【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(101)「差別化」と「ゆるキャラ」2018年10月5日
世の中、「差別化」流行りである。他人と違うことこそが価値であると考える人間は多い。生物に限らず、製品や組み合わせ、さらにあらゆる存在について多様性を認めること、これは非常に重要な事だ。異なるモノや存在があるからこそ、それらの接触により新たな考えやイノベーション、そしてつながりや発展が生まれる。
ところで、「差別化」と「画一化」は実は非常に微妙なバランスの上で共存している。これだけ「差別化」が重要と言われているにもかかわらず、道行く人々は皆、同じような髪型とファッション、同じようなバッグを持ち、シューズを履いている。ある時など、横縞のシャツ(ボーダーのシャツ)が流行り、大学のクラスではあちこちがボーダーだらけ...になった。個々の自己主張が収束した結果である。
同じような髪型と髪の色、そしてファッションを称して、口の悪い人々は「量産型○○」などと呼ぶが、当人たちですらパターンが異なるだけの似たような格好をしている。恐らく、他人と異なる自己を主張したいが、余りにも違い過ぎるのは好まないという微妙な心理、それに実際問題としてショッピング・モール等に行けば手頃な流行りモノは皆、同じような柄のため選択肢が無い。あるいは、ここまで細分化されると、余程の専門家でないとわからない些細な違いよりも、類似点の方が目に着きやすくなるからであろう。我々は農産物でも同じことをしている気がする。
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マーケティングの世界では「差別化」された商品は画一的な「コモディティ」とは明確に区別され、王道は「差別化」と教えられる。一山いくらの「コモディティ」には多くの人は関心を持たないはず...なのに、何故、「差別化」を追求した結果が皆、同じになるのか。それは何が他人と異なるかを徹底的に調べ、その差異を多くの人や企業が模倣し、違いを克服すれば、最終的には皆、似たようなものになるという当たり前の事に過ぎない。少し固い言葉で言えば、一般に行われている「差別化」は異質的同質性の追求とでも言うべきものであり、それは一時的競争優位の確立には寄与するが永続的ではない、ということになる。それでも人々は違いを求める。
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ところで、2017年の「ゆるキャラグランプリ」の結果を見ると、エントリー数が1157体もあることに驚く。内訳は、ご当地ゆるキャラが681体、企業ゆるキャラが476体だそうだ。ちなみに昨年のご当地ゆるキャラ第1位は「うなりくん」。企業ゆるキャラは「りそにゃ」らしい。申し訳ないが、後者は何となく想像がつくが、筆者はいずれもイメージが頭に浮かばなかった。
一方、2018年時点の全国の自治体数は1741(市数792、区数198、町数743、村数183)である。この合計を見て、「あれ?」と感じた人は数字に対する感度が鋭い。全部足したら合計が合わない...。その通り。区数198の大半は○○市△△区のため、市数の内数だが、東京都の23区だけは別...ということで合計は1741になる。
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話を戻すと、全国の各自治体が全てゆるキャラを作ると1741、ご当地自慢もそれだけの数になる。この区別はなかなか難しい。初期に大ヒットしたいくつかを除き、ほとんどの人には区別がつかないし、存在すら知らず、覚えることも無理であろう。
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それで良いと思う。先の「ゆるキャラグランプリ」のサイト(http://www.yurugp.jp/about/)でも触れられていたが、現代のゆるキャラは「八百万の神(やおよろずのかみ)」のようなものかもしれない。各地域や組織により各々親しみを込めて様々なものが作られ(祀られ)、それが大なり小なり長続きすれば十分である。「八百万の神」の中には、知る人ぞ知る神や、専門の研究者ですら滅多に名前を目にしない神々もいるはずだ。
記憶力が最高の受験生時代ですら1万語の英単語を覚えるのが難しいのに八百万の神の名前など到底覚えきれない。ここは一神教か多神教かなどという難しい議論ではなく、それだけ多くの地域や組織が存在し、それらに親しみを感じるイメージが多々あると思えば良い。無理やり何かひとつに統一しようとするからこそ軋轢が生まれる(...という考え方自体を受け入れられない人々もいるだろうが、それはそれとして、本稿ではご容赦頂ければと思う)。
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結局のところ、無理に「差別化」しようとすると、似たようなものが数多く出来上がるが、放っておけば各々の事情に応じて「八百万の神」が生まれたように、様々な品物や生き方が自然に発生する。その中からいずれ世の中に大きな影響を与えるモノや人が出てくる...ということは歴史が教えている。それにもかかわらず、いつの時代も人々は自分だけは違うと信じて同じことを繰り返す。
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