【キーワード農政・スマート農業】「政府全体で推進 社会実装へ」山田広明・農林水産省大臣官房政策課技術政策室長2018年7月27日
政府が6月に決めた「農林水産業・地域の活力創造プラン」ではスマート農業を政府全体で推進していくことが盛り込まれた。スマート農業がめざすものや将来の日本農業の姿など山田広明大臣官房政策課技術政策室長に聞いた。(7月27日付けで農林水産技術会議事務局研究企画課長に異動)
--スマート農業の定義、めざすことは何でしょうか。
スマート農業とは、ICT、ロボット技術などを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業ということです。農水省では将来像として5つの方向を示しています。
1番目は超省力・大規模生産の実現です。GPS自動走行システムなどの導入により、ロボット化したトラクタやコンバイン、田植え機などが人の代わりに作業を行うことによって、規模拡大を支援するというものです。
2番目はセンシング技術です。人工衛星やドローンからほ場の状態を細かく調査して、たとえば土壌の肥沃度を調べ、それに応じた施肥を精密にやっていく。それによって施肥量を減らすことができ、作物の収量と品質も向上させるというものです。
3番目はきつい作業や危険な作業からの解放です。除草は刈り払い機でやっていますが、ケガをすることもあります、ここに除草ロボットを活用することで安全に作業してもらう。また、アシストスーツもあります。これは物流の現場等ですでに使われていますが、農業の現場、農作業の特性に合わせて使えるようにしていくというものです。
4番目は誰もが取り組みやすい農業を実現することです。農機の自動操舵技術は普及を始めていますが、これを使えば経験が浅い人でも熟練者と同じように正確に作業ができます。また、熟練者のノウハウを見える化し、学習支援システムとして実際に現場で作業をする前に何度も学ぶことができるようにします。これにより短期間に熟練者に近い技能を身に着けてもらうというものです。
5番目が、クラウドシステムを活用して生産の情報を消費者や実需者につないでいこうというものです。現在、このために農業データ連携基盤を構築しています。
(写真)山田広明・農林水産省大臣官房政策課技術政策室長
--どんな目標が立てられていますか。
政府の目標としては、例えば、2018年までに農機の自動走行システムを市販化し、2020年までに遠隔監視で無人システムを実現することを掲げています。このうち自動走行システムについては昨年6月からクボタが試験販売を開始し、ヤンマーと井関農機も本年中の市販化を発表しました。
無人システム実現に向けては、安全確保のための人検知技術の開発や、準天頂衛星を利用した低価格な受信機の開発を進めています。
--これまでにどういう技術が開発されていますか。
水田の水管理を遠隔・自動制御化する自動水管理システムはすでに発売されています。農家は自宅にいながら水田の水位などが分かります。しかもプッシュ型でいろいろな通知が来ます。天候の予測とも結びついており、たとえば高温障害が懸念される天候になるおそれがある場合に通知が来るので、水位を上げて深水で管理するということが自宅にいながらできるというわけです。
ただ、現在販売されているものは価格が高く、自動の給水バルブで10万円以上、これに落水口、基地局を合わせて50~60万円ぐらいします。機能を絞り込むことにより、自動給水バルブを5万円程度で供給できるようにするための研究開発も行っています。
そのほか田植え作業と苗補給を1人でできる自動運転田植機が開発されており、直線キープ機能付田植機、土壌センサ搭載型可変施肥田植機、農業用アシストスーツなどは開発・市販化されています。
今後はデータを使った農業が非常に大事になっていきますが、さまざまな情報を連携させて現場で活用させようと思っても、データやサービスの相互連携がなく、名称も異なるために連携できないという問題があります。
このため、データの連携・共有・提供機能を有するデータプラットフォームを、農業ICTサービスを行っている民間企業の協調領域として構築する取組を、国主導で行っています。これが農業データ連携基盤です。ここでは生産現場のデータを農家の了解をもとに匿名加工などをして、ビッグデータとしてお互いに使い合えるようにしようという取り組みも進めています。
また、公的機関が持っているような土壌、気象、市況などのデータをこの連携基盤に接続して、これを農機メーカーやICTベンダーが利用して、農業者向けのサービスの充実を図っていくということも進めています。このプロトタイプを昨年の12月に構築し、来年4月の本格稼働に向けて、試験運用を行っているところです。
--スマート農業が必要とされる理由を改めてお聞かせください。
高齢化と労働力不足の中で、担い手にどんどん農地が集まっています。そうした担い手が経営規模を拡大していくには従来型の技術だけでは限界があります。先端技術を活用することによって、例えば一人あたりの水稲の作業面積を倍増することもできるでしょう。こうしたかたちで規模拡大が実現できます。
また、農業にはきつい作業や危険な作業がありますから、それから開放していく。同時に、新規就農者であってもICTの活用などで熟練者の技術を学ぶこともできます。
ただ、スマート農業を推進するには行政施策との連携が不可欠です。たとえば農地中間管理機構が農地を集積・集約していますが、この取り組みも推進する必要があります。土地改良の方法もスマート農業に適合するやり方も考えていく必要もあると思います。
ロボット農機の開発と普及を推進するため、安全性確保のためのガイドラインをつくり、メーカーにそれをクリアしてもらうことも必要です。
何よりも現場の若い人たちに革新的な農業が生まれていくということを知ってもらいたいと思います。そのために経営的にもプラスになることを示す実証にも取り組んでいます。
スマート農業が新規就農者を増やすことにもなるように推進していきたいと考えています。
それからデータ連携の仕組みは、最終的には需給マッチングや、需要予測をもとに、有利な生産をどう組み立てるか販売するかといったことにも活用できればと考えています。
--JAグループに期待することはありますか。
スマート農業を推進していきたいというJAもすでにありますから後押しをしていきたいと思います。生産だけでなく消費にまでつながっていけば組合員の利益の最大化にも使えるのではないかと思います。
(やまだ・ひろあき)
昭和40年福岡県生まれ。
平成2年九大大学院農学研究科修、農水省入省。27年内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官(資源配分担当)付企画官、29年農林水産技術会議事務局研究企画課技術安全室長、30年4月大臣官房政策課技術政策室長、7月農林水産技術会議事務局研究企画課長。
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