販売価格への反映が難しい環境保全型農業 日植防シンポジウム2013年1月22日
一般社団法人日本植物防疫協会(日植防)は1月15日、東京・一ツ橋の日本教育会館でシンポジウムを開いた。全国の研究機関、農薬関連企業、JAグループなどから550人が参加した。
◆支障は「販売単価」
今回のテーマは「環境保全型農業と病害虫防除を考える」。岩手の特栽リンゴ、長野の特栽米、奈良の露地ナス、静岡の特栽茶、鹿児島のIPM推進方策、など全国各地の環境保全型農業の先進事例が紹介されたほか、JA全農営農・技術センターからは1990年からスタートした「安全防除パイロットJA」の取り組み結果などについての報告があった。
今回、日植防が「環境保全型農業」をテーマに選んだのは、国が環境保全型農業を推進し、各都道府県も化学農薬・肥料の使用量を慣行栽培の5割以下に削減する特別栽培農産物などの生産を指導しているが、その一方で化学農薬・肥料を減らしたことによる労力増や単収減、適切な病害虫防除が困難になった、といった問題が報告されているからだ。
とくに大きな問題となっているのは、生産物の販売価格である。環境保全型農業は慣行栽培に比べて経費がかかるにもかかわらず、販売価格への反映が難しいという問題がある。
◆都市近郊農業ではブランド化困難
この日、農水省が行った情勢報告では、生産者に対して環境保全型農業に取り組む場合の支障は何かを訪ねたアンケート調査結果が報告された。そこでは、5割以上の生産者が「販売単価が評価されない」ことをあげており、次いで「労力が増えた」39%、「単収が減った」30%となっている。「販路の拡大が難しい」という意見も10%あった。
一方で消費者へのアンケートでは、環境に配慮した農産物が普通栽培に比べていくらまで高ければ買うかとの問いに対し、「同程度まで」12%、「1割高まで」31%、「2?3割高まで」36%という結果が出た。実際には「コストや労力の上昇分を直接価格に反映させるのは難しい。結局は、個々の農業者の経営センスの問題になる。有利販売するには産地として大きくまとまってつくるのがポイントだ」(生産局農産部農業環境対策課・橋本陽子氏)という。
しかし、そうしたブランド化や有利販売については、「大産地であればメリットはあるだろうが、都市近郊の小規模で個別でやっている人が多い産地では価格への反映は絶望的。ごく一部の卓越した経営者でなければ難しい」(奈良県病害虫研究所・井村岳男氏)と、困難さも主張された。
◆消費者が求めるのは「減農薬」より「安心」
そうした中、流通業者からの意見として「農薬を減らすことよりも、適切に管理されているかどうかを重要視している。消費者は農薬を使わない農産物を求めているのではなく、安心な農産物を求めている」との意見が出され、その土台となる取り組みとしてJA全農の安全防除運動と農薬適正使用の取り組みが紹介された。
JA全農営農・技術センターの川幡寛氏は、1990年から9年間の安全防除パイロットJAの取り組みと、その後7年間の安全防除優良JA表彰制度などを紹介し、「防除日誌をしっかり記帳することで農薬の正しい使い方を使用者が認識し、残留基準値を超過しない安全な農産物が栽培できる。減農薬が当たり前、無農薬が安全という意見に対し、農薬安全使用基準の正当性と有用性を実証した」と強調し、「農薬を栽培体系の中にしっかりと位置付け、関連業界や農薬メーカーとともに、消費者に理解を得られるよう情報発信」していくことが大事だと結論づけた。
◇ ◇
このほか、生産現場におけるメリット・デメリットについても意見が出された。
「突発的な病害虫発生への対応が難しい。リスクを最小限に抑えながら成分数を半分にして栽培する方法を維持するため、病害虫が出るたびに会議を開いてその都度対応を決めている」(岩手県中央農業改良普及センター・小野浩司氏)、「水稲の育苗期に農薬を使わない方法が広がっている。しかし、種子伝染病は重要な病害が多く、農薬の選択の幅も狭いので心配している」(長野県農業試験場・山下享氏)というように、特別栽培を維持するための困難さや懸念が述べられた。
(関連記事)
・亜リン酸で農産物の高品質化・収量増 土づくりシンポジウム (2012.12.05)
・藤本敏夫氏が没後10年 故人を語るイベントに200人超 (2012.11.20)
・肥料の公定規格改定 たい肥との複合肥料が普通肥料に (2012.09.05)
・環境保全型農業の推進 新たに取り組む農業者をいかに増やすか 農水省が見直し検討 (2012.07.03)
重要な記事
最新の記事
-
花は見られて飽きられる【花づくりの現場から 宇田明】第71回2025年10月23日
-
続・戦前戦後の髪型と床屋・パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第361回2025年10月23日
-
「ゆるふわちゃんねる」登録者数100万人突破 JAタウンで記念BOXを限定販売 JA全農2025年10月23日
-
佐賀県発の新品種ブランド米「ひなたまる」デビュー記念 試食販売実施 JAグループ佐賀2025年10月23日
-
AI収穫ロボットによる適用可能性を確認 北海道・JAきたそらちと実証実験 アグリスト2025年10月23日
-
被爆・戦後80年 土浦市で被爆ピアノの演奏と映画上映 パルシステム茨城 栃木2025年10月23日
-
協同組合を3か月にわたり体験 インターンシップ修了報告会開催2025年10月23日
-
化学肥料7割・化学農薬5割削減で米を収穫 プラネタリーバウンダリーに取組 旭松食品2025年10月23日
-
愛知県「カインズ 岡崎美合店 」23日にグランドオープン2025年10月23日
-
アレンジレシピに感心 38ブース出展し「商品展示会」開催 パルシステム山梨 長野2025年10月23日
-
「移動スーパーとくし丸」ベルジョイスと提携 盛岡市で今冬から開業へ2025年10月23日
-
「アニマルウェルフェアシンポジウム」宮崎で開催 畜産技術協会2025年10月23日
-
需要に応じた生産が原理原則 鈴木農相が就任会見2025年10月22日
-
新農相に鈴木憲和氏 農政課題に精通2025年10月22日
-
鳥インフルエンザ 北海道で今シーズン1例目を確認2025年10月22日
-
【2025国際協同組合年】協同組合間連携で食料安全保障を 連続シンポ第7回2025年10月22日
-
身を切る改革は根性焼きか【小松泰信・地方の眼力】2025年10月22日
-
将来を見通せる農政一層前に 高市内閣発足・鈴木農相就任で山野全中会長が談話2025年10月22日
-
丸の内からニッポンフードシフト「NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2025」開催 農水省2025年10月22日
-
来年の米生産 米価高を理由に3割が「増やしたい」米生産者の生産意向アンケート 農水省2025年10月22日