JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【提言】未来のため「いま」動く時 下小野田寛・JA鹿児島きもつき代表理事組合長【第29回JA全国大会特集】2021年10月14日
コロナ禍の中で格差拡大や地球環境の変化も大きな課題となっている。JA全国大会でも持続可能な社会は大きな焦点だ。このような中、JA鹿児島きもつき組合長の下小野田寛氏は、次代のためにも「いま行動すべきだ」と、明るい未来に向けた実践を提言する。
下小野田寛・JA鹿児島きもつき代表理事組合長
『いま』を
1820年前後から始まったとされる主要先進国の経済成長はちょうど200年を迎える。この間2度の世界大戦を経て、人口も持続的に増加し、第2次世界大戦後はその増加速度も高まった。地球温暖化が始まったのもまさにこの200年間であり、人口増と軌を一にしている。つまり、経済成長が人口増加につながり、その過程で地球温暖化が着実に顕在化してきた。
しかし、時代が大きく変わろうとしている。米ワシントン大学の研究チームの報告書(2020年7月)によると、世界の人口は2064年に97億人(現在は77億人)でピークを打ち、2100年には87億人に減少し、日本を含む多くの国の人口は半減するとみている。
もう既に人口減少に入った日本、その減少スピードは私たちが予想するよりはるかに速いということだ。そのことを国・地方、各団体そして個人を含めた日本全体で共有し、その備えを急ぐべきだ。
『いま』はそういう時代であり、『いま』は行動すべき時である。過去は変えられない。しかし、未来は変えられる。だから、私たちは『いま』、前に向かって進んでいく。私たちが前に向かって『いま』を生きることにより、新たな歴史が生まれ、やがて次の世代がきっと感謝してくれると信じて。
前へ
私たちは何から取り掛かるべきか。まずはみんなを豊かにすることだ。日本の名目賃金は30年前とあまり変わっていない。米国が2.5倍に、ドイツが2倍に、フランスが1.8倍になっているのに比べてあまりにも悲惨である。
人口減少が進むなか、みんなを豊かにするためにはどうしても生産性を上げるしない。農家所得を上げ、職員の給料を上げるためにはJA全体の生産性を着実に上げていく必要があり、そのための未来投資・デジタル化を進めていかなければならない。
しかし、デフレ経済が長く続き、私たちはすっかり縮小均衡の経済に慣れきって未来投資を怠ってきた。未来への投資をしなければ、明るい未来は開けてこないという強い思いでこの6年間、ヒト・モノ・時間への投資を行ってきた。その成果が徐々に出てきている。その手ごたえを感じつつ、さらなる未来投資を行なっていきたい。
異業種と新境地に
デジタル時代のイノベーションは、異業種との化学反応が生み出す。米ボストン・コンサルティング・グループによると、世界のイノベーション企業のなかでも、新たな領域に挑んでいる会社は株価に20%ものプレミアムがついているという。
私たちは視野を広く世界に向け、いろいろな企業や団体とのコラボレーションを進め、その成果と実績を組合員に還元する、このことにより組合員の豊かさを実現していきたい。
今回、私たちの挑戦プロジェクトが実現した。私どもJAとキリンビールとのコラボ商品として昨年10月に缶酎ハイ「氷結」シリーズで「辺塚だいだい氷結」を全国発売した。生産量が小さいこともあり、2年がかりのプロジェクトとなった。
管内の肝付町・南大隅町に太平洋の青い海と深い山々に囲まれた小さな集落、辺塚がある。その地で昔むかしから自生していた辺塚だいだい。青い空とまぶしい太陽の下で緑色にたわわに実った辺塚だいだいは爽やかな香りが特徴で、現在45人の生産者が年間50㌧程度生産している。
地元では、あの源平合戦の後、平家の落武者がたどり着き、その時辺塚だいだいが持ち込まれたのではないかとも言われている。まさに悠久の歴史とロマンを感じさせる辺塚だいだいであり、今回氷結シリーズで限定発売していただいたことは、大自然に囲まれた小さき農村に光を当てていただいたことであり、生産者も地域も大変元気が出てきている。
このような取り組みが全国の小さきもの(産地、農産物、地域)への希望の光となればとこれからも私たちは挑戦していきたい。
外へ
時代の変化があまりにも激しく、私たちは時代の変化に追いついていけない。私たちの戸惑いに容赦なく、日本も地方も、そして世界もどんどん変わっていく。その変化の激しさから目をそらし、私たちはつい内向きになりがちである。
