生命軽視のCOVID-19対策【森島 賢・正義派の農政論】2020年8月31日
先週末に、とうとう安倍晋三首相が辞任を表明した。
その直前にCOVID-19の対策本部の会合を開いて、今後の新しい基本方針を決めた。その内容は、これまで行ってきた国民の生命を軽視する方針を今後も続けるだけでなく、さらに強めようとする反国民的な方針である。飛ぶ鳥が跡を濁して去った。
これまでの基本方針は、検査を制限して感染を公認する感染者の数を少なくする、というものである。検査の数を多くすると、その結果、大勢の国民が感染していることを認めざるをえなくなり、その大勢の感染者を隔離し治療する体制が逼迫して、医療体制が崩壊するからだ、という。
いままで、この方針のもとで、隔離体制と治療体制の、拡大と整備を怠り、検査を制限して、多くの感染者を市中に放置し、感染源にして感染を蔓延させてきた。そして、国民に苦難を強いてきた。
今後も、この方針を続け、いっそう強化するという。これでは、感染を蔓延させて医療を崩壊させるだけでなく、経済をも破壊させるだろう。
そうではなくて、医療体制を整備し、拡充して、いまの検査体制を解体し、新しい検査体制を作り拡大して、市中感染を最小限に抑え込むべきではないか。
それは政治が行うべきことである。
だが、そうした要求が与党からも聞こえないし、野党からも聞こえない。与野党に問いたい。国民の苦難に正面から向き合う政治家はいないのか。
上の表は、昨日発表した世界の各国のCOVID-19検査の昨日までの数を、人口千人当たりの人数で示したものである。
日本の検査数は、欧米諸国と比べてケタ違いに少ない。中国、韓国と比べても、極めて少ない。
検査数を少なくしている理由は、多くすると、それにつれて感染者が多くなり、多くの感染者を隔離し、治療することができなくなるからだ、という。病棟も少ないし、医療器具も少ないし、医師や看護師なども少ないからだ、という。
このままでは、日本は医療後進国だ、と嘲笑されてもしかたない。また、このような、ごく僅かな資料に基づく日本の疫学も、低い評価しか得られないだろう。
◇
これまで、政府は検査体制を拡充する、と口先だけでは言ってきた。感染初期の半年前から言ってきた。政治は実績で評価されるのだという。そこで、実績をみてみよう。実績をみると、上の表から分かるように、拡充してこなかった。そして、感染を蔓延させてきた。政治は、有言不実行だったのである。
ここに、国民の不満の根源がある。検査体制の拡充の不実行に、不満の根源がある。しかし、この不満を組織して政治の力にし、改善を迫ろうとする政治家がいない。与党にもいないし、野党にもいない。
◇
こんどの基本方針は、これに加えて隔離、治療体制の整備、拡充を怠ろうとしている。つまり、無症状者と軽症者は隔離して治療しないことを目論んでいる。そして、治療費は自己に負担させようとしている。
無症状者と軽症者は家庭内で勝手に療養せよ、というのである。家庭内で蟄居して、家族と共に食事をするな、いつもマスクをしていろ、話は小さな声でせよ、風呂は最後に入れ、というのである。そうして、重症化の危険に曝している。これでは、家庭の崩壊でもある。
ここには、いまの新規感染者の多くが、家庭内で感染した人たちである事実の認識がない。この方針の結果は、市中感染を蔓延させることになるだろう。
◇
市中感染が蔓延する状況の中では、社会活動、ことに経済活動の萎縮は避けられない。
先日発表した政府統計によれば、いま国内総生産は年率27.8%で急激に減りつつある。金額にすると1年間で150兆円の勢いで減りつつある。国民1人当たりにすると120万円である。まさに経済危機である。
国民はいま、COVID-19によって、生命の危機に曝されているだけでなく、経済危機の真っただ中におかれている。これが続けば、多くの労働者や農業者や中小の自営業者は、やがて失業、半失業の危機に曝されるだろう。
これは、戦後最大の社会的危機である。
◇
このような危機の中で、政治家によるCOVID-19対策についての議論は、ほとんどない。危機感はきわめて希薄である。国民の最大の関心事はCOVID-19問題だが、政治家の関心は薄い。そうして、目先の権力闘争に明け暮れている。
こうした政治家には、やがて国民の鉄槌が下るだろう。一部の評論家は、年内の衆議院解散、総選挙を予想している。
(2020.08.31)
世界のCOVID-19検査数の資料は
https://www.worldometers.info/coronavirus/#countries
(前回 予測は疫学の華)
(前々回 COVID‐19対策は「誰でも、何度でも、無料で」)
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