予測は疫学の華【森島 賢・正義派の農政論】2020年8月24日
疫学という学問の華々しさは、伝染病の蔓延を科学的に予測する学問的な華麗さにある。
もちろんそれは、当たったか当たらなかったか、で評価すべきものではない。そのことは巷の予想屋に任せておけばいい。
予測の評価は、実態を忠実に表した客観的資料に基づいているか否か、強靭な科学的論理に基づいているか否か、という点で評価すべきものである。
60年ほど前のことだが、神谷慶治先生は人口の大都市集中を予測した。第1級の資料である国勢調査の結果を資料にし、精緻な確率過程論で予測したものである。そうして、農村の疲弊を憂えた。
この予測は、社会的な大問題になり、先生は国会に呼ばれ、請われて説明をした。
そのとき先生は言った。これは、当たるかどうか、という予言ではない、と言った。いまの社会が、この方向に向かっていることを指摘したもので、そうなることへの覚悟を問う、という問題提起だ、と言った。
そしてその後、列島改造論などが、政治家だけでなく、国民の間で広く議論され、重要な政治課題になり、日本社会を動かす原動力になった。
◇
その頃からやや遅れて、東京が過密になり、交通渋滞が頻発するようになった。それを緩和するため、営団地下鉄の東西線を作る検討を始めた。専門家を集めた検討会は、この路線の採算性について、綿密な調査を行った結果、赤字路線になることを予測し、営団に答申した。
この答申を受けて、営団は、計画を修正するなど懸命な努力をして、その結果、実際には黒字路線になった。このときの、検討会の代表者が言った。「悪い予測は、当たらぬことが良いことだ。」
これは、代表者の負け惜しみではない。営団に赤字の覚悟を求め、黒字になるような努力を促した結果の自画自賛である。
◇
上の2つとも、第1級の資料や、綿密な調査資料に基づく、精緻な科学による予測だった。だから、当事者が覚悟を決めて、事態に当たったのである。
これと比べてCOVID‐19対策分科会はどうか。分科会は、いったい全国にどれ程の数の感染者がいるのか、さえ分かっていない。政府が恣意的に検査を認めた、ごく一部の感染者の数しか分かっていない。第1級の資料どころか、第2級の資料である。第1級の資料がなければ作ればいいのだが、それもしない。つまり、感染症対策のための第1歩である検査が全く不十分である。
政府は、検査を拡充する、と言っているが、実際には行っていない。有言不実行を続けている。だから国民は、COVID‐19対策だけでなく、その総責任者である安倍晋三首相に対する不信をつのらせている。
このような杜撰な検査結果の資料では、分科会は感染の予測はできない。予測をしたとしても、それを基にした、まともな対策を考える人は、ほとんどいないだろう。覚悟を決めて対策を考える人は皆無だろう。
◇
分科会がなすべきことは、感染の確固たる予測である。そのために現在の感染の状況を正確に把握することである。そのためには、現在の検査体制を解体し、新しい体制を作ることを政府に提言することである。
そして、感染者を確実に隔離し、早期に治療を施す覚悟を、政府に対して促すことである。
なぜ、それができないのか。
◇
理由は、検査数を増やすことは、いまの検査体制ではできないし、無理をして増やせば医療崩壊になり、感染者の隔離も治療もできなくなるからだという。
これは、いまの検査体制、隔離・治療体制の温存を最重要視する考えである。いわゆる感染症村の「村の掟」である。そして、一部の評論家がこれに同調している。
政府に求められている覚悟は、このような感染症村を解体して、「誰でも、何度でも、無料で」検査を受けられる体制を、新しく作ることである。この体制を作れば、感染の全体像を詳細に知ることができる。
それに加えて、政府に求められている覚悟は、感染者を隔離し治療するための病棟と治療器具を大量に用意し、大勢の医師、看護師などの協力を求めることである。そうして、万全の体制を整えることである。
◇
分科会は、現状を肯定し、維持したい政府の下請け機関から脱して、疫学者の社会的使命を果たさねばならない。
そして、国民を病苦から解放し、与えられた生命を全うすることに貢献することで、疫学の華麗さを取り戻さねばならない。
(2020.08.24)
(前回 COVID‐19対策は「誰でも、何度でも、無料で」)
(前々回 新型肺炎による外出自粛と休業を解除する数理)
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