【今川直人・農協の核心】種子・種苗は国益第一で2025年2月25日
中国のシンジェンタ買収
種子は農産物より高価格で貯蔵性が高く、農業生産を制約する技術が凝集しているので、農産物と同様に重要な物資である。
シンジェンタ社はスイスに本拠地を置く多国籍企業である。主力商品の農薬では世界第一位、種子では第三位の売上高である。中国化工集団公司(ケムチャイナ、国有企業)が2017年にこのシンジェンタを買収した。
食料の確保はどこの国にとっても重要な政策であるが、とくに社会主義国家ではその優先度が高い傾向がある。中国は大豆(自給率19%)、トウモロコシなどの穀物輸入が急増している。農業政策では耕地と種子をとくに重要視しており、2023年に成立した「食料安全法」の各論の第一が耕地、第二が種子である。野菜の種子の自給率は10%未満で、必死である。知的所有権は尊重してもらいたいが、農業重視・自国第一主義には見習うべきところが少なくない。
海外生産と知的所有権
「種苗をめぐる情勢」(農水省、令和5年4月)の「我が国における種苗の需給動向」の項に、「日本の種苗会社が、原産地に似た気候で育てた方が良質な種子ができること等の理由により、国内流通の約9割の種子を複数の国に分散する形で海外生産・輸入云々」の記述がある。「世界の主要種苗会社」の項には「サカタのタネはブロッコリーで高い世界シェア、タキイ種苗は東南アジ アのキャベツで高いシェアを有している。国内市場の拡大が見込めない一方、種苗の国際競争の激化が見込まれており、我が国種苗会社のさらなる輸出拡大や海外展開が重要」とある。
人件費節約のために、国内で開発した新製品を国外の企業が生産し、製品を輸入し国内で販売する開発輸入の考え方である。農水省は日本の二社が日本の需要を超えて生産し生産国から世界中に輸出することを含めて「重要」であるとしている。このような種子供給形態が日本の高い品種改良技術の漏洩につながるというのが国内生産派の一つの論拠である。
自家増殖できるのは育成者権の存続期間(最長25年~30年)が切れているか元々育成者権が発生していない品種。種子会社は日本企業とはいっても生産は現に外国。農家にとっては、購入は更新やF1だけだった昔の方がよかった。しかし、規制緩和(種子法廃止)と権利保護(種苗法改正)は制度としては受け入れざるを得ない。
農協の取り組み強化
種子法廃止・種苗法改正によって、地方公共団体とこれと連携する農協の実質的な責務は重くなっている。長野県では、一般社団法人長野県原種センター(1987年設立。令和2年の種子条例に基づく種子管理団体。農協・連合会が基本財産10億円の約4割を出資)が県職務育成品種(主要農作物及び野菜)の苗を、そして全農長野と農協が野菜・花きの苗を生産している。
令和5年12月、全農は、いもち病に強く縞葉枯病抵抗性を持つ、早生の業務用多収品種「ZR1」を農研機構と共同で育成したことを発表した。令和10年産までに1000haの作付けを目指している。それより前の令和3年9月には日清製粉、農研機構と三者で汎用性(地域・生地物性)の高い小麦の開発に取り組むことを発表している。成果が待たれる。
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