【浜矩子が斬る! 日本経済】通商政策を武器化したトランプ大統領2025年2月5日
ドナルド・トランプが関税戦争に乗り出した。コロンビア、メキシコ、カナダ、中国。敵味方お構いなく、高関税の拳を振り上げまくる。次はEUが餌食になるかもしれない。日本への攻撃はいつ始まるか。
エコノミスト 浜矩子氏
19世紀末から1930年代半ばにいたるまで、米国は名だたる高関税国だった。1890年のマッキンレー関税法、1897年のディングレー関税法、1909年のベイン・オールドリッジ法などが、20世紀初頭にいたる米国通商史に残る高関税法だ。
時は下って1930年、米国をそれまでにも増して突出した高関税国の地位に押し上げる法律が成立した。1930年関税法、通称スム―ト・ホーリー法である。世界恐慌が猛威を奮う中、ハーバート・フーバー第31代米国大統領がこの悪名高き関税法に署名した。
スム―ト・ホーリー法が成立したことによって、2万品目におよぶ米国の輸入品について一気に平均50%近くの関税引き上げが敢行された。かくして、米国に事実上の輸入絶対禁止体制が出現したのであった。
25%、50%、100%。手当たり次第に高率関税を振りかざすトランプ大統領は、さながら、独りスム―ト・ホーリー法のごとしだ。だが、スム―ト・ホーリー型の高関税政策とトランプ流高関税攻勢の間には、一つの決定的に大きな違いがある。スム―ト・ホーリー型は、保護貿易主義である。国内産業を輸入品との競争から守ることを目的としている。紙一枚たりとも、輸入品の米国侵入を許さない。それが禁止的高関税体制の目指したところだ。
これに対して、トランプ流は保護貿易主義ではない。国内産業を輸入競争から守ることを目指してはいない。トランプ流高関税は恫喝主義だ。脅し大作戦である。高関税を突きつけて、貿易相手国から欲しいものを奪い取る。不法移民の国境を越えた米国侵入を許すな。危険な薬物を米国に売りつけるな。領土をよこせ。米国からもっと物を買え。
トランプ流関税は、相手から米国が欲しいものを強奪するための手段だ。トランプ大統領は、関税を外交上の武器として使おうとしている。相手の不公正な貿易行為に対する報復などではない。自己防衛行動ではない。極めて攻撃的に、相手から譲歩をもぎ取ろうとしている。
このような形で、米国が通商政策を乱用したケースはいまだかつて無い、これは、もはや通商政策とは言えないだろう。世界は、このようなやり方がまかり通ることを許していいのか。
攻撃の矢面に立たされた時、日本はどうするのか。何が飛び出して来るか分からない。もっと米国製品を買えというような要求であれば、今に始まったことではない。牛肉やオレンジの輸入をもっと自由化してくれ、というような要求なら、かつてもあった。これなら、通商交渉の範疇(はんちゅう)に納まる。だが、もっと国防費を増やせ、と言ってきたらどうする。GDP比で2%などと、ケチ臭いことを言うな。目指すは5%なり。そんな風に迫って来たら、何と応えるのか。日本国内にもっと米軍基地を増やせとか、基地運営の費用負担にもっと対応しろとか、矢継ぎ早に要求リストを繰り出して来たら、何とする。筋の通る反撃を考えておく必要がある。
この点との関連で、面白いのが中国の対応だ。中国に対しては、既に高関税化しているところに持ってきて、さらに10%の追加関税を課すと言っている。それに対して、中国は不当行為だと反論すると同時に、米国の関税政策についてWTOに提訴する可能性を示唆した。これはなかなか正攻法だ。今のWTOは、その紛争処理体制を米国が事実上ボイコットしているから、提訴しても埒(らち)が開かない可能性が大きい。だが、それはそれとして、通商上のもめごとは、通商上の然るべき遡上(そじょう)に乗せてやり合うのが筋だろう、という構えを示した。したたかだ。
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