農水官僚VS大規模農家 「みどり戦略」成功のカギを握るものは 農協研究会で討論2022年9月9日
「今、みどり戦略以上に取り組んでいる農家に恩恵がある制度にすべきだ」「大事なのは教育だ」――実践段階に入った「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」をテーマに、9月3日に開かれた研究会(農業協同組合研究会主催、農協協会協賛)では、みどり戦略を担当する農水省みどりの食料システム戦略グループ長の久保牧衣子氏と、JAぎふの岩佐哲司代表理事組合長、埼玉県川越市の大規模農家で元JA全国青年組織協議会会長の飯野芳彦氏による討論が行われた。会場も参加して行われた討論では、みどり戦略を成功させるには何が必要なのか、それぞれの視点から意見が述べられた。
「生活者への教育こそ必要」「みどり戦略を教科書で扱うよう働きかけ」
討論は3人からの報告に続いて行われた。飯野氏が報告の中で、ヨーロッパでは食料安保などが教科書に掲載されていることに触れて
みどり戦略の目標達成には生活者への教育が必要だと指摘し、「学校教育は食育という観点だけでなく、文化や経済の観点からも絶対必要だ」と訴えたことを踏まえて、久保氏が農水省の取り組みを述べた。
久保氏は「教育が大事であり、そこをきちんとしないと長続きしないのはその通りと考えている」と述べたうえで、みどり戦略をつくった直後に農水事務次官が文科省に出向いて「持続可能な農業生産を支えるために持続可能な消費が必要であることを教科書に載せたい」などと協力を要請したエピソードを明らかにした。現在、みどり戦略の意義を教科書や副読本などで扱ってもらうよう各教科書会社に働きかけているといい、「さらに一歩踏み込んで教育現場にお願いしようと考えている」と強調した。
「今取り組んでいる農家にも恩恵を」「優良事例を横展開する」
また、すでに有機農業などに取り組んでいる農家への対応などについて意見が交わされた。
飯野さんが農業を営む川越市周辺では、江戸時代から伝統的な「落ち葉堆肥農法」が続けられ、2017年に日本農業遺産に認定されている。飯野氏はこうした取り組みも含めて「みどり戦略以上のことに取り組んでいる農家がいる。こうした農家に所得補償や価格保証がある仕組みにしないと続けられない」と強調し、すでに有機農業に取り組む人にも恩恵があるシステムにすべきだと主張した。また、会場の参加者からは「苦労して有機農業を実践してきた人たちを生かす方策こそ展開しやすいのではないか」といった意見が述べられた。
こうした意見に対して久保氏は、「今まで頑張って最先端の技術を持っている農家の方など、先進事例を横展開したいと考えている。地域でコアになる人を活用する事例もあり、制度に伴う交付金をうまく活用して横展開を図りたいと思うし、優良事例をどんどん増やして周知を図りたい」などと答えた。長年、環境保全型農業に取り組んできた地域が、さらに交付金を活用してスマート農業機器を取り入れて化学農薬の使用料低減を目指す事例も出始めているという。
「農業者だけで農業を守れず国民的運動を」
一方、JAぎふの岩佐組合長は、有機農業を進めるうえで消費者の理解が必要だとして、消費者も参加するコンソーシアム(協議体)の創設を進めている狙いなどを説明した。岩佐組合長は「生産者がつくったものを正当な価格で流通させる努力は必要で、そこで出てくるのが農協だ」と述べたうえで、「地消地産をきちんと理解してもらえれば価格が少し高くても何人かに1人は買ってもらえるようになるのではないか。農業者だけでは農業を守れないので地域で農業を守る流れが必要だが、そこに国民的運動がはいってくるといいと思う」と強調した。
目指すのは2050年でなく2100年以降も続く農業
討論の司会を務めた谷口信和東京大学名誉教授は、みどり戦略について、「400年続く伝統農法についての話が飯野さんからあったが、実はみどり戦略も2050年目標ではなく、2100年以降も見据えている。こうした視点で考えないといけない」と指摘した。
これを踏まえて久保氏は「その通りで、2050年の目標実現で終わりでなく、目指すのは日本の食料システムを持続的にし、環境と調和しながらスマート技術も入れながらトータルで生産能力を上げていくこと。しっかり軸足をおいて歩き出していこうということだと理解してほしい」と強調した。
(関連記事)
・【報告1】農水省みどりの食料システム戦略グループ長 久保牧衣子氏
「肥料高騰の中、地域に応じて交付金など活用を」「みどり戦略」推進へ 農水担当者が呼びかけ 農協研究会(2022.9.6)
・【報告2】JAぎふ代表理事組合長 岩佐哲司氏
「消費者の理解が第一」コンソーシアム設置へ(2022.9.7)
・【報告3】元JA全青協会長 飯野芳彦氏
100年後に成果出せる施策を 伝統農業を見直すべき(2022.9.8)
・【討論】農水官僚 VS 大規模農家
「みどり戦略」成功のカギを握るものは(2022.9.9)
重要な記事
最新の記事
-
農薬の正しい使い方(41)【今さら聞けない営農情報】第307回2025年7月19日
-
第21回イタリア外国人記者協会グルメグループ(Gruppo del Gusto)賞授賞式【イタリア通信】2025年7月19日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「政見放送の中に溢れる排外主義の空恐ろしさ」2025年7月18日
-
【特殊報】クビアカツヤカミキリ 県内で初めて確認 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年7月18日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年7月18日
-
『令和の米騒動』とその狙い 一般財団法人食料安全保障推進財団専務理事 久保田治己氏2025年7月18日
-
主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末2025年7月18日
-
全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在2025年7月18日
-
令和6年度JA共済優績LA 総合優績・特別・通算の表彰対象者 JA共済連2025年7月18日
-
「農山漁村」インパクト創出ソリューション選定 マッチング希望の自治体を募集 農水省2025年7月18日
-
(444)農業機械の「スマホ化」が引き起こす懸念【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月18日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲害虫の防ぎ方「育苗箱処理と兼ねて」2025年7月18日
-
最新農機と実演を一堂に 農機展「パワフルアグリフェア」開催 JAグループ栃木2025年7月18日
-
倉敷アイビースクエアとコラボ ビアガーデンで県産夏野菜と桃太郎トマトのフェア JA全農おかやま2025年7月18日
-
「田んぼのがっこう」2025年度おむすびレンジャー茨城町会場を開催 いばらきコープとJA全農いばらき2025年7月18日
-
全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を目指す 大分県推進協議会が総会 JA全農おおいた2025年7月18日
-
新潟市内の小学校と保育園でスイカの食育出前授業 JA新潟かがやきなど2025年7月18日
-
令和7年度「愛情福島」夏秋青果物販売対策会議を開催 JA全農福島2025年7月18日
-
「国産ももフェア」全農直営飲食店舗で18日から開催 JA全農2025年7月18日