着実な担い手確保へ JAきたみらいなど先進3JAに学ぶ JA全中・次世代総点検セミナー2024年11月29日
JA全中は、着実な担い手確保で地域農業の将来像を策定するため次世代総点検運動実践セミナーを開いた。先進3JAが組合員との対話徹底による地域ビジョンづくりなど、創意工夫ある事例を紹介。今後、各JAはこれらを情報共有し地域実態に沿った次世代組合員確保の「ヨコ展開」を加速する。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
【画像】次世代組合員確保へ3JAの先進事例を学び意見交換した「次世代総点検運動実践セミナー」
(東京・大手町のJAビルで)
■30回JA全国大会の中心議題
実践セミナーは今回で2回目。オンライン併用を含め全国のJA役職員約50人が参加した。次世代総点検運動は、食料安全保障の構築を柱とした改正食料・農業・農村基本法制定を踏まえ大きな節目となった10月のJA全国大会決議の5戦略の一つ、食料・農業戦略の柱だ。
大会スローガンである「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力~協同活動と総合事業の好循環」を達成するためにも、5年、10年先を見通した、地域農業の青写真、将来的な農業戦略、そのための担い手確保などが問われる。セミナーでも強調されたのが次期地域農業振興計画(JA中期計画)の見直しの在り方だ。特に、いかに組合員参画による実践的な中期計画を策定していくかだ。3JAの先進事例を学び、出席者からは自分たちの地域に役立てていくか活発な質疑が行われた。
■次世代組合員をどう確保
西井賢悟JCA主席研究員が今回のセミナーの狙い、課題などを五つのポイントを挙げ説明した。この中で中期計画の見直し、策定にあたっては、組合員の参画をいかに実現するか。具体的目標値、特に次世代組合員数をいかに設定するか。計画を絵に描いた餅にしないために、いかに着実に実践するか。地域農業の柱となる担い手確保、具体的には親元就農支援、新規就農支援、離農農家から次代に経営を引き継ぐ事業継承支援の要諦――が重要とした。
次世代総点検運動は、第1段階で組合員参加型の中期計画策定、第2段階にで新規就農をはじめターゲットに応じた担い手確保へ個別支援の実践のいわば「2段ロケット」となっている。国内の担い手の動向は、基幹的農業従事者の平均年齢が2022年で67・9歳と高齢化が年々進む。20年後の基幹的農業従事者の中心となる50代以下は2割超に過ぎない。これらをいかに中期計画に位置付け、さらに就農者を増やし農業振興を図っていくのかが、将来的に地域経済の浮沈を握る。
西井氏は、組合員は所用者、利用者、運営者の三位一体的性格を持つとして、次期地域農業振興計画の論議を通じ協同組合らしさの再構築にもつながると指摘。「組合員自らの意向が反映された計画ならばJA利用による実践に結び付くはず」としたうえで、「地域農業の主体は農業者。JAの地域農業振興計画は、農業者・組合員が仲間とともにどのような地域農業を目指すのかをまとめたものだ」と強調した。
■JAきたみらい「組合員参画で堅固な生産基盤」
同セミナーで事例報告したJAきたみらいは、道東・オホーツク管内の畑作専業地帯を束ねタマネギ生産日本一を誇る北海道を代表する典型的な営農型JAの一つ。
生産組織との協議、経営者や後継者など属性別のアンケート実施、地区別での意見交換で農業振興方策を作成している。出向く営農経済、日々の対話を重ね徹底した組合員参画による地域農業構築が特色だ。営農振興部の高橋幸浩部長は「地域の将来像を組合員が我が事として話し合いを進めた」と強調した。JA合併20年間で組合員は半減したが、生産額は拡大し、農業者1戸当たりの農業収入も増えた。
組合員との信頼構築のポイントに「ふれあい相談グループ」の役割が大きい。ほ場に直接出向き担い手の声を日ごろから徹底的に聞く。タブレットを使い将来的な地域農業、品目別の具体的なシミュレーションを数字で示し、理解を深めている。次期地域農業振興計画をつくるための組合員アンケート回収率96%と驚異的な高さは、JAと組合員の一体感の証しだ。
また、「農家の子供が後継者になるため」として、2年に一度、農繁期の夏休み期間中にJAが引率し小学校5、6年生の農家子弟を東京の市場に連れていき、地元産の農産物の存在感を実感するツアーを企画するなど、ユニークな次世代対策も実践している。
■JAふくしま未来「のれん分け」担い手拡大
営農、くらし、組織基盤強化など全国屈指の先進事例を実践するJAふくしま未来は、「ど真ん中に"食と農" 、次代につなぐ地域づくり」と題し、創意工夫ある担い手育成手法を報告した。
独自の「のれん分け方式」で新規就農者を確保し、募集、就農、定着の各段階で支援を行う。就農者の収入確保を後押ししながら離農を防ぐ。営農経済部の佐藤邦彦部長は「就農前の面談で営農継続のための具体的な条件、課題など対話を徹底することが欠かせない」とした。JA独自の新規担い手助成制度を備え、50万円を上限に支援する。
一方で、地域農業のレベルアップへ営農技術の高位平準化の対策も進める。その一つ、「農の達人」による技術伝承。長年の経験と豊富な知識・技術を有する中核的農家を「作物別営農技術員」(農の達人)として委嘱。JA営農指導員や若手農家・新規就農者への技術伝承を図る仕組みだ。
同JAの強みの一つは産地の動き、努力を「見える化」「伝える力」。営農分野と広報の連携、戦略的な産地販売戦略を展開している点だ。毎月の動画発信によるトップ広報、若手職員によるPR隊、JA・生産者・消費者をつなぐJAからの発信であるYoutube「みらいろチャンネル」、SNSによる情報発信など、多角的なチャネルで地域の魅力を伝える。
広報センスの良さは言葉の選択に象徴される。キーコンセプト、合言葉は「みらいろ」。ふくしま未来と地域の未来を重ねた語呂合わせで、果実、穀物、野菜、畜産の同地域のバランスの取れた主要農畜産物を4色で表す四つ葉のクローバーの図案で展望ある「みらい」を示す。
■JA愛知東「生産部会と事業計画策定」
三番目の事例報告であるJA愛知東は、長野、静岡両県に接する中山間地を管内とした奥三河に位置する。
新規就農者の事業計画を生産部会と共に作成し、担い手定着を後押しする。トマトやイチゴなど5品目を地域農業振興と所得拡大の「攻めの品目」に位置づけ、JA主導の新たな産地育成にも挑む。農家可処分所得550万円以上を確保でき、産地規模拡大が見込める品目だ。営農企画課の清水啓行課長は「新規就農の確保・育成へJAの役割がますます重要となる」と強調した。
JAは、未来へつなげる持続可能な奥三河農業の実現を目指す。三つの担い手づくり(水田農業・基幹品目・産直直販)、トマト、イチゴ、ホウレンソウ栽培などでの新規就農者の確保、担い手への労働力支援などにも力を入れる。
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