農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】現場主導で事業伸長 おおさかパルコープ2019年12月27日
おおさかパルコープは、1991年に大阪東部の3生協が合併して誕生した。今日は組合員数43万人(世帯加入率25%)、供給高587億円。各地の生協が不振をかこつなかで、2018年には組合員数2.8倍、供給高1.4倍、総資産4.4倍と、持続的成長を遂げている。その秘密は何か。池常任顧問、金津常務等から話を伺った。
直売所のような雰囲気で好評な小型店舗
◆土台作りー内部留保と現場主導
合併当初のパルコープは市民活動家が集まった生協で、施設もリースに頼り、財務基盤が弱かった。そこで思い切って利用還元をゼロにして、内部留保に努めることを総代会で提案した。コープこうべが、95年の阪神大震災を500億の内部留保で乗り切ったことがパルコープの背中を押した。2年に渡る組合員議論の末、総代会での合意が形成された。その結果、06年、待望の物流センター用地を取得、09年ベジタブルセンターを併設して全面稼働。これにより収益力も一挙に高まった。
90年代、多くの生協は、経営近代化・縦組織強化の路線をとっていた。パルコープでは、職員が悲鳴を上げ、離職も相次ぎ、組合員からの批判も強まった。「何かがおかしい」、そう考えたパルコープは90年代後半、組合員第一主義、現場主導型への転換を図りだす。
具体的には、組合員の声事務局の設置、電話注文センターの稼働、店舗の各部門で働くお母さん達に「自分の店としてやってくれ」という趣旨のパートリーダー制の導入等。マネージメントと組織風土改革にとりくんだ。本部職員にも共同購入の支所長と同じ目線で見ることを求めた。
◆地域社会から生協をみる
いま一つは、地域性を見つめることだ。パルコープは、枚方・寝屋川等の大阪東部の市域(世帯加入率34%)と大阪市内(同20%)をエリアにしている。いずれも競合との競争の最激戦区だ。前者は大手企業の下請けや中小企業で働く労働者、共稼ぎ世帯が多く、また大阪市内は若者や高齢者の1人世帯が半数以上を占める。
このような地域性は、個配や店舗への要求を強める。個配の取り組みは98年から開始し、2013年に班配を抜いた。高地価のもと600~800坪の大型SMは出店せず、90年代後半には300坪店4店を出店するなどした(現在は9店)。店舗改革にとりくんだ2000年代後半以降の既存店の伸びは著しい。現在の供給高は個配48%、班配31%、店舗19%である。
◆なにわウエイの共同購入改革
共同購入は、大阪の狭い道路や高層マンション群への対応を強く求められる。パルコープは、組合員宅まで片道20分の範囲に支所(配送センター)を(再)配置し(全部で13支所)、駐車の難しいエリアには中継所を設け、そこから台車・リアカー配送している。ルートメイトと呼ばれているパート配送の配送車は、2016年から1.5tトラックから軽車両への切り替えを進め、7割まできている。これは女性パートやベテラン(高齢)職員が働き続けられることを意図したものでもある。
夕食配達を2012年から開始、現在は6500食。高齢者向けのキザミ食、ムース食も扱っている。供給高は10億円弱と小さいが、二桁成長しており、近い将来の団塊世代の高齢化を睨んでいる。
個配を始めた時は会社委託だったが、組合員の声を聴く、組合員に責任を持つという観点から2012年より内部雇用の専任職員への切り替えを開始し、現在は配達職員350名の3/4を正規職員化している。
◆小型店舗で健闘
スーパー業態は650坪等の大型店舗を中心として、画一化・マニュアル化し、メーカーの売り込みに仕入れを頼り、低価格・同質化競争に陥って苦戦している。生協も大型店をはじめ赤字が多い。
そのなかでパルコープは、150~300坪(駐車場は無しから70台)の小型店主体で健闘している。小型店は資金力の関係もあったが、職員が主体性を発揮できる範囲で、鮮度と個店仕入で勝負した。前述のパートリーダー制の下、直売所のような雰囲気をかもし出している。
黒字化をめざし、死筋(売れない商品)をカットし、アイテム数を5割減らして、わかりやすい売り場をめざしている。新鮮を旨として、農産は大阪近郊、水産は漁港から直接仕入れ、畜産は奈良市場等から仕入れている。これらにより店舗も09年には黒字化を果たしている。
漁港から直接仕入れる新鮮な魚介類
◆農水畜産品の独自仕入れ
2003年にコープきんき事業連合が立ち上げられ、直後から仕入れ統合が強まるなかで、パルコープは農産・水産・畜産・日配・コメ・卵・牛乳・冷凍食品は単協独自仕入れとし、事業連合仕入れは工業化製品等に限定している。
そのため仕入れ担当として、買い付け・品ぞろえ・カタログ紙面等に16名を配置している。大阪の食の地域特性に応えつつ、人材をきちんと確保し、今後の逆風の強まりに備える構えである。
産直・産地指定は北海道から鹿児島まで20府県に及び、農産品の3割を占めているが、多様な気候風土を活かすのが趣旨で、産直至上主義というわけではない。
農産品も単独独自仕入で
◆支所独自開発商品
パルコープのこれまでの取り組みを集約するのがこの点だ。事の発端は支所で組合員から、足だけでない「本物のカニを孫に食べさせてやりたい」という声が出たことだ。このような要求に応えるべく2015年から取り組みが始まった。
これまでの内外の生協の組合員参加の商品開発は、普及性を欠き、失敗することが多かった。パルコープは組合員の要求を受けとめつつ、例えば「港生まれの魚介ラーメン」の開発に当たっては、支所の若手職員が街の上位20位までのラーメン店を食べ歩き尽くし、試作品で組合員の反応をみつつ、具材、スープ、パッケージに到るまで現場の職員主体で開発した。「現場に商品開発権あり」だ。結果、大人気になった。
そのほか、女性が食べたくなる「バター香るえびピラフ」、頭・尾・中骨を取った女川港水揚げの「パクッとさんま」、女性パート職員開発の「梅かおる白桃ジェラード」、「だしが決め手のたこ焼」、「おうちで生餃子」、「国産手巻きロールキャベツ」等々。全国版になったものもある。
◆農協への期待
パルコープの展開は一口で言えば現場重視、職員重視だ。それが組合員第一、地域性直視につながる。そのような目から見れば、農協も生協もともに大型化するなかで関係性が薄れたようにみえる。そこで合併農協の支所との直接取引等を進めている。その際、本所ではなく地域の営農センターに決定(分荷)権があると連携しやすい。
農協存続の意義は日本農業の存続の意義につながると考える。農協改革でも、何のための、誰のための農協かを明確にすべきではないか。
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【田代洋一・協同の現場を歩く】
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