【リレー談話室・JAの現場から】新社会人の皆さんへ2019年4月1日
賀川豊彦(1888-1960)は、明治・大正・昭和の激動の時代に世界と日本の社会運動とキリスト教伝道などで大きな足跡を残した。新社会人の皆さんとともに、今なぜ賀川なのか、協同組合組織とその事業ルールに与えた影響について考えてみたい。
◆協同組合の父
2012年はIYC(国際協同組合年)記念で、国際的のみならず日本でも協同組合の役割を再確認しようという動きが活発になった。その一環として賀川豊彦に学ぶ取り組みもあった。日本生活協同組合連合会(日本生協連)は、賀川が戦後すぐに出版した『協同組合の理論と実際』の復刻版(以下A)を学習書として発行した。
JA共済連はディスクロージャー誌『JA共済の現状2012』において、外部に向けて賀川のプロフィールとJA共済との関わりを紹介した。Aでは賀川論文とともに賀川のマルチな社会活動の全体像が、各事業、運動そして活動ごとに、今日につながる関連団体・組織ごとの系譜で示されている。それらはキリスト教、幼児教育、救済事業、労働運動、社会運動、農民運動、災害救援活動、協同組合運動、保険・共済事業、平和運動、著作活動など実に多彩である。
賀川は1951(昭和26)年に日本生協連の会長と全共連(JA共済連)の顧問に就任したこともあり、「生協の父」あるいは「JA共済の父」とされるが、あらためて日本の協同組合全体の父といっていいように思われる。
◆賀川豊彦とSDGs
今、なぜ賀川豊彦なのか。
(1)協同組合事業が日本では成功をおさめ、世界からも注目されている。一方で、資本主義・グローバリズム経済が行き詰まり、ひと握りの富裕者が世界の富を独占し、格差・貧困の問題が露わとなっている。そうではないひとつの受け皿として協同組合事業の運営ルールが注目されている。
(2)日本では賀川豊彦、二宮尊徳、大原幽学といった農業や協同組合の先駆者が見直されている。戦後、度々ノーベル文学賞・平和賞候補になるなど多様な顔をもつ賀川には、世界の目が注がれ続けている。
(3)さらにAの社会活動の全体像の多くの項目が、現下の日本では資本の論理・競争原理によって毀損される事態となっている。そのことが一般の国民、農業者・労働者・市民の不安・不信を増幅させている。
(4)農協についていえば、営農、生活、信用、経済、共済、医療・介護など人体器官の有機的つながりに例えた賀川の七種組合論を総合事業として結集してきたが、信用事業もしくは共済事業のいずれかを資本の側に奪われれば、農協は解体されてしまう。ACCJ(在日米商工会議所)などや官邸主導の規制改革推進会議の農協攻撃はそれを目指している。さらに遠洋漁業、沖合漁業の衰退のなか、資源管理と漁獲量で健闘する沿岸漁業・海面養殖業に企業参入を認める動きも看過できない。
(5)その危機を協同組合が連携して回避するためにも、昨年発足したJCA(日本協同組合連携機構)や人類の生存を持続可能とすべく世界的な取り組みとなっているSDGs運動に結集したい。後者の「誰ひとり取り残さない」のスローガンは、まさに賀川が目指した社会運動全体の今日的なテーマにほかならない。
◆小さな賀川豊彦
小さな資金を集積して為した協同組合資産が資本に狙われるほどの価値をもつ存在となれば、それは誤った歴史の選択なのだが、その動きにも心を許すことなく警戒しなければならない。歴史というものはあるべき制度とか正義・不正義を問わず、それらの連続・非連続すらもお構いなくのみ込んでしまう。
経済学的にも次の受け皿を見つけていない現下の資本主義経済は、グローバリズムを梃(てこ)に資本の巨大化に向けて飽くなき膨張路線をつき進んでいる。資本と協同組合は対立関係にあるのではないのだが、今、両者のせめぎあいになっているのかもしれない。
協同組合事業の未来に貢献する新社会人の皆さんには、混迷の時代の小さな賀川豊彦であってほしいと思う。
(関連記事)
・【リレー談話室・JAの現場から】原発事故から8年ー避難先で立派な家庭菜園(19.03.28)
・【リレー談話室・JAの現場から】「反反産運動」に学ぶ 大きな夢を描いて対抗(19.03.01)
・【リレー談話室・JAの現場から】平成30年の節目に思う(19.01.10)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日