【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
ある講演先で貴重な勉強をさせて頂いた。今の日本経済を考える上で、問題の焦点はどこにあるのかを、ご参加下さった皆さんと考えた。その中で、筆者は故アホノミクスの大将が日本企業に向かって発した「日本の稼ぐ力を取り戻せ」の大号令が大いに罪深かったと思うと言った。
エコノミスト 浜矩子氏
「稼げ!もうけろ!攻めろ!勝て!」この掛け声にあおられて、日本の企業経営はうろたえながら突っ走ろうとし始めた。だが、突っ走ると言っても、激烈なグローバル競争の中では、そうそう、突っ走れる一本道が出現するわけではない。稼ぎともうけを大きくするには、どうしても、コスト削減に頼らざるを得ない。だから、雇用の非正規化を進める。会計上、人件費を固定費から変動費の項に移して少しでも節約を図ろうとする。これらの動きが日本の労働者たちを苦境に追い込んだ。
必死の経費削減でも、アホノミクスの大将が掲げた収益目標に手が届かないとなると、日本企業の焦りは募る。アホノミクスの大将に見放されては大変だ。この焦燥感が、企業を追い詰めた。追い詰められた企業たちの中には、不正会計や品質管理に関する偽装工作に頼る誘惑に負けるケースが増えるようになった。「稼げ!もうけろ!」の大音声が、日本企業から魂をむしり取って行く。
「稼げ!」の呼び声は企業のみならず、日本の家計にも向けられた。自分の金融資産にもっと稼がせなければいけない。おとなしく銀行にお金を預けている場合ではありませんよ。貯蓄はやめて投資をしなさい。日本の家計に「貯蓄から投資へ」の指令が飛んだ。この指令は、ここに来て一段と勢いを増している。NISAやIDECOの出現が、掛け声に応じる誘因を強めた。特に、金銭的な将来不安が大きい若者たちが、この号令に強く引き寄せられている。
企業向けの「稼ぐ力を取り戻せ」の命令が、企業を人件費の大節約に追いやる。だから、労働者の所得は伸びない。働くことがもたらす収入に期待できないとなれば、確かに「貯蓄から投資へ」が救世主じゃないか。企業と家計の間を行き来するこんな論理のループの中で、日本経済は「稼ぐ」ことが全ての世界に絡めとられて来た。企業も家計も、「稼げ」の魔の響きに翻弄(ほんろう)されて来た。
こんな具合に、日本経済は小突き回され、健全性とバランスを突き崩されて今日にいたっている。筆者はこのように論じた。すると、質疑の時間帯に移ったところで、ある参加者が筆者の主張に大いに同意して下さりつつ、その上で「稼ぐ」という言葉には、アホノミクスの大将の号令とは別の意味があると指摘して下さった。アホノミクスの大将の号令において、「稼げ」と「もうけろ」は明らかに同意だ。ところが、この質問者の指摘によれば、「稼ぐ」とは、本来、一生懸命に田植えをしたり、収穫が増えるよう努力するということを意味するのだという。「稼ぐ」とは、決して、カネもうけを追求することばかりじゃない。今の日本の若者に、このことを教えてやる必要があるのじゃないか。質問者はこのように言われた。
これには、はっとさせられた。抜かっていたなと思った。その日、帰宅して早速、辞書を引いてみた。すると、確かに確かに!そこには次のように書かれていた。「生業に励む。精出して働く。力をつくす。心を砕く。探し求める」「もうける」という意味づけはかなり後の方になってようやく出て来る。「手間賃を稼ぐ」、「点数を稼ぐ」という具合だ。
おお何と!これは素敵なことを教えて頂いた。辞書が重きを置く本来の意味合いにおいてであれば、「日本の稼ぐ力を取り戻す」ことは素晴らしいことだ。この脈絡において「稼ぐ力を取り戻す」ことは、「魂を取り戻す」ことに通じる。アホノミクスの大将、今頃、草場の陰で恥じ入っているかどうか。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ブロッコリーの黒すす病にSDHI剤耐性菌が発生 北海道2025年12月25日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年12月25日 -
家庭での米消費、前年比11.7%減 マイナス幅拡大、「新米不振」裏付け 米穀機構11月調査2025年12月25日 -
米価高騰に対応、「4kgサイズの米袋」定番化 値ごろ感出し販売促進 アサヒパック2025年12月25日 -
協同組合の価値向上へ「鳥取県宣言」力強く2025年12月25日 -
【世界を診る・元外交官 東郷和彦氏】トランプ再来の嵐 自国利益に偏重2025年12月25日 -
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ日本は食料難の経験を教科書から消したのか?2025年12月25日 -
【Jミルク脱粉在庫対策】基金初発動1.2万トン削減 なお過剰重く2025年12月25日 -
すべての都道府県で前年超え 2024年の県別農業産出額 トップは北海道2025年12月25日 -
【農と杜の独り言】第7回 祭りがつなぐ協同の精神 農と暮らしの集大成 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年12月25日 -
国連 10年に一度「国際協同組合年」を決議2025年12月25日 -
秋田と山形の3JAが県越え連携協定2025年12月25日 -
日本産の米・米加工品の輸出促進策を議論 「GOHANプロジェクト」で事業者が意見交換 農水省2025年12月25日 -
26年産米の農家手取り「2万5000円めざす」 暴落の予兆に抗い再生産価格を確保 JA越前たけふ2025年12月25日 -
笹の実と竹の実【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第370回2025年12月25日 -
茨城県で鳥インフル 97万羽殺処分へ 国内10例目2025年12月25日 -
ホットミルクと除夜の鐘 築地本願寺でホットミルクお振舞い JA全農2025年12月25日 -
JA共済アプリ・Webマイページに「チャットボット」機能を導入 JA共済連2025年12月25日 -
5県9JAの農産物・加工品を販売 第46回マルシェ開催 JA共済連2025年12月25日 -
短期プライムレートを年2.125%に引き上げ 農林中金2025年12月25日


































