JAの活動:JA全農部長インタビュー「全力結集で挑戦 未来を創る-2021年度事業計画」
【JA全農 部長インタビュー 2021年度事業計画】小林茂雄 畜産総合対策部長 生販一体化の事業方式構築へ2021年6月17日
コロナ禍や人口減少などで消費動向に変化が生まれるなか、最適な対応をめざし、今年度は全農グループ一体となった体制づくりに力を入れる。小林部長に聞いた。
小林茂雄 畜産総合対策部長
--昨年はコロナ禍で牛肉の需要は大きな影響を受けましたが、これまでの動向をどう見ていますか。
新型コロナ感染症が拡大する前までは、牛肉はインバウンド需要と輸出という大きな要因で相場が堅調でしたが、昨年の4月から6月あたりまで緊急事態宣言などの影響で外食需要が激減するなど相場は下落しました。
ただ、巣ごもり需要が増えたことや、国もさまざまな補助事業で販売を支援したことから家庭内消費は増えました。
その後、輸出が増えて相場は好調となっています。今後、国の支援事業がなくなった場合の動向に懸念もありますが、これを機に和牛の消費が定着してもらえればと思っていますし、輸出はさらに拡大する可能性があると考えています。また長い目で見ればやはりインバウンドがプラス材料になるだろうと思っています。
--豚肉の需要動向はどうでしょうか。
豚肉は以前は季節変動がありました。頭数が少ない夏場は相場が高く、頭数が増えてくる秋口以降は下がるという状況でした。しかし、国内消費の約半数を占める輸入豚肉の価格動向の影響もあり、ここ数年は比較的安定した相場状況になっています。
豚肉の場合、輸入豚肉はハム、ソーセージなどの加工用と外食向けが多かったですが、日本向けに品質・スペックを製造している国がでてきており、家庭内消費でも増加傾向にあります。
--今年度の重点的な事業は何でしょうか。
部としては販売子会社の管理と県本部の畜産事業の対応、さらに畜産事業部全体の調整という3つが役割となります。今年度の事業としてはすでに3年ほど前から取り組んでいる食肉事業の最適化があります。
各県域にと畜加工する食肉センターがありますが、この施設が老朽化してきています。以前は各県に1施設ずつ開設してきましたが、生産基盤が縮小していることをふまえると、やはり食肉センターを広域に活用していこうということで、今、集荷の広域化、販売の広域化をいちばん大きな課題として取り組んでいます。
具体的には岩手、茨城、栃木、愛媛の4県が重点県で機能集約と広域化をめざしています。
このうち今年10月に愛媛県本部の畜産事業を全農ミートフーズに移管することになっています。
また、昨年の4月に栃木県には新しく食肉センターが完成しました。食肉センターは、と畜加工頭数の確保が経営の柱になるわけですから、そのためには集荷しなければなりません。ただし、集荷すればいいというものでもなく、その売り先まで確保しておく必要があります。そのために栃木では食肉センターの開設を見通して、全農ミートフーズが肉豚2万頭から10万頭まで取扱い数量を増やす計画とし、昨年は8万頭まで増やしました。
これが第1段階の取り組みで、県によって取り組みは異なりますが、要するに機能を集約しようということです。全農グループといいながらもそれぞれ経営は独立しているわけですから、個々の経営からグループ全体での経営にシフトし、グループ全体の付加価値を追求することになります。そこで愛媛県では集荷から販売まで含めて全農ミートフーズが手がけるというかたちに移行するということです。
それから包装肉事業にも力を入れます。
産地の食肉センターでと畜して加工した食肉をもう少し細かく包装肉にするという施設もありますが、これは量販店に並べるパック肉を作るというイメージです。
この機能については生協や量販店からの需要があります。今はとにかくバックヤードの人手不足のため、パックで納品をしてほしいというニーズが高まっているわけです。これも昨年からのコロナ禍で施設の稼働率が高まっていますし、eコマースでの販売ではパック肉にする施設がないとそもそも対応できません。
この事業については全農ミートフーズと全農チキンフーズ、それから一部の県域で実施していますが、これを全国的に対応する体制とするため、全国販売会社と県本部の施設の共有化などで全国網として整備していこうとしています。これはやはり家庭内消費やeコマースの需要を考えると極めてニーズが高い事業だと思っています。
畜産経営の安定めざし新たな事業へ
そのほか、生販一体化の取り組みとして、相場に影響されないで畜産経営を持続していくために新たな経営方式の確立に取り組みます。
相場がいいときは農場会社が利益を上げられますが、販売会社にとっては仕入れ額が上昇することになります。今年度から全農グループの飼料会社、農場会社、販売会社で生販一体化に取り組む事業として、飼料会社、直営農場、販売会社まで含めて損益をプールして事業をやっていこうと新しく試験的にスタートさせています。将来的には一般の畜産生産者に対してもこうした取り組みを提供できれば良いと考えています。
国際的な穀物価格の高騰で飼料価格が上昇していますが、それで生産は赤字になってしまったというのではなく、販売面で何かできないか、生販一体化の事業方式でリスクヘッジをはかりながら畜産生産を継続していくことをめざそうということです。
これまでも大規模畜産生産者と相場の上限と下限を決めて取引きするといった取り組みは相当ありますが、今回は、一歩、農場の経営まで踏み込んで仕組みを作ろうということです。
販売面では首都圏は全農ミートフーズが販売を担っていますが、やはり地方の販売が課題です。各県域で販売対応していますが、地域の小売りが大手の量販店に系列化されていく状況です。大手食肉メーカーの進出や県域単独では品ぞろえが難しくなってくることもあります。今後は販売面での地方と全国の事業のあり方を検討することも必要になると考えています。
また、われわれは生産から販売までの施設も事業も持っていますが、これがうまくつながったバリューチェーンにしていく必要があるのではないかと思っています。
(こばやし・しげお)
1962年12月生まれ。群馬県出身。明治大学法学部卒。1986年入会。畜産生産部福岡畜産生産事業所長、北日本くみあい飼料株式会社出向、畜産総合対策部次長などを経て2019年4月から現職。
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