【農業協同組合研究会】JA・農業者は基本法見直しにどう向き合うべきか 23年度研究大会2023年4月24日
農業協同組合研究会は4月22日東京都内で2023年度研究大会「JA・農業者は食料安保確立をめざす基本法見直しにどう向き合うべきか」を開き、JA、生産者と研究者が問題提起、どう基本法を見直すべきかを議論した。オンラインを含めて80名が参加した。概要を紹介する。
基本法見直しをめぐって報告や議論が交わされた農協研究会の研究大会
低い熱量 現場から深掘りを
研究会では会長の谷口信和東大名誉教授が、検証部会を中心としたこれまでの基本法見直し議論の状況と課題を指摘した。
昨年10月に始まった農政審基本法検証部会での議論は6月の中間とりまとめに向け2月から始まった「基本理念」、「農業」などテーマ別の議論も4月28日に「基本計画」をテーマした会合が残されているだけで、その後、5月19日からはとりまとめに向けたが始まる。
まさに最終局面に入りつつあるが、検証部会も含めて「国民的な議論の熱量が高いとはいえない」のが現実であり、「求心的なテーマが示されないまま各論に入り、総花的でまとまりがなく、強烈なメッセージ性に乏しい議論になっている」と指摘。それは危機意識に乏しい日本社会の現実を反映したものともいえるが、改めて農業者や農業団体の「心からの要求や意見を深掘りする必要がある」とした。
一方、財務省の財政制度等審議会が小麦や大豆などの国産化や備蓄の強化について、昨年の予算編成の建議で「疑問を抱かざるを得ない」と記したことに野村農相は4月18日の参院農林水産委員会で「疑問を抱かざる得ない」と批判したことをふまえ、谷口会長は「財務省など変わらぬ新自由主義でもっぱら農業を産業としてだけ捉える。農水省を批判しているだけでは済まない」と、今回の基本法見直しや食料安保強化策をめぐる政治状況を深く捉える必要性を訴えた。
こうした状況のなか、中間とりまとめは、これまでの検証部会で農水省が示した論点をそのままとりまとめとするのではないかと懸念し、「本当にそれでいいのか。日本の農業と食料安全保障は最大の危機に直面している」と強調し、このなかでJAや生産者がどう展望く実践しているか、この研究会で学び議論することの重要性を指摘した。
適正な価格形成を
研究会では4氏が報告した。JAグループは5月11日の全中理事会で政策提案を決めるが、それに先立ちJA全中農政部の加藤純次長が「基本法見直しに対するJAグループの見解」を報告した。
JAグループは2月に基本法見直しの「基本的考え方」を決めた。
ポイントは6つ。1つ目は食料安全保障の定義を明らかにして、「平時」を含む「食料安全保障の強化」を基本法の目的として明確に位置づけること。また、小麦、大豆、飼料作物など輸入依存度が高い農産物の増産と国産への切り換えを基本法に明記することと、米を軸とした備蓄の強化だ。
2つ目は平時の食料安保の強化の観点から、フードバンクや子ども食堂への支援など新たな食料支援策を創設すること。
3つ目は「適正な価格形成」。現行基本法では「合理的な価格」とされているが、これを「農業の再生産に配慮した適正な価格が必要だ」と主張している。それを実現するため、フランスのエガリム法など海外の取り組みなども参考に施策を講じるよう基本法に記載することを求めていく。
4つ目は「中小・家族経営」などの多様な経営体を基本法に位置づけ、これを育成、確保していくと明記すること。また、農地については不適切な取得や利用の排除、優良農地の転用規制など、地域と調和した農地の適正利用の強化が必要だとしている。
5つ目はみどり戦略への対応だが、農業者だけでなく事業者、消費者それぞれが環境負荷軽減に向けた取り組みを促進することなどを求めている。6つ目は、日本型直接支払いの基本法への位置づけ。都市農業の役割の明記、JAなど農業団体が果たしている役割の明記などだ。
そのほか加藤次長はJAグループの「国消国産」運動で国民が国産品を買うように行動変容に向けた取り組みにも力を入れることを強調した。
地域資源の活用に力
熊本県のJA菊池の三角修組合長は「食料自給率向上と地球温暖化防止をセットにした国民運動」を提唱した。
