ヨーグルトに隠された乳酸菌の秘密

- 著者
- 光岡知足、鏑木長夫監修
- 発行所
- 共同通信社
- 発行日
- 2012年10月23日
- 定価
- 1200円(税抜)
- 評者
- 小林綏枝(元秋田大教授)
分かりやすい身近な食品の科学
「免疫力を高める」「アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患を予防する」「老化を防ぐ」、人類が追い続けて果たせなかった夢への道が開けるかもしれない。それをもたらすのが乳酸菌なのだという。
斯学の世界的権威、光岡知足博士監修のもとに著された本書は、先ず読みやすい。ハンディな189ページの中に肉眼では見えない微生物の謎の解明の過程がラボアジェ、パスツール、リンネ、ジェンナー、コッホ等の懐かしい名前やエピソードと共に語られる。そして何よりも主題たる「乳酸菌」の興味深さだ。今やコンビニにもスーパーにも多種多様な乳酸菌商品が勢揃いしている。人々の関心と好みがこの盛況を支えているはずであり、その人気を裏付けるデータは主に光岡博士の著書から録られていて説得的である。
◆生きた乳酸菌がなぜ必要か
乳酸菌は人類と仲良し。広義には「糖を分解して乳酸など多量の酸を作るが腐敗産物は作らない細菌」だという。人間の消化器官、口腔から胃、小腸、大腸、肛門までの曲がりくねった9メートルには100兆個、分かっているだけで500種以上の腸内細菌が生息している。
「人間が母親の胎内で受精卵から人の形になって行く過程で最初に出来る器官が腸」「腸の両端が口と肛門になって、途中の一部が膨らんで胃となる。その後、神経の基になる神経盤が作られ?」には驚いた。だから腸は脳に匹敵する器官であり第2の脳なのだ。「栄養を吸収する腸がなければ体中のどの器官も生命活動を続ける事は出来ない?」にも得心した。その腸に良い作用ばかりをするのが乳酸菌なのだ。世の関心が低かろうはずはない。
今やストレスは胃や腸を襲う。食品添加物や環境悪化もアレルギーや訳の分からない病気を引き起こす。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人も、乳酸菌ならば大丈夫。その上乳酸菌が発酵する時に作られる乳酸や酢酸は腸内を弱酸性にして有害な菌を抑制する。良い事尽くめではないか。
「善玉菌・悪玉菌」という言葉や、ヨーグルトが悪玉菌に対抗するらしいとは知っていたが、具体的にどう働くのかは知らなかった。それに「日和見菌」もいたとは可笑しい。まるで人間社会を見るようだ。そんな素晴らしい働きを見せる善玉の代表ビフィズス菌は、生きて大腸まで届いても定着し増殖する事は出来ないそうだ。生きた菌の効果を期待するにはヨーグルトを定期的にとる必要がある。ちなみに「米を主食とする日本人の腸は長い」とか「下剤を使っても排泄できない宿便」は間違いと明確に否定する。日常目にする「宿便=すっきり」広告のいい加減さを世に知らしめたいものだ。
◆人類の夢、かなうかも
1984年にスタートした「食品の持つ新しい機能を解明する」研究班(文部省)は、食品には「栄養源としての働き(一次機能)」「味覚を楽しませる働き(二次機能)」があり、加えて「体調を調節する働き(三次機能)」がある事を明らかにした。「機能性食品」である。これを受けて日本は1991年、厚生大臣が安全性と健康上の効果を認めた食品を「特定保健用食品」(トクホ)と呼ぶ制度を世界に先駆けて発足させた。イギリスの科学雑誌『ネイチャー』は「日本はついに医薬品と食品の境界に踏み込んだ」と報じたそうだ。
医薬品と食品の壁を越えて食品に健康効果の表示を許可する事の大変さは、その後のアメリカに於けるケロッグ事件等として紹介されている。これは食品の広告や表示に関わる重大事である事を知った。
ごく身近なヨーグルト、大金をはたかなくても買えるヨーグルト、これで食品の持つ三つの機能が満たせ人類の夢がかなうならば、こんな嬉しい事はない。まわりに一読を薦めたくなる。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日