農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【立憲民主党・枝野幸男代表に聞く】政権交代で危機的農政を打破2018年12月13日
枝野代表は「戸別所得補償制度の充実」を掲げる。自由貿易のもとで農業の多面的機能を支えるには「もっとも効果的」だと強調。それを実現するには「政権交代しかありません」と訴える。(聞き手:小松泰信岡山大大学院教授)
小松 「総自由化時代」が到来しています。この点についての見解を教えてください。
枝野 経済の自由化については肯定しています。ただし、前提条件があります。国益のためには例外が存在すること。農畜産物のような一次産品については例外的措置を講じなければなりません。また、第一次産業は多面的機能という、市場原理が通用しない価値を生み出しています。そこが毀損しないように支えていく手段が必要です。TPP11、日欧EPA、TAGはこの前提を欠いています。

(写真)立憲民主党・枝野幸男代表
小松 そのような問題点をメディアは伝えない。国民の関心も高くありません。
枝野 それは農業に限ったことではありません。メディアは政策より政局に関心を持っています。ただ、私が議員になった25年前と比べると、有権者の食の安全・安心への関心は飛躍的に高まっています。間接的ではあっても国民の農業への関心が薄れているとは言い切れません。
小松 地方に足繁く通おうとされていますが。
枝野 多面的機能を支える手段として最適なのが所得補償です。ただ、農業は極めて多様です。多様な実態にきめ細かく対応した制度設計のために現場にうかがっています。
小松 御党の基本政策(2017年12月28日)には、食料自給率が取り上げられていませんが。
枝野 もちろん高い食料自給率が望ましい。ただ、カロリーベースか価格ベースかによる違いや、輸入飼料部分をどう見るかなどから、数値だけを重視すると政策にゆがみが生じます。中・長期の政策として、いかにして高めていくかを重視しています。
小松 御党の支持率が伸び悩んでいますが。
枝野 選挙と選挙の間で、野党の支持率が伸びることは基本的にはありません。その間メディアは、野党の政策については報道するニーズや価値がないとして取り上げません。政策の準備期間と認識し、選挙の時に伝われば支持率は伸びます。
小松 2019年に向けて、農業問題に関する野党共通政策の可能性はありますか。
枝野 農業問題に限らず、共通政策づくりは考えていません。野党は個別に戦うべきです。ただし、一人区は棲み分けて、一人に絞ってよりましな選択肢を提示します。政策のすりあわせをすると、譲り合ったり駆け引きがあったりで不鮮明なものしかできません。
小松 農業政策の仕込み状況はいかがですか。
枝野 ひとつは戸別所得補償制度の充実です。自由貿易の下で、農業の多面的機能を支えるにはこの制度が最も効果的で、優先度、緊急度が高いわけです。
もうひとつが、6次産業化です。生産者が付加価値を付けて市場に出せる、という構造も作っていかないと戸別所得補償制度で支えるにも限界があります。付加価値をいかに付けるかに焦点を当てれば、条件不利地でも伸びしろはあります。
小松 地方からどのような声が寄せられていますか。
枝野 最も多いのが、これからも農業でやっていけるという展望が持てない、という悲痛な声です。自分は続けても、子どもたちに続けてくれとは言えないのです。次に多いのが、災害や急激な価格変動への対応です。これに対しては、中期的には所得補償制度を組み立てて機能させますが、当面は今ある制度を柔軟に運用していくことです。
小松 国連における「家族農業の10年」や「小農の権利宣言」の採択。世界で小規模家族経営の価値を再評価する潮流が加速していますが。
枝野 私たちの目指していることが国際的潮流として進みはじめたと喜んでいます。世界的な政治の病理現象に対する明確な反撃のひとつです。
小松 ところがわが国の農水省は無視しているように思われるのですが。
枝野 官邸の中枢部を経産省ががっちり押さえており、経産省の考え方で政権全体が回っている。それに農水省があらがうことはできません。
小松 納得しつつも、絶望的な気持ちになります。
枝野 絶望は禁物。政権を変えずして良くなろうとするのが無理な話。政権交代しかありません。小選挙区制度を軸とした民主主義とは、そういうものです。
小松 農業や農協の関係者に、現政権にNOを突きつける意識が乏しいのですが。
枝野 壊される当事者が壊す党を支持する。悲しむべきことです。自民党の中でよりましな人が出てきて、少しは良くなるだろうという幻想から覚めて、政権交代への道を進むべきです。
小松 農協改革の問題点とJAグループへの期待をお聞かせください。
枝野 安倍首相は、協同組合全般に対して無理解です。JAグループが長く続いてきたことで、ある種の弊害が表面化していることは間違いない。しかし、そこにしか目が行かず、全体が把握できていないから、本質的な部分まで破壊する。「角を矯めて牛を殺す」わけです。取り組むべきは、本質的な部分の強化です。
小松 本質的な部分とその強化についてお聞かせください。
枝野 農畜産物に付加価値を付け、それを消費者に届ける。あるいは消費者のニーズを受け止めて経営に反映させる。そこを強化することで、一商社、一金融機関としか見られていない状況を変えることです。
小松 練り込まれた農業政策で、政権交代が実現することを願っています。
(関連記事)
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・【日本共産党・志位和夫委員長に聞く】自給率向上を突破口 亡国農政の大転換へ
・【国民民主党・玉木雄一郎代表に聞く】SDGsと整合性ある自由貿易体制づくりを
・【総括】連続インタビューから学ぶべきもの(小松泰信・岡山大学大学院教授)
※このほか本特集、【緊急特集:TPP11 12月30日発効】まとめページもぜひお読みください。
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