同JAでは、輸入飼料を減らし水田を守る米を20%飼料に混ぜて牛を育てる「えこめ牛」を生産しているほか、たい肥を製造し耕畜連携も進めている。とくに最近ではペレットたい肥とたい肥入り複合肥料の製造と普及に力を入れている。
とくに肥料価格が高騰するなか、たい肥入り肥料で栽培した大玉スイカではコスト削減だけでなく糖度も上がり農家の所得向上につなげている。
三角組合長は耕畜連携や地域内循環の取り組みはCО2排出量削減につながる取り組みであり、これをポイントにして消費者に付与する仕組みの導入を提案している。CО2排出削減とともに、食料自給率向上にもつながる。「消費者が理解できるよう可視化することが大切だ」と述べた。
日本農業守るため 都市の農から発信
大農業地帯の熊本に続き東京の農業から基本法の見直しを考える報告を行ったのは、東京都三鷹市で植木生産をするJA東京青壮年協議会の須藤金一顧問だ。
農業生産額は東京都全体で234億円。一方、JA菊池は販売高285億円だ。2015年の都市農業振興基本法制定で都市農地は「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと大きく転換した。しかし、相続によって年100haずつ東京の農地は減少している。
「先輩に言われたのは、都市農業は厳しく、だからこそ国にも市民にも自ら発信していかなければならないということ。防災機能や教育機能など市民にとっての多面的機能があること訴えて、東京農業はがんばっていることを理解してもらうのは日本農業全体を守ることになる」と強調し、相続税による農地の減少を食い止めるには農家の努力だけでは限界があるとして「基本法に税制面での措置を講ずるよう明記を」と訴えた。
貧困層対策が必要な時代
東京大学大学院の安藤光義教授は、研究者の視点から論点を提示した。
食料安全保障の強化の観点から、農業者の再生産を保証する価格形成をどう実現するかが課題となっているが、その仕組みのため生産者の生産コストに関するデータをどう集めるかなど課題は多いことに加え、国内の所得格差が進みなかでの食料品価格の値上げは低所得層には極めて厳しい。安藤教授は「消費者負担型農政には限界がある」として、適切な所得再分配政策こそ必要で、貧困層を取り残さない食料政策を実現するためには、法人税の課税強化、金融資産課税の実施など農政を超える課題に目を向ける必要があることを指摘した。国民的議論が盛り上がらないのも「取り残された」と感じる若者など、社会そのものへの批判が増加していること挙げた。
また、国内生産を増大させることは求められているが、自給率向上の鍵は飼料の国内生産。子実用トウモロコシや飼料米などの増産には財政支出が必要だが「国の覚悟が問われる。予算に上積みがなければ農業者は踏み出せない」と強調した。
一方、農業政策の論点は「農地集積ではなく担い手の育成・確保」と提起した。人・農地プランが地域計画として法定化される一連に農地制度改正で、多様な「農業を担う者」が加えられたことと、地域での話し合いで策定される地域計画は、「農地の自主的管理の復活」として高く評価できるとした。ただ、見直しが絶えず行われる運動となるかが問われる。
また、多様な「農業を担う者」に対して具体的なメリット措置は用意されておらず、「農地を守る直接支払い制度が不可欠だが、まったく議論されていない」。同様にみどり戦略も消費者負担に限界はあり、目標を達成するには「最低でも掛かり増し経費や減収分に対する補償支払いの実施がないと思うような実績は上がらないのではないか」と疑問を投げかけた。
農地維持へ対策を
報告を受けた議論では市街化調整区域では農地の転用する実態があり「都市農地を守るといいながら矛盾している」(須藤氏)という根本も指摘され「人口減少社会でこれ以上の都市拡大は必要か。農地はつぶさない姿勢を示すべき」と安藤教授は話した。
また、JAグループの組織討議も組合員レベルまでは降りていないとの意見もあり、谷口会長は「農民から自分たちがこうするという現場の運動、実践がもっと求められている」と強調した。
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