JAの活動:第64回JA全国青年大会特集
【山崎周二JA全農代表理事専務に聞く】農家手取り確保のため さらなる「自己改革」を2018年2月19日
JA全農は、生産資材事業・販売事業の「自己改革」実施具体策を策定し取組んできている。その現在の到達点と今後の取組み。さらに、これからの農業新時代を築くための課題や全農の役割などについて忌憚なくお話いただいた。※山崎氏の「崎」の字は正式には異体字です。
◆確実に成果上げている肥料・農薬・農機
--全農の「自己改革」プランについては、肥料の銘柄集約による価格の引下げをはじめとして、各分野で具体的に進められ、かなりの成果がでてきているのではないでしょうか。
肥料をトップバッターとしてスタートし、全農の職員も力を合わせて取り組み、良い結果がでたので少し安心をしました。
肥料(一般高度化成・NK化成肥料)の取組みは「入札」ですが、単なる価格を叩く「天秤入札」ではなく、まず銘柄を絞り込んで、少ない銘柄をメーカーに大量に製造してもらって製造コストを下げる。そしてこれまでは例えば九州の工場から北海道へ運んでいたケースもあるので、ブロック単位にすることで輸送費・物流コストを下げる。それを前提にメーカーに入札してもらいました。
さらにJAが7万tもの予約を積み上げて協力をしていただいたことも大きな力になっています。
今後は、品目を広げる取組みをしていきたいと考えています。
--農薬や農業機械はどうですか。
農薬については担い手に直送する大型規格が、いままでは120JA2万haでしたが、今年度の見通しは274JA5万haへと倍以上増えています。これもきちんとJAが担い手に伝えてくれたからだと思います。
農業機械でまず初めに実施したのが、高いコンバインを購入するのではなく共同で使うシェアリースです。今年度は10チームで37経営体が利用し、20%位コストダウンができました。30年度は30チーム120経営体を目指して取り組みます。
そして新たな共同購入として大型トラクターについて、日本農業法人協会、JA全青協、全国農業青年クラブ連絡協議会(4Hクラブ)と全農で平成28年に立ち上げた「生産資材費低減に向けた資材事業研究会」での意見を集約した仕様を昨年9月にメーカーに提示しましたが、今年3月に事前予約を募り6月には購入トラクターを入札で決めていく予定です。大型農機なので、JAの農機専門の職員の方が、きちんと農家組合員のところへ1軒1軒まわって説明しまとめるという丁寧な作業が必要になりますので、JAの協力をお願いしています。
--段ボールも話題になりましたが...。
タマネギ、サトイモ、ピーマンという容量が調整しやすい3品目で1300規格あったのを、48の標準規格にし結集してもらうよう要請しています。この3品目を扱っているのは245JAですが、そのうちの106JAがこの標準規格に結集し年間300万ケースとなり、昨年10月に入札し基本価格を決めました。平均して16%の価格引き下げを見込んでいます。
◆飼料工場の集約や広域物流の拡大
--飼料についても工場を新設し集約化をしてきていますね。
昨年6月にJA西日本くみあい飼料(株)の倉敷新工場が稼働し、9月に水島工場を今年の3月に神戸工場、6月に坂出工場を移管することで合理的な製造・供給体制ができますので、価格引下げにつなげていきます。また、ホクレンの飼料会社を全農の子会社の地域別飼料会社にし、合理的な製造や工場管理をすることで、昨年11月から北海道ではホクレンが飼料価格を400円/t引下げました。
飼料事業では海外対策が重要ですから、全農グレインの船積能力の増強やブラジルでも内陸出荷から輸出まで一貫した穀物取扱業者に昨年7月に出資をしました。
--こうした生産資材関係の改革を生産現場でどう活かしていくかですね。
トータル生産コスト低減実現のために全国55JAにモデルJAになってもらい、83経営体で、肥料・農薬などの物財費もありますが、労働費の削減や収量をいかに上げるかという生産性の向上を実証しています。最終的にはその経営体の手取りがいくら増えたかをきちんと数字で出していきます。それを拡げて行けばJA管内、県域、全国域でどうなるかが見えてきます。それこそが全農「自己改革」の最終到達点になると考えています。
--配送センターや物流などのインフラ整備については...。
北部九州で農薬の広域物流センターをはじめましたが、昨年12月にはここに佐賀県も加わり北部九州4県に配送する体制となりました。現在、中・四国に1か所の広域物流センターから農薬を配送する準備をしています。これも全国に広げていく予定です。
◆労働力問題や事業承継など現場の課題に応える
--そのほかで生産資材関係で取組まれていることは何でしょうか?
