農薬:防除学習帖
防除暦11【防除学習帖】第124回2021年11月5日
本稿では、ホウレンソウの防除暦作成を目指して、防除暦作成の手順や防除手段選択の考え方を示しながら、防除の組み立て方法について紹介しており、春まきと夏まきのベタかけ資材無しの作型を題材に、具体的な防除暦作成の手法を紹介している。
今回は、生育期の農薬の選び方を紹介する。ただし、ここで選択した病害虫は、主に発生するだろうと仮定のものであることをご留意願いたい。地域によって発生が異なってくるので、実際の作成の際には、自地域での発生に合わせて組み立てるようにし、本稿は農薬選びのプロセスを参考にするに留めてほしい。
ホウレンソウべと病防除剤一覧
1.生育期の防除
(1)春まきの防除
春まき問題となる主な害虫はアブラムシ類、アザミウマ類、シロオビノメイガ、ハスモンヨトウ、ヨトウムシ、病害はべと病であるので、これらの防除を中心に農薬を選択した。
まず生育初期~生育中期までのアブラムシ防除を期待し、残効が長いダントツ水溶剤(ネオニコチノイド系)を散布する。その後に発生し始めたチョウ目害虫、特に若齢幼虫への効果が高いカスケード乳剤(IGR剤)を散布し、チョウ目害虫を小さいうちにたたき、害虫の発生密度低下を狙う。
その後、雨で増えてくるべと病の防除を狙い、雨が降ってべと病の感染が起こる前に予防剤のアリエッティ水和剤を散布し、次にアザミウマとアブラムシの発生が気になってくるので、その防除にリーフガード顆粒水和剤を散布する。この時、アリエッティ水和剤とリーフガード顆粒水和剤は、混用して散布すると省力的に防除できる。
その後、収穫期が近づいてくると、仕上げの防除に入る。この時選ぶ農薬は、べと病に治療効果のあるもの、害虫は複数の害虫によく効く農薬を選ぶことである。雨が多くなってくると、あたらしく出た葉などに潜伏感染してしまっているべと病がある場合があり、それを発病させないためには治療効果のある農薬が必要だからである。
そこで、この暦では、べと病剤にライメイフロアブルを、殺虫剤にスピノエース顆粒水和剤を選んだ。ライメイは、収穫7日前迄に使用しなければならないので、収穫時期から逆算して7日より前になるように散布するように注意する。
もうお気づきかと思うが、殺菌剤も殺虫剤も同じ薬剤系統が連続して散布されないように農薬を選んでいる。これは、殺菌剤耐性菌や殺虫剤抵抗性害虫の発生を未然に防ぐためであるので、実際の防除暦の作成の際も必ず意識するようにしてほしい。
なお、地域によって発生が異なるケナガコナダニは、臨機防除とし、確実に防除が可能なモベントフロアブルを選択した。
ホウレンソウ生育期に使用する殺虫剤一覧
(2)夏まきの防除
この例では、7月の上旬に梅雨が明け、温度の上昇とともにべと病の発生が少なくなり、害虫のシロオビノメイガのみを防除する体系である。
この場合も、まず害虫の幼虫が小さい時に効果が高いカスケード乳剤(IGR剤)を散布し、チョウ目害虫を小さいうちにたたき、害虫の発生密度低下を狙う。その後、仕上げにスピノエース顆粒水和剤を散布している。
もちろん、夏まきの体系だけを考えれば、スピノエース顆粒水和剤を先に散布して次にカスケード乳剤を散布するという体系も考えられるが、その場合、前作(春まき)の終わりにスピノエース顆粒水和剤を使用しているので、同剤の連続使用となり、抵抗性害虫対策の観点からあまりお勧めできない。なぜなら、チョウ目害虫は飛翔能力があるので、一回の防除で取りこぼした害虫がもう一度ほ場にやってきて2回目の薬剤淘汰(とうた)を受ける可能性があるからである。なので、害虫の生育期の範囲にある場合は、前作であっても連続散布は避けるようにした方が良い。
次表にホウレンソウの生育期に使用できる対象病害虫別の農薬を示したので参考にしてほしい。
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