コロナウイルスと酪農 牛乳の消費拡大に英知を【リレー談話室・JAの現場から】2020年10月28日
年明け早々、新型コロナウイルス発生のニュースからクルーズ船対応、2月には学校休校、3月にはWHOのパンデミック宣言、東京オリンピックの延期、4月には政府による緊急事態宣言となりました。酪農の生産現場では、万が一酪農家が感染した場合、乳牛の面倒をだれが見るのかなどの議論が交わされていました。幸い周辺の酪農家で感染したケースは今まで発生しておらず、大事には至っていません。しかし、酪農家が感染し家族も含め乳牛の管理ができなくなった場合、どうするかの答えは出ていません。不要不急の外出を控え、感染のリスクを極力下げることに限るのでしょうか。
一方、政府は経済活動の後押し策として、賛否両論がある中で7月よりGOTOキャンペーンを開始しました。感染症の抑制と経済活動の両方を行うことは相反することを同時に行うことであり、非常に難しいかじ取りをしなければなりませんでした。酪農の現場では、学校休校の影響で給食用に提供している牛乳がストップし、生乳の行き場を失いかけましたが、何とか加工用等に仕向けられ廃棄は回避しました。一転、8~9月は暑さで本州の生乳生産が低下、夏休みの短縮で学校給食向けが増加、さらには台風の襲来で北海道からの輸送が数日ストップするなど、今度は「牛乳が足りない」状況になってしまいました。
ここ数年、酪農業界は乳価や個体販売が高値で推移し、おおむね安定した経営が維持されていました。北海道内では畜産クラスター事業を活用した大型経営が各地で出現し、雌雄判別精液の利用拡大効果もあり、乳牛頭数も増加傾向にあります。また、今年は越冬用飼料の牧草やデントコーンサイレージは質、量とも例年並み以上に確保されており、来春まで道内の生乳生産は増産傾向が維持されると予想されています。生乳の引き合いが強い夏場からクリスマス需要までは喜ばしい状況が続きますが、冬休みに入り学校給食向けが止まるとたちまち行き場を失いかねません。加工向けもバターや脱粉在庫は、コロナの影響もあり外食向けが振るわず在庫が積み増しされています。
酪農家の経営を考えると頑張って搾ってもらうことが一番大切なことですが、消費者に消費していただかなければどうにもなりません。この春、行き場を失いかけたとき、北海道知事を先頭に積極的に消費拡大のPRを官民挙げて実施し、消費者から多くの理解を得られ、難局をクリアしました。しかし、冬場の不需要期は数か月間続き、なおかつ生産量が増加傾向にある中で対応しなければなりません。消費拡大運動を積極的に実施することは当然ですが、相反することを乗り切らなければならず業界挙げての英知が必要です。
コロナの影響は牛肉消費の低下も招き、その影響は肉用子牛価格に徐々に表れています。特にここ数年増加傾向の交雑牛(F1)子牛はピーク時の半分以下に暴落し、酪農家の貴重な収入が低下しています。コロナは、数年後にはワクチンや治療薬の普及で乗り越えることは想定できますが、負の回転になった経営を正常に戻すには、とんでもないエネルギーが必要です。酪農がせっかく人並みの収入が得られる産業に成長した中で、できるだけ早くコロナの終息を願うしかないのでしょうか。
(北海道浜中町農業協同組合参事 高橋 勇)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日