生産現場で悩んでいる課題や必要とされることにいかに全農として取組んでいくかということで、いくつかの課題があります。
一つは、どこでもいま一番困っている農業労働力支援です。各地域でいろいろ工夫して取り組まれていますが、全農自らが取り組んでいるのが、岡山県本部と大分県本部です。例えば、岡山ではパートナー企業と連携し、人を募って、キャベツの定植、選果などの農作業を請け負うような取り組みをしており、こうした優良事例を横展開していこうと考えています。
日本農業法人協会や全国農業会議所とJA全国連が「農業労働力支援協議会」を結成し、外国人実習生の問題に取組んでいます。
労働力問題ともつながりますが、いかにICTを生産現場に投入していくかも非常に重要なことだと考えています。そのためにナイルワークス社に出資をしてドローンの活用をすすめています。畜産関係でもファームノート社に出資していますし、ほ場の栽培、施肥、防除などのデータを確認できる地図情報をベースにした「全農版クラウド型地図情報システム」(仮称)を開発し、現場で役立てようとしています(1面参照)。
--TACが取り組んでいる「事業承継」も大きな課題ですね。
昨年「事業承継ブック」というマニュアルをTAC推進部署が作成し、正面から取り組んでいます。
そして、今後の農産物販売や輸出を考えるときに、農業者の経営改善にも役立つと思うので全農としても、GAP取得をすすめるべく専任部署を4月から設置して積極的に支援していくことにしています。
◆新しい道筋へのレール敷き改革の早期実現を
--最新の「全農リポート2017」では「自己改革は1、2年が勝負、新しい道筋へのレールを敷く」とありますが、この「レール」とはどういう意味ですか?
全農が「自己改革」でやるべきことは、例えば実需者への直接販売だとか、生産資材は組合員に結集してもらって価格を引き下げていく、そして先ほど申し上げた生産現場の課題にもきちんと対応していくなどやるべきことは見えてきました。そのことを十分にできるような全農の機構とかグループ会社の再編などをこれから手がけていきたいと考えています。「新しい道筋へのレール」というのは、レール(仕組み)がきちんとできれば、レールの上を走る機関車(機能発揮)がスピードアップできる、ということです。機関車がスピードアップして走れるようなレールをここ1~2年でつくっていかなければいけないと考えているということです。
-もう少し具体的にいうと...。
全農の自己改革では「生産者手取りの確保と農業経営の安定に向けて」ということで、「ニーズを踏まえたマーケットイン戦略」を展開するために、実需者への直接販売を拡大することにし、米事業では「実需者への直接販売」を主食米取扱量の90%に、「買取販売」を70%にすることにしています。また、園芸事業においても「直接販売」を現在の5割に相当する5500億円にすることにしています。また、農産物輸出についても340億円という目標を持っています。
もちろん現在の米卸への玄米販売や青果物の市場出荷も販売の一つのチャネルとして活かしていきますが、自己改革として全農が約束をしたこうした直接販売や買取販売をすることで農家手取りを確保するためには、ビジネス経験豊富な外部人材の積極的な登用や変貌する生産現場や食品市場構造に適した人員シフト、さらに非効率で重複した部門・体制の見直し、本所のスリム化、15年経った県本部のあり方やグループ会社の再編を含めて、より生産現場に刺さった機動的な全農グループ全体の機能発揮と体制の見直しが必要ではないかということです。
そうした「新しい道筋へのレール」を早急に敷くことで、生産資材の課題を含めて、自己改革実現のスピードをあげて、前倒しで実現できるようにしたいと考えています。
もちろん、細部も含めてこれから全農内部はもちろん組織的に十分な検討が必要であり、そのための準備を進めているところです。
-青年部へのメッセージを。
いま「生産資材費低減に向けた生産資材研究会」を、日本農業法人協会、JA全青協、4Hクラブに加わっていただいて実施していますが、こういう人たちが、これから農業を担っていく人たちだといえます。そういう人たちの生の声を聞いて、全農の事業に活かしていきたいと考えていますので、これからもよろしくお願いいたします。
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