視線を内向きに、発想も内向きに、行動も内向きに。そうするとどうしても現状維持、縮小均衡となり、経済発展が難しく、当然みんなの豊かさも実感できない。みんなの豊かさを実現するために、今こそ私たちは外向きにならなければいけない。
外部の力生かして
JAグループ内で仕事が完結する時代は終わった。系統組織内で自己完結する事業モデルは、変化のスピードが速く、多様性を求められる今の環境では、十分力を発揮できない。むしろ、外部の力をうまく活用した方が、より速く、よりうまく、より楽しく事業展開することができる。
JA、県連、全国連のそれぞれが外向きの発想を持ち、JAグループの外との付き合いを広げていく必要がある。『いま』の時代の激しい変化を体感して、私たちは新しいビジネスモデルに挑戦していく。日本の人口が減少し、日本全体のパイが小さくなっていくなか、農畜産物の輸出はその最たるものであろう。
動かす
米ギャラップ社が企業の従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)を調査した結果によれば、「熱意あふれる社員」の割合は、米国が32%なのに対し、日本はわずか6%にすぎなかった。調査した139カ国132位と最下位級だ。しかも日本は、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合が24%、「やる気のない社員」が70%に達した。
バブル崩壊以降の経済低迷で、長く働いても賃金が上昇するとは限らなくなり、士気は上がりづらい。組織の生産性を高めるには、社員のモチベーションを高めることが急務だ。これは日本の企業に限ったことではない。日本のすべての組織、日本全体の雰囲気をあらわしている。
日本の将来に対する悲観、自分たちの将来に対する不安、何をやっても変わらないというあきらめムード、それらのことを的確にあらわしている数字だ。
この数字を動かし、『いま』を動かしていこう!『いま』を動かすためには既存システムからの脱却をはかる必要がある。日本はあらゆる組織で年次主義や年功序列がはびこり、委縮する若者が多く、社会全体として挑戦する気概に乏しい。
範を示し改革急務
明治維新や戦後など多くの歴史を振り返れば、転換期の改革は若者が主導した。コロナ禍に加え、気候変動やデジタル化の加速など社会は大転換期にある。JAグループはもとより、日本のあらゆる組織で若者を抜擢する人事を断行すべきである。ためらっている余裕はもう私たちに残されていない。だから、私自身も自ら範を示したい。
そして
私たちは、あらためて「お金があるから肉や野菜、米が食べられるのではない。土と水が豊かな農村があり、技を持つ農家と集出荷や物流、加工、販売に携わる人がいるからこそ、食べ物が手に入る」ということをもっともっと伝えていきたい。
日本の農業は決して保護されているのではない。国民の命を守るために、国内の農業が大事だということであり、そのことは昔も今も、そしてこの令和の時代も変わらない。保護されなければならないのは、国民の命であり、国民の生活である。
自然環境、気象条件の影響を最も受けやすいのが農業であり、農家はその影響度合いを軽減するためにあらゆる備えをする必要があり、経営の合理化・複合化、新たな技術への挑戦、発想の革新等農家自身も立ち止まることなく、一歩一歩と前に進んできた。
また国も農地整備・灌漑(かんがい)事業整備などの構造改善事業に取り組み、安定的な農業生産のためのインフラ整備を進めてきた。
しかし、現実は厳しい。食料自給率(カロリーベース)は下がり続け、現在38%である。TPP11、日EUEPAの経済連携協定が相次いで発効され、ますます海外から農林水産物が輸入されやすくなった。そのことは日本の食卓を世界一豊かなものにして、東京のレストランでは世界中の料理が食べられるようになり、観光立国を目指す日本として食の豊かさを海外にアピールできることは素晴らしい。
しかし、忘れてはいけない。日本の食の豊かさを支えているのは、間違いなく日本の多種多様な農林水産物であり、外国産の農林水産物ではない。国民の皆さんにいま一度お伝えしたい。日本の食の豊かさを守るためにも、国民の命を守るためにも国内農業に、農家に、農村に熱く目を向けてほしい。
『いま』を『未来』に変えるために、次の世代のために、あなたのために。
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