「認められなかった」は「認められない」【小松泰信・地方の眼力】2021年6月9日
「菅首相は農家出身のくせに新自由主義にとらわれている。百姓の気持ちを忘れた政治をやっていけば、百姓が反乱を起こす。国民が反乱を起こす」(政治家・亀井静香氏「サンデー毎日」6月20日号)
政策が歪められた事実は「認められなかった」だけ
鶏卵業界は、動物福祉とも訳される、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア(AW)」の国際基準を日本の実情に応じて緩和することや、鶏卵価格が下がった際に生産者を支援する事業の拡大を要請していた。
これらを背景として、吉川貴盛元農相が鶏卵大手「アキタフーズ」の秋田元代表から現金500万円を受け取ったとして在宅起訴された贈収賄事件を受け、養鶏・鶏卵行政の公正性を検証していた第三者委員会(座長・井上宏、弁護士)による「養鶏・鶏卵行政に関する検証委員会報告書」が、6月3日に公表された。
その概要版によれば、「アニマルウェルフェアの国際基準策定プロセス、日本政策金融公庫の養鶏事業者への融資方針の決定プロセス、鶏卵生産者経営安定対策事業の見直しプロセスについて、9回にわたる委員会での議論、農林水産省の職員等約50名の聴取を行うなど約4ヶ月間にわたり、徹底した調査・検証を幅広く行った」調査の結果、「養鶏・鶏卵行政については、秋田元代表から吉川元大臣等への働きかけも確認されたが、政策が歪められた事実は認められなかった。また、秋田元代表、吉川元大臣等と職員の会食についても、「政策決定の公正性に影響を与えたとは認められなかった。」他方で、今後、養鶏・鶏卵行政に関する国民からの信頼を十分に得ていくためには、行政の透明性を更に向上させることが重要」としている。(太字、小松)
本報告書によれば、この調査・検証の目的は、吉川元大臣及び秋田元代表の贈収賄事件に関する事実関係の解明を行うことを目的としたものではなく、吉川元大臣、秋田元代表その他の関係者からの指示又は働きかけによって、農林水産省における養鶏・鶏卵行政の公正性が歪められたかどうかを明らかにすること、とされている。
また、当事者である吉川元大臣、秋田元代表、西川元大臣については、「今後の公判等への影響を考慮して本委員会から連絡を行うことは控えることとした」とされている。
真相を曖昧にしない
「これで農林水産省の養鶏・鶏卵行政の公正性が保たれていたと結論づけるのは無理がある」と、冒頭から斬り込むのは高知新聞(6月6日付)の社説。
「元農相から職員への働き掛けがあったことは確認している」にもかかわらず、元農相ら当事者に直接聴取していないことから、「説得力に乏しい。農政がゆがめられていないのか、さらなる検証が必要」「行政の信頼性を揺るがしかねないだけに解明は不可欠だ」と、訴える。
また、立件を見送られた元農相でもあった西川公也元内閣官房参与の動きや、秋田元代表の度重なる農水省詣での証言を得ながら、「報告書は政策がゆがめられたと疑われる事実は確認できなかったとする」第三者委員会に対して、「一連の動きを見れば、その判断をうのみにはしにくい」とは同感。
さらに、「事務次官ら幹部6人は、元農相と元代表らとの会食に同席し、費用を払わずに国家公務員倫理規程に違反したとして処分されている」ことに加えて、畜産事業者との会食に関して農水省の職員に行った追加調査で、「政治家が全額支払い、同席した職員は自己負担していなかったケースも5件確認された」ことから、「規律の緩みや認識の甘さを見る思いだ」と、嘆息する。
「養鶏・鶏卵行政では政官業の距離が近く、行政は政治や業者からの影響を受けやすい構造にある」ので、「政策決定の過程を改善し、事業実施状況の詳細公表で透明性を向上させる」ことを訴える報告書に対して、肝心要は「真相を曖昧にしないこと」とズバリの指摘で締めくくる。
納得できない報告書
6月8日開催の参議院農林水産委員会で、4名の野党議員がこの問題を追及した。皆その報告書の結論には納得しておらず、「中途半端感が否めない」(舟山康江氏・国民民主党)との感想も述べられた。
舟山氏と紙智子氏・日本共産党は西川公也元農相・元内閣官房参与の関与について問い質している。
舟山氏は、あらゆるところに顔を出している、最大のキーマンともいえる西川氏の聴取がなされていないことを問題視し、「本人の名誉のためにもヒアリングが必要」と訴えた。
舟山、紙、両氏は、2018年12月20日に開催された、吉川大臣の勧めによりセットされた「OIE(国際獣疫事務局)への対処方針を検討する会」(秋田元代表等の養鶏関係者、西川元大臣、関係国会議員数名と、農林水産省からは伏見畜産振興課長、熊谷動物衛生課長等が出席)で、「西川元大臣から、伏見畜産振興課長、熊谷動物衛生課長等に対し、2次案は受け入れられないと主張してほしい、大臣とも相談してほしい旨発言があった」点を問題視し、西川氏が「2次案に反対する主導的な役割を果たしたのではないか」と、疑問を呈した。ちなみに2次案は、止まり木等の設置を必須事項とする内容であった。
さらに紙氏は、西川氏が内閣官房参与という立場での関わりに注目し、「内閣官房を含めた調査」を強く求めた。
「確認できなかった」は「シロ」を意味しない
委員会での追及に対して、野上浩太郎農水相や農水官僚からもすっきりとした回答はなされなかった。
その土台の部分にあるのは、報告書に記されている「平成30年10月にOIEコード2次案の内容を確認した時点で我が国として反対意見を出すべきという方針が畜産振興課内では既に固まっていたと認められる。これらのことから、吉川大臣等の指示や働きかけにより、本事案に関する政策方針や検討中の案の変更があったとは認められず、したがって、政策が歪められた事実は確認できなかった」(太線、小松)という点である。
百歩譲って、当初よりわが国は、OIEが求める鶏に優しい止まり木や巣箱の設置の義務化には反対の姿勢を決めていたので、秋田元代表らの考えと同じだった。歪めるどころか、確信を深めた、とすれば、秋田氏を代表とした鶏卵業界はニシカワ、ヨシカワ、両ドブガワに無駄金を投げ込んだことになる。だれがそんな結論を信じるものか。魚心あれば水心。
長期的視点から動物福祉について検討すべき時に、政治家を使い、この国での在り方を考えることを断念させる圧力が働いたとすれば、そこまでさかのぼって追及すべき由々しき問題である。
「地方の眼力」なめんなよ
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