(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
先日、世界の農業をめぐる過去の大変化をまとめた報告が米国農務省から出されましたので、適度にコメントを入れつつ時系列で紹介してみます。
【1960年代:緑の革命】
余りにも有名。改良品種の採用、施肥、灌漑などの普及により、途上国における主食用穀物(コメと小麦)の生産量が大きく増加した。多くのテキストで言及されている。
【1970年代:集団農場の失敗】
旧ソ連のソホーズ、コルホーズなど集団化した農業形態である。アジアでも中国・ベトナムなどの国が伝統的な家族農業モデルから大規模集団農場モデルへ移行した。しかし、1970年代後半には中国がこの形式を個別責任方式に転換、ベトナムも同様のドイモイ改革を実施した。アフリカでもアルジェリアやエチオピアなどが集団農場を実施したが、結局、定着していない。理由は農民の労働と自発性に見合う報酬が得られなかった点が大きいと見られている。
冷めた目で見れば、20世紀後半における大失敗した社会実験である。こういう視点で冷静に農業の変化を振り返ることが出来るかどうかが、その後の進歩につながる。
【1980年代:ソ連の消滅と計画経済の終焉】
旧ソ連とその衛星諸国における中央政府による計画経済の終焉、そしてその後の農業改革である。キーワードは民営化と農業補助金の削減だが、旧ソ連崩壊後の各独立国間で改革の内容や進度は大きく異なっていた。そのため、この報告書には2020年時点ですら、これらの国々の合計農業生産高は1989年をわずかに下回るとのことである。ただし、資源の利用や生産方式などはより効率的になっているという。
【1990年代:「畜産・熱帯油糧種子・水産」の革命、サプライチェーン転換、政策改革】
この時期には目に見える多くの変化が生じた。まず、低中所得国の人口増加と都市化などにより畜産物・乳製品の需要が急増した。「緑の革命」は改良技術の導入による供給主導型革命だが、畜産革命は需要主導型革命である。次に、南米の大豆と東南アジアのパーム油の需要が急増した結果、世界の貿易構造にも大きな変化が生じた。さらに、水産における養殖が急増し始めた。ちなみに、世界の養殖魚介類の生産量は1990年の1,370万トンから2020年には8,640万にまで伸びている。
生産から消費に至るサプライチェーンでは、消費におけるスーパーマーケットの拡大が象徴的である。これにより家計の食料調達と買い物方法が変化した。個々の生産農家と多国籍食品企業との関係もこの時代に大きく変化し始めている。
もう1つ大きな変化として、この時代から各国政府は農業補助金を少しずつ生産から切り離す政策を実施し始めている。EUの1992年共通農業政策、米国の1996年農業法などが代表的である。
【2000年代:バイテクノロジー革命】
最初のGM(遺伝子組換え)作物が1990年代半ばに商業化され、その後、急速に拡大した。作付面積ではトウモロコシ、大豆、綿、キャノーラが代表的作物であり、特徴形質は害虫耐性と除草剤耐性である。作物収量と農家の利益を増加させ、農薬使用量と食品価格を低減させたなどの経済的・環境的な利益が示された一方、消費者の安全性に対する懸念とそれに対応した形でのさまざまな規制が依然として多くの国に残る。なお、2025年現在、先の4品目以外で言えば、コメと小麦がごく一部商業化されている国もあるが、輸出市場における消費者の拒否感が強く普及はしていない。
【2010年代:バイオ燃料革命】
バイオ燃料製造のための作物利用が急増した。穀物などはガソリンに混合するエタノール生産に、植物油はバイオディーゼル生産に用いられるようになった。環境とエネルギー安全保障、輸入化石燃料への依存や温室効果ガス排出の低減などがキーワードである。
* *
これはあくまでひとつの視点です。さて、皆さんはどう振り返りますか?
Fuglie, K., Morgan, S., & Jelliffe, J. (2024). World agricultural production, resource use, and productivity, 1961-2020 (Report No. EIB-268). U.S. Department of Agriculture, Economic Research Service. https://doi.org/10.32747/2024.8327789.ers
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