【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】もう一つの「洗脳政策」2021年12月9日
戦後の米国による「占領政策」で日本人の胃袋にコメでなくパンを押し込むための学校給食などを通じた「子どもにはパンを」という日本の学者やメディアも総動員した洗脳政策は「世界でこんな短期間に伝統的食文化を変えた国民はいない」と評価されるほどのすさまじさと大成功だった。そして、もう一つ見落としてはならない米国の巧妙な洗脳政策がある。
終戦後、米国の余剰農産物を日本人に食べさせるためのコメ追放運動では、著名な学者や大手メディアも大合唱して、「コメを食べてきた大人はもう運命とあきらめよう。しかし、せめて子どもたちの将来だけはパン食で幸せにしてあげよう」と子どもたちを主なターゲットにして大キャンペーンが展開され、国民はなぜか見事に信じ込んだ。
それは「こんな短い期間に伝統的な食文化を変化させてしまった民族というのは、世界史上でもほとんど例がないそうである。」との述懐<注>があることからもわかる。我々は素直で洗脳されやすい国民なのであろうか。
実は、もう一つ、忘れてはならない、根の深い米国の洗脳政策がある。米国のもう一つのすごさと巧妙さは、世界中から外国人留学生を受け入れて、彼らにシカゴ学派的な市場原理主義=新自由主義の経済学をたたき込んで洗脳し、母国に帰す戦略である。
当大学の経済学部も米国で博士号を取って米国の大学でAssistant Professorくらいまでやっている人材でないと採用されないとさえ言われている。彼らが日本でも教え、市場原理主義の「信奉者」が増殖し、官庁などにも入り、結果的に米国のグローバル企業の利益を増やすように働く。
経済学を学んだ人の一部には、大学のテキストが正しいとは全く限らないのに、一度テキストで教え込まれたことに疑問を持つことなく信じ込んで抜けられない傾向が見受けられるのは確かである。
米国で学んだ「信奉者」たちを観察してみると、人間は目先の銭カネの損得勘定だけで行動すると無邪気に信じて「規制撤廃」「自由貿易」を連呼するタイプと、意図的に企業利益増大を誘導するために悪用しているタイプがある(トッド、2011)。悪意のあるなしにかかわらず、いずれにせよ、「ロイコクロリジウム」に寄生されたカタツムリが想起されてしまうのが怖い。
<注>独立行政法人農業環境技術研究所『農業と環境』No.106 (2009年2月1日)
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