神さま・仏さま・ご先祖さまには国産サカキ・ヒサカキをお供えしたい【花づくりの現場から 宇田明】第17回2023年9月7日
前回紹介したのは、サカキ(Cleyera japonica)とヒサカキ(Eurya japonica)の名称の混乱。
日本の宗教行事、伝統文化では、神棚のお供え、お祓いや玉串の奉奠(たまぐしのほうてん)にはサカキを使います。
卸売市場に出荷された国産の山採りサカキの大束
仕入れた花屋が小枝に切り分け、小束にする
この大束から200束ほどがつくれる
名称混乱の原因は、東京ではヒサカキをサカキと称して代用していることです。
一方、サカキだ、ヒサカキだ、東京だ、大阪だと言いあっている間に、神棚、仏壇、お墓のお供えは中国産に取ってかわられてしまいました。
サカキ、ヒサカキの輸入量はそれぞれ4.0億本と3.3億本で、あわせて7.3億本(2022年植物検疫統計)。ほぼすべてが中国産です。
切り花(草本、木本、シダなどを含む)の輸入数量は19.3億本ですから、その38%を中国産のサカキ、ヒサカキが占めています。
ところが農水省花担当部署が公表している切り花の輸入数量は12.3億本しかありません。
その違いは、前回の写真のように、小枝を束にして輸入されているサカキ、ヒサカキの実態にあわせるために、小枝20本を1束、1束=1本と読みかえているからです。
では、サカキ、ヒサカキの輸入率はというと、正確にはわかりません。
輸入は小枝1本単位で公表されていますが、国産の生産数量が不明です。
農水省が調査していなくても、卸売市場協会の入荷量を調べればある程度わかるはずですが、それも難しいのです。
農産物の統計は重量(kg、t)が基本ですが、切り花は本数、鉢ものは鉢数です。
しかし、国産のサカキ、ヒサカキの出荷単位は、本数と重量が混在しており、本数がわかりません。
推定では90%以上が中国産と考えられます。
消費者が知らないうちに、神さま、仏さま、ご先祖さまにお供えしているサカキ、ヒサカキは中国産にかわっていたのです。
お供えのサカキ、ヒサカキが、なぜ中国産になってしまったのでしょうか。
主な要因は、国内生産の減少と、束にくくる労力の不足です。
国産は、生産者が山野に入り、自生しているサカキ、ヒサカキの枝を切りとる山採りと、スギ、ヒノキの林床での栽培が主です。
山採りは、生産者の高齢化や、山林の荒廃で激減しました。
また、林業としての生産では効率が悪く、生産性が低いことも減少の要因です。
国産のサカキ、ヒサカキの多くは画像のように大枝の大束で出荷されています。
それを花屋が仕入れ、小枝に切り分け、小束にして販売しています。
この束にくくる作業を、花屋の経営者がしているので、採算があわないのは当然です。
量販の花束加工業者でも、サカキ、ヒサカキの束加工は人手がかかり、採算にあいません。
そのため、1990年ごろから輸入がはじまった中国産のサカキ、ヒサカキの小束は、花屋、量販に大歓迎されました。
中国産を、消費者ではなく、花屋、量販が選んだのです。
国産の衰退に危機感を持った先進的な生産者が、国産サカキ、ヒサカキの復活をめざして、さまざまな活動をはじめています。
また、国産を差別化商品として販売したい花屋やスーパーも国産復活をのぞんでいます。
スーパーが、国産サカキ、ヒサカキと中国産とを並べて販売したところ、価格が高くても国産から先に売れていくことがわかりました。
多くの消費者は、神さま・仏さま・ご先祖さまには国産をお供えしたいのです。
次回は、国産サカキ・ヒサカキ生産が復活するにはどうすればよいかを考えます。
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