【浜矩子が斬る! 日本経済】トランプ大統領登場で久々に飛び出した古典的ジャパン・バッシング2025年1月20日
「中国は悪者だ。中国は邪悪だ。中国は悍(おぞ)ましい。だが、日本はもっと酷い」米国のある実業家が発した罵声である。その人はロレンソ・ゴンカルぺス。米国の鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの最高経営責任者である。日本製鉄によるUSスティール買収を絶対許すまじ。この気合いを全面的に露わにした記者会見の場面において、この発言が飛び出した。
エコノミスト 浜矩子氏
一連の罵詈雑言の映像を見ていて、実にびっくり仰天した。あまりの熱狂ぶりに少々笑えたエンタメ性があったとさえ言える感じだった。この点は注意を要するが、これについては後述するとして、まずは、こういう激昂的対日攻撃を目の当たりにする時、筆者の脳裏によみがえって来る場面を振り返るところから始めてみたい。
ゴンカルぺス発言に当面する中で、久々に筆者の頭の中に浮かんで来た言葉がある。それは、「ジャパン・バッシング」だ。1970年代後半から1980年代前半辺りまでの時期に多くのメディアにこのフレーズが盛んに登場した。欧米の企業や労働組合による日本たたき。それがジャパン・バッシングだった。日米通商摩擦。日欧通商摩擦。欧米の主要産業が次々と日本の輸出攻勢に見舞われて窮地に陥る。その中で、日本車の焼き打ちなどを含むジャパン・バッシングがたけなわを迎えた。日本の鉄鋼業もその矢面にさらされていた時期があった。
ゴンカルぺス発言には、あの当時へのタイムスリップを思わせるものがある。だが、それにしても、あの筆者も目の当たりにしたゴンカルぺス流憤怒の背景には、一体何があるのだろう。ここを注意深く考える必要があると思う。一人の男の時代錯誤と勘違いの産物。そんな風に一蹴するのは、危険かもしれない。そういう観点から考えてみた時、この一件は我々に何を示唆し、警告してくれているのだろうか。
さしあたり、三つのことを思いつく。一つには、飼い犬に手をかまれた感。二つには、タブー破り感。三つには、好機到来感。三つ目が最も要警戒かと思う。
まず、飼い犬に手をかまれた感である。この雰囲気は、ゴンカルぺス会見の中の随所に登場する。彼いわく、日本は1945年以来の展開の中から、何一つ学んでいない。何も分かっていない。我々がどれほど寛容で、どれほど寛大で、どれほど忍耐強くあんたらに手を差し伸べたことか。この一連の大恩を忘れるとは何ごとであるか。忠実に献身的に、憧れの眼差しをもって見つめる相手にアタックをかけるとは、どういうことか。この恩知らずめ。
第二のタブー破り感。これは、日鉄が手を出した先がUSスティールだったところにある。戦後米国による「パックスアメリカーナ」、すなわち米国の繁栄による平和の一つの輝かしい象徴が米国の工業力だった。そのまた大いなる象徴だった鉄鋼業。それがかつてのジャパン・バッシング時代に、日本の輸出攻勢によって手痛い打撃を被った。そして、いまや日本による乗っ取りの対象になっている。こんなこと、許せるか。
第三の好機到来感。これは、ドナルド・トランプの登場に由来する。この人が大統領なら、何だって言える。どんな外国バッシングだって通用する。このムードが実に気掛かりだ。
ゴンカルぺス氏は、日鉄の最高経営責任者、橋本英二会長から「車も家も最後の一円も、そして飼い犬も奪ってやる」と言ったらしい。この点は報道だけに基づいていて、それ以上には確認できてないが、事実だとすれば、笑える。だが、決して笑ってはいけない。笑うことは危険だ。攻撃性に富む人が、こういう発言が許されると踏んだ時、何が起こるか分からない。橋本会長は犬を飼っているのか。この質問が日鉄に対してメディアから出たらしい。回答はノーコメントだったという。答えておいて方が良かったかも。
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