JAの活動:第40回農協人文化賞-わが体験と抱負
【営農事業部門受賞】苦境乗り越え畜産振興 松山幸雄・十勝畜産農業協同組合代表理事組合長2018年7月13日
7月5日に開催された第40回農協人文化賞で受賞された17名の方々に、これまでの農協運動の体験談と今後の抱負についてお書きいただきました。JAcomでは、その内容を数回に分けて紹介していきます。本日は営農事業部門で受賞した五人、牛山 喜文・JA上伊那前代表理事専務理事、木村敏和・JA山形おきたま代表理事組合長、高峰博美・JAあしきた前代表理事組合長、非常勤理事、竹下正幸・JAしまね代表理事組合長、松山幸雄・十勝畜産農業協同組合代表理事組合長を紹介します。
十勝畜産農業協同組合は昭和62年に設立して以来、創立30周年を迎えました。これもひとえに多くの先人たちの努力や苦労があったおかげであり、深い敬意と感謝を捧げます。
私の就農のはじまりは昭和44年の畑作からでした。父親が畑作でしたので、高校を卒業してすぐに就農しました。しかし、当時から牛飼いに強い憧れを持っており、なるべく早い段階で牛飼いをやりたいという思いがありました。
そのため就農当初から北アメリカなど海外の牧場や家畜市場の視察などを積極的に行い、知識や経験を身に着け、勝算があると確信した昭和48年に畑作から酪農業に転換を図りました。生乳の生産調整によって幾度も逆風に立たされましたが、妊娠牛の価格低下を逆にチャンスととらえて飼養頭数と仲間を増やし、今日の体制を築くまでになりました。
◆ ◇
平成14年から十勝畜産農協の理事に就任し、代表理事組合長には平成22年から就任しました。そのころには数々の苦境に直面しました。
平成13年にはBSE(牛海綿状脳症)による風評被害で経産牛で600kg、800kg、さらには1tの体重があっても2000円でしか買ってくれないような暴落があったり、平成22年には宮崎県で口蹄疫が発生し、翌23年には東京電力の原発事故による風評被害によって枝肉の単価や家畜の価格が総じて大幅に下落したりして、今日まで十勝畜産農協にとって数々の逆風が吹き荒れました。
その逆風の中で肉素牛特別市場の開設や家畜市場の整備、日本政策金融公庫と北海道酪農畜産協会とのABL(動産・債権等担保融資)事業など様々な事業にチャレンジしてきました。また、家畜市場を整備したことによって、家畜の搬入やセリ場までの流れが円滑になり、非常に利用しやすくなりました。昭和31年ごろにはリンゴ箱を踏み台に競りをしていた市場がよくここまで立派になったと感慨深いものがあります。
平成27年に開設した肉素牛特別市場は開設前には賛否両論がありましたが、開設後は毎月200~300頭前後上場する市場となり、組合員にとって非常に有益な市場になったのではないかと思っています。
日本政策金融公庫と北海道酪農畜産協会とのABLは東京電力による風評被害の影響が収まらない中で取り組んだ事業です。当時は将来性が豊かな組合員が風評被害の影響で苦境に立たされており、経営が行き詰まっていました。 十勝畜産農協では金融事業ができないため、どうしても支援方法が限定的になり、救える組合員も救えない状況でした。そのため日本政策金融公庫と北海道酪農畜産協会とともに新たに事業スキームを組み、金融面での支援とともに、個体識別による経営管理も行うなど、組合員に経営をサポートしてきました。
こうした事業に積極的にチャレンジしていった結果、十勝中央家畜市場は平成27年度には上場頭数が6万頭を超えるとともに、取引金額が過去最高の107億円に達し、それから28年度、29年度と3年連続で上場頭数6万頭を超え、取引金額も100億円超という成果をあげることができました。これもひとえに関係者、および組合員各位の指導と援助があった賜物です。
私が十勝畜産農協の代表理事組合長に就任してからは、とにかくチャレンジの連続でした。周囲を説得できるだけのデータを日ごろから蓄積していくことと、組合のビジョンを冷静にプランニングすることを意識してきました。
(写真)自ら牧場を運営し模範を示す
与えられたものでは夢は開きません。これからもTPPやEPAなどによる牛肉、乳製品の大幅な市場開放で、輸入品との競争が一層激化していくと考えられます。
国産牛を生産している我々生産者にとって先行きが見えない状況が続いていきますが、逆風に負けない強い農業協同組合づくりに挑戦していきます。
今後は未来を担う次世代の担い手を育成することが私の抱負であると同時に何よりの楽しみとなっています。
特にこれからの若い人たちには自分の手で畜舎の建築であったり、金融機関との折衝であったり、10年、20年後の牧場配置を考えたりとあらゆることに積極的にチャレンジしていってほしいと思います。謙虚で誠実に努力を重ねていく人たちの周りには自然と支えてくれる人達が集まってきます。
良い友達を持つことによって新鮮な情報を集めることができ、情報を集めることによって適切な買い時を見極めることができるのです。特に若いときは自分よりも高いステージで経営している友達の輪に入ることを心がけることによって、将来的に大きな力となるので、若い人たちはそういった意識をもってやってほしい。
私自身そうやって、心強い仲間たちに支えられてここまでやってくることができました。十勝畜産農協もそういった若い人たちにとって有益な農業協同組合であり続けられるよう今後とも力を尽くしていきます。
【略歴】
(まつやま・ゆきお)
昭和25年生まれ。
56年家畜商免許取得。平成14年十勝畜産農協。平成17年同農協副組合長、22年同農協代表理事組合長、十勝家畜商業協同組合理事長、北海道家畜商業協同組合連合会会長、一般社団法人日本家畜商協会副会長に就任。
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