(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
私たちは過去に類を見ないほどの「選択肢」に囲まれています。どれを選べば良いかがわからない…。これは現代社会が抱える複雑な問題のひとつです。
現代社会には実に多くの選択肢がある。例えば、高校や大学受験はある程度、全体像が見やすい。いわば限られた選択肢の中での判断である。受験を通過した多くの大学生が直面する最初のとまどいは、入学直後にどの科目を履修したら良いかである。医学部のように全科目が必修であれば選択の余地はないが、人文・社会科学系の大学生の多くは、どの科目を選択するか、そこから判断力が試される。
先輩や同級生の口コミなどだけでこのハードルを乗り越えてしまうと、自ら内容を検討するという貴重な訓練機会を他者の評価に委ねてしまう。大学生が次に直面するのが、研究室の選択(いわゆるゼミの選択)である。関心ある分野と、自分の成績、教員との相性、友人関係や就活への影響など、さまざまな要素を学生達は考える。
卒業を控え、実際の就活が始まると選択肢の数は桁違いになる。それまで数個から10~20程度の中での選択に悩んでいたのが、就活では日本国内だけでも数百万の企業の中から自分で納得する企業を選ばなくてはならない。
実際、多くの学生は就活情報サイトを活用している。プロフィールを登録すると業界が同じ50社に一斉にエントリーできるような仕組みも存在している。
こうした過程を経て、実際にスケジュール管理をする中で、一人ひとりの学生は、自分で納得できる相手先を選択していく。
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さて、人は選択肢が無い場合や少ない場合にはより多くの選択肢を求めるが、余りにも選択肢が多いとむしろ悩む。この構造は現代社会に特有かもしれない。消費生活全般に言えることだが、「何を選択するのが良いか」がわからなくなると、レビューや評判、価格などを頼りに選ばざるを得ない。実は、教育やキャリアでもその傾向は強い。「○○大学に何人合格!」という宣伝文句の数字を合計したところ、実際の定員よりかなり多くなるというのは昔から有名な話である。
政治や社会問題でも、選択肢に関する情報が多すぎると、何を信じて良いかがわからなくなり、結果的に無関心あるいは目につく方向に偏る傾向がある。
つまり、選択肢が増えたことで逆に判断が難しくなった訳だ。これは「選択肢の増加が、必ずしも自由の増加と同じではない」ことを示している。その結果、「選ばない自由」だけでなく、選択に疲れ、「決定疲れ(decision fatigue)」という状況すら生じる。
現代社会では、家族・共同体・学校・会社・宗教などによる伝統的な判断の支えが弱くなり、一人ひとりが精神面での成熟度に関係なく「裸の選択」を迫られる機会が多い。その上、SNSや生成AIにより、一見自由に見える選択肢が膨大な数になる。「玉石混合」どころか、混沌としたほぼ無限大の中から本当に必要な選択をしなければならない。
そろそろ我々は「選択肢の数」ではなく、その中から必要なものを選択する「基準」、つまり判断力をどうつけるかという方向に焦点を移す必要がある。
そう考えると、日常生活の中で常に判断力を試されるのが日々の食事である。例えば、レストランで余りにも多くのメニューを見た場合、食材の産地、生産者、生産・加工方法、保存方法、調理方法などの選択肢は無限に見える。ただし、目の前の食欲を満たし、楽しい食事の時間を過ごすためには、意外と「リーゾナブルで有名、それでいて美味しそう」な食事を選択してしまうことも多いかもしれない。結局は、自分自身の「基準」の有無、それが重要ということになる。
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毎日の食事で、自分がどのように判断しているか、これを改めて考えてみると自分の「決定疲れ」の程度がわかるのではないでしょうか。
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