運命に抗い生きる原生生物 DNA上の負の突然変異をRNA編集の活用によって克服2025年3月17日
海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球環境部門海洋生物環境影響研究センター深海生物多様性研究グループの矢吹彬憲主任研究員は、東北大学大学院農学研究科藤井千早大学院生(当時)、農研機構の矢﨑裕規研究員、愛媛大学の大林由美子講師、福井県立大学の高尾祥丈准教授らと共同で、難培養性原生生物・アセトスポラの培養株化に成功。培養株を用いた分子生物学的な研究から、アセトスポラはミトコンドリアDNA上に生じた突然変異をRNAとして転写した後に修正し、遺伝子としての機能を維持していることを発見した。
図1:発見の概略
真核生物は細胞内に核やミトコンドリアなどの構造を有する生物で、およそ21億年前に誕生し、多様な系統へと枝分かれ進化してきた。そこには動物や陸上植物など多細胞生物とともに多様な原生生物(陸上植物・後生動物・真菌を除いた真核生物の総称)が含まれる。
多くの原生生物は、体細胞サイズが小さく肉眼では認識しづらいことに加え、難培養性の生物も多く、その多様性の全貌や生態学的役割に関する理解は未だ限定的。また、原生生物が進化の中で獲得した様々な形態的・分子生物学的な特徴に関しても未だ多くの謎が残されている。同研究の対象生物であるアセトスポラは、主に海産無脊椎動物に感染する寄生性原生生物のグループで、一部の種は水産資源生物に感染することから防除対象としても注目されている生物群。しかし、これまで培養株として確立されたアセトスポラは報告されておらず、その分子生物学的な知見は限定的な状況で、その研究進展が期待されていた。
同研究では、東京湾と駿河湾からアセトスポラの新規生物を発見し培養株として確立することにまず成功。そこからミトコンドリアゲノムの解読と発現遺伝子解析を行い、アセトスポラのミトコンドリアにおいてRNA編集と呼ばれる塩基配列の書き換え現象が起こっていることを見出した。
RNA編集が起こっている場所と前後の変化を精査した結果、アセトスポラのRNA編集はミトコンドリアゲノム上で起こってしまった突然変異をmRNAとして転写された後に元々あった配列あるいはそれに近い配列へと修復し、最終的に生合成されるタンパク質の機能を維持していることが分かった。
さらに、このRNA編集を引き起こすメカニズムについても解析を進め、これまで後生動物型と陸上植物型として知られていた編集メカニズムを活用している可能性が高いことも見出した。今回発見されたアセトスポラのRNA編集現象は、真核生物におけるRNA編集の進化は従来の想定よりも遥かに複雑で、その機能と役割も多様であることを示している。この「運命に抗い生きるためのしたたかな生存戦略」とも言える現象は、従来の生物進化の常識に反する驚くべきものと言える。
同研究で示されたRNA編集現象とこの現象を駆動するメカニズムに関する研究が今後さらに進むことで、ゲノムと遺伝子の進化に関する理解が深まるとともに、ミトコンドリアにおける遺伝子編集技術の活用にも通じる可能性がある。また、アセトスポラの培養方法が確立されたことから、寄生生物としてのアセトスポラの生態学的な役割に関する研究も進展し、海洋生態系のより正確な理解が進むと期待される。
同研究はJSPS科研費20K06792・19H03033・23K23687(基金化以前22H02422)の助成を受けて実施。同成果は、『Microbes and Environments』に3月15日付け(日本時間)で掲載された。
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