JAの活動:緊急連載-守られるのか? 農業と地域‐1県1JA構想
JAながのの合併(1)―合併の理由と管理体制2018年2月9日
◆合併の経過
長野県では2006~2009年にかけて20JAを16JAにする案が検討されたが実現しなかった。それに対し2012年冬に北信7JAの合併の話がもちあがったが、3JAは時期尚早として検討に加わることなく、2013年10月にJAながの、須高、志賀高原、北信州みゆきの4JAの組織再編検討委員会が設立され、地区総代懇談会や集落懇談会等での説明が繰り返し行われた。
2015年3月頃よりJAちくまも参加に向けて説明会がなされだし、6月には5JA合併推進委員会の設立となり、年末に合併予備調印式にこぎつけた。参加を見合わせた2JAのうち、JA中野市は新JAながののど真ん中に位置し、JAグリーン長野も合併JAの間に挟まっている。JA中野市はきのこにかなり特化し、貯金800億弱円で貯貸率は56%に及ぶ。JAグリーン長野も貯金額1,800億円、長野市の犀川南部をエリアとする果樹・きのこ農協である。両JAとも当時の組合長の判断により、「時期尚早」として合併参画を見送った。事業・収益の減少への将来不安はあるものの、合併により職能組合色が薄れることを懸念したようだ。
◆合併の理由
では5JAの合併理由は何か。第一に人口減少とそれにともなう事業量減、第二に、金融秩序の高度化、第三に「農協改革」における農政の職能組合への舵切りといった事態にどう対処するかである。人口減少と言う点では、参加農協にはJA北信州みゆきのような運動体として優れたJAもあるが、飯山市の人口減は激しかった。2013年に行われた県のシミュレーションでは5~10年後には多くのJAが赤字になるという結果が出たことも背景にある合併JAのうち2JAはスキー関係やきのこ等の不良債権をかかえており、スキー場等の動向によって事業収益が大幅に増減する経営となっていた。JA北信州みゆきはぶなしめじを中心としたきのこ、JA志賀高原は全国でも高い評価をうけているリンゴなど県下有数の生産量と品質を有していたこともあり、合併により総合的な販売が可能となり、生産者メリットもでるだろうという判断で参加に踏み切った。
「組合員懇談会資料」(2015年10月、16年2月)では、5JA合併により、果実取扱高が県JAの40%を占める大型JAになること、「さらなる有利販売を最重要課題」とすることが強調されている。また貯金額も県内地域信用金庫と同等規模になり、地域や組合員の「農」や「くらし」をサポートできるとしている。このような規模の経済の追求とともに次の狙いがある。表1で合併前の各JAの販売額構成をみると、果実が7~8割を占めるJA須高とJA志賀高原、きのこと果実が半々のJAちくま、きのこが半分、野菜・米・畜産もあるJA北信州みゆき、そして果実が半分を占め直売も多いJAながのと、得意な品目が微妙に異なる。そこで合併により広域専門指導と重点市場対応でその強弱を補い合いつつ、総合産地の強みを発揮していく範囲の経済の追求である。
◆ブロック制と地区担当副組合長
それぞれ独自性の強いJAの合併にはさまざまな工夫や調整が求められる
まず機構としては7つのブロックを設ける。この程度の規模では地区本部制をとる必要はないという判断である。旧JAながのは北部・中部・西部の3ブロック、その他の4JAは各1ブロックである。旧JAごとにブロック化することで、ひとまずは旧JAがブロックとして残れるようにしながら、トップとしては、各ブロックの課題を明らかにするとともに、ブロック別の収支明確化により、経営安定につなげていくという考え方である。
各ブロックは営農センター(営農課、販売課、アグリサポートセンターをもち、本店営農部につながる)、経済センター(資材センター、SS、セレモニーホール等をもち、本店経済部につながる)、ライフサポートセンター(支所支店、本店金融・共済部につながる)をもつ。
最大の特徴は、各ブロックに常勤の地区担当副組合長(組織代表)を計5名置いた点である。7ブロックに対して5名は代表理事3名のうち2名以上を選出する地区は代表理事が兼任するからである。ながの3地区がそれにあたる。過去の事例で、合併後の地区内安定を目指し、地区本部制を採用したものの組織が重層化したこと、また地区常勤役員が決裁権を要したことによる費用統制や融資決済などが課題となったことを踏まえ、JAながのでは地区担当役員は決裁権をもたないこととした。地区担当副組合長の主要な職務は、ブロック内の営農・経済・ライフサポートの各センターに「横串を入れ」つつ、地域組合員・行政対応を主とし、首長等とともにトップセールスしたりする販促活動等も行っている。
「懇談会資料」では繰り返し、地区担当副組合長の「常勤・非常勤の体制については、今後早急に検討します」としている。新JAの安定的な運営を摸索する中で、地区内組合員の不安解消を図るためにも経過措置的な対応をしたものと思われる。
