってアンテナを張って活動するということだと思います。
併せて短期的な視点ではなく中長期的な視点、また、マーケットをいかに俯瞰して見ることができるか、そういった能力が求められると思います。やはり近視眼的になっては本質的なところが見えなくなってしまいますからね。
エリアマーケティングマネージャーは東日本と西日本の2チーム、合計10人ほどで構成しています。東日本であれば北海道、北東北、南東北、関東甲信越担当というように地域ごとに責任者を配置しています。その担当者が現場に足を運んで現場の問題を拾ってくるという活動がベースです。 一方、マーケティング本部は、殺虫剤、殺菌剤、除草剤といった製品ごとのマーケティングを担当しています。
ですから、この製品担当マネージャーとエリアマーケティングマネジャーを一つのチームにして地域の問題の吸い上げと製品ごとの普及目標、戦略のすり合わせをして活動内容を立てていくということになります。
----今の日本農業の課題とそれに向けたソリューションの提供をどう考えますか。
農業就業人口は減っていますが、耕地面積そのものは減っていません。おそらく農業経営が法人化、大型化して農地を集約している流れではないかと思います。この動きは食料安全保障の強化や食料自給率の向上への効果は期待できると思いますが、一方、慣行栽培をベースにした農業生産技術では、急速に大規模化すると、おそらく生産技術が追いついていっていないのではないかと思っています。
われわれコルテバ社はグローバルな技術開発をしていますから、新技術を導入できれば、日本国内のこうした問題も解決できるのではないかと思っています。
たとえば、本年10月12日にに新たに農薬登録を取得した種子処理剤のルミスパンスFSがあります。これはピラキサルトという殺虫剤を主成分とした種子処理剤です。現在、苗箱に箱粒剤を散布している大型生産者の方々は大変な労力がかかっていると思いますが、それがあらかじめ種もみを処理して済むのであれば労力が軽減できます。現在は稲(箱育苗)の登録だけですが、将来、直はに適用が拡大できればさらに一層の効率化を図ることができると考えています。こうした種子処理剤は毎年増やしていきたいと思っています。
併せてデジタルコミュニケーションに力を入れています。主要な取り組みとしては「イマデス」というアプリケーションの提供です。これは地域別の詳細な天候情報をもとにして、たとえば主力殺虫剤のトランスフォームについて、かんきつのカイガラムシの最適な防除適期を予測して、登録生産者に通知するというものです。今は地域限定ではありますが、賛同を得られる生産者を中心に徐々にエリアを拡大しています。
そのほかにもできるだけ生産者のみなさんと直接コンタクトをとって継続的なネットワークづくりをしていこうとしています。言い換えると生産者に納得していただけるコルテバブランドのファン層づくりをめざすということです。
----次の柱になるというバイオロジカルズにはどう取り組まれますか。
政府のみどりの食料システム戦略では有機農業の推進に力を入れていくとしていますが、まだ日本ではその核となる技術が確立されていないと思います。しかし、他の国ではバイオロジカルズと呼んでいるバイオスティミュラント、生物農薬が急速に伸びているというのがコルテバ社としての見解です。
日本への導入はこれからですが、先日、スペインのシンボーグと米国のストーラというバイオロジカル関連の大手企業を買収しました。コルテバ社として見方は2035年までに現行のマーケットが3倍に拡大すると予測しています。そのときには農薬市場の2割5分程度が生物農薬に置き換わるという予測を立てており、われわれはこの分野に積極的に投資をしていくということです。
----改めて「みどりの食料システム戦略」についてどうお考えですか。
とくに化学肥料や化学農薬の投入量を減らして、持続性のある農業をめざすということですが、その先の本来の目的は食料自給率を上げて食料を確保していくことだと思います。そこに行きつくための手段が化学肥料・農薬を減らしていくということだと思います。
ロシアのウクライナ侵攻が起きて、食料は今までのように黙っていても安定的に入ってくるものではないことが明らかになりました。エネルギーも肥料も価格が上がっていますから、今までと同じ値段で手に入るものではないということに一般の消費者の方は気づいていると思います。
ですから、みどり戦略は法律も施行されましたが、いかに国内で安定的に供給できるかということを考える良いきっかけではあると思います。その一環で大規模化、法人化が進むことによって離農された農地も有効に活用されて食料生産に貢献していただけるということは大事だと思います。ただ、企業経営として成り立たなければなりませんから、新技術の導入や経営の合理化などを通じて、安定した農産物を提供することが必要です。われわれとしてはそこにソリューションを提供していくということだと考えています。
----JAグループに対する期待をお聞かせください。
農業生産と食料供給でJAグループは国内最大のインフラを提供しており、日本農業を実際に支えている組織だと思っています。われわれはJAグループと食料安定供給という部分の課題解決ができるようなお手伝いをさせてもらえればと考えています。たとえば全農は「ゆめファーム全農」や子実コーンの栽培など先進技術の取り組みもされていることに注目しており、そういったプロジェクトをお手伝いできればということです。
----11月にトップに就任されました。改めて意気込みをお聞かせください。
心がけているのは、何事も誠心誠意、正直に取り組むということです。どのビジネスもそうですが、人と人とのつながりと信頼関係が基礎であり、これは国や文化が変わっても変わらない普遍的なことだと思います。こうした多国籍な会社では、なおのこといろいろな国の方と仕事をするわけで、お互い信頼関係を育めるように相手の立場に立って接していくことが大事だと考えています。
また、コルテバジャパングループの代表としては、社内外を含め、すべてのステークホルダーのみなさんがお互いを尊重し信頼し合える組織にしていければと思います。それが生産者のみなさんやパートナー会社、従業員にとっていちばん価値ある結果を生み出せる基になると思っています。正攻法でやっていこうと思っています。
のむら・しんいちろう 1990年明治大学農学部農芸化学科卒。同年4月旧デュポンジャパンリミテッドに入社。農薬事業部に配属される。一貫して農薬製品関連を担当。ダウ・デュポンの合併と分割でコルテバ・アグリサイエンス日本へ異動。営業本部本部長、市場開発本部長を経て2022年11月1日現職就任。
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