以上から、大規模JAのガバナンス確立を目的に、指揮命令は全て本所が掌握し、資金の流れも本所が統制する体制としている。なお融資案件については、前述の2JAのスキー・きのこ関係先への融資案件の早期掌握と統一した回収・支援方策の確立が必要なこともあり、本所決済を基本とした。同時に機動的な対応も必要として、支所支店は500万円以下に限って貸付権限をもつ。
◆理事会制の選択
「懇談会資料」では、「合併後の組合員意思反映や、経営の専門性に対して迅速に取り組むために理事会制を採用します」としつつ、農協法改正に伴う措置等で事情変更がある場合は「その時点で見直しを行う」としている。
経営管理委員会については、合併小委員会(各JAの常勤役員で構成)で検討したが、県内で導入JAはなく組合員に理解が十分ではなく無用な不安を招きかねない、機能的にも理事会との棲み分けが難しい等の懸念もあり、合併時の導入は見送った。トップとしては、経営と組織運営を機能分化させる必要があるとして、経営管理委員会の導入を考えるべきとしている。
理事定数は、30名程度が適当としつつも、合併直後からいきなり2/3に減らすことは組合員の不安を招き、合併への理解が難しくなる可能性が高まるとして40名とした。しかしその後にJAちくまの参加が決まったので、既定の選出基準により追加して計47名の定員とした。うち43名を各地区から、4名を実務精通者(企画管理、経済、営農、ライフパートナー担当常務)の全域選出としている。なお初代の組合長と専務は旧JAながの、副組合長は旧JA北信州みゆき・JA須高の出身で、この4名が代表権をもつ。
女性や青年の理事枠は、合併推進委員会で検討したものの、旧JA志賀高原の理事枠が3名で選出が厳しいこと、また敢えて女性・青年枠を設けるのではなく、自発的に地区から推薦されてくることに期待しており、現に女性や青年も理事になっている。
特筆されるのは総代制である。総代定数は800名と多いが、「JA運営に対する地域組合員の意見を幅広くとらえることによりJA運営への共感作りも含め、農協改革が本格化する以前より、新JAでは准総代制を採用します(「懇談会説明資料」)として、別に准総代枠を200名設けている。准総代制は旧JAながのが1992年から始めているが、合併前にはJAちくま、志賀高原にも広まっていた。総代会には40~50名の出席があるが、意見を出すには至っておらず、現状ではJA理解を深めてもらうことが主で、准組合員からどうやって意見を引き出すかが課題だとしている。
◆合併に伴う諸変化
不良債権については「新JA発足後の不良債権比率の目標値を5%以下とし、各JAは合併時までにその解消に最大限の努力を行う」としている。前述の通り、不良債権比率が全国的に見ても著しく高いJAがあったものの、合併最終決算までの各JAの不良債権は債権放棄せず、積立金を取り崩して償却し、結果として合併農協の不良債権比率を2.7%に減らしている。
JAながのを存続組合とし他のJAは解散した。財務格差はJAながのと他のJA、とくにJA志賀高原の間は大きかったものの、各JAは全国的に有力な農産物ブランドをもち、それらを統合することでの組合員メリットを追求するため、対等合併とした財務調整については、一定の基準を設けてそれを越えているJAはその格差を組合員の出資金へ戻す調整方法もあるが、組合員の脱退により結果的に組合外流出してしまうこととなり、合併目的である「財務基盤の確立」に反するという理由から、調整は行わないこととした。財務的に圧倒的に他のJAを越えていたJAながのの決断が大きいものと思われる。
「支所・支店・出張所は採算性を前提にし、地域実態を考慮した存置を目指します」としており、いいかえれば存置の約束はしていないということで、現在は各ブロックで検討している。人口減と利用減が合併の一つの大きな理由だったわけで、存置には相当の努力が要るだろう。
給与は旧JAながのにそろえることにし、基本給は4年以内に調整することとしている。賃金上昇分は、業務統合と効率化を踏まえた採用抑制により吸収することとしている。就労条件は合併時より統一している。給与調整を行わない方式を採用する合併JAもあるが、ブロック間の人事交流を活発に行っていく中でのモチベーションに課題を残すと考えた。また給与調整を行うことでどのブロックも同じ水準の事業量や収益の確保をめざす、という意味も込められている。
合併に伴う大掛かりな設備投資はまだ行っていない。ちくまブックでの支所移設、須高ブロックでのフルーツセンターの建設、志賀高原ブロックでの農産加工センターの移設、ながのブロックでの立体駐車場建設とセレモニーホールの通夜施設着工、駅前のアンテナショップ、みゆきブロックでのライスセンター建設等、旧JA時代から計画されてきたものである。
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