農政:緊急企画:TPP11 12月30日発効-どうなる、どうする日本農業
【国民民主党・玉木雄一郎代表に聞く】SDGsと整合性ある自由貿易体制づくりを2018年12月5日
聞き手:小松泰信・岡山大学大学院教授
TPP11が12月30日に発効し、来年1月からは日米二国間交渉も始まる。2019年は、かつてない農産物の「総自由化」が迫られる時代の始まりの年になるのではないかとの懸念は強い。日本農業とこの国のかたちをどうするのか。6人の与野党党首・政策責任者に小松泰信岡山大大学院教授が連続インタビューする。今回は国民民主党の玉木雄一郎代表。飢餓、貧困の解消、人と国の不平等の解消など国連が掲げる持続可能な開発目標を実現する貿易ルールづくりを日本が主導すべきだと主張する。
小松 ご実家は農協に縁がおありとのことですが、安倍政権による農協への改革圧力をどう見ておられますか。
玉木 農協の組合長だった祖父の仕事ぶりは、今流に言えば「歩く地域インフラ」でした。農業だけではなく家庭内のもめ事まで、よろず相談承ります状態。総合農協の存在意義がそこに象徴されているわけです。その役割や機能を再評価すべきです。
小松 安倍農政に対してはかなり厳しいご意見をお持ちのようですが。
玉木 家族経営は劣っており淘汰すべき対象、大規模経営や法人経営は優れていて増やすべき対象、との考えは間違っています。農業経営も農地利用も地域ごとにかなり違うわけです。多様性を排除する姿勢は農政にはなじみません。新自由主義的発想で、大規模化、法人化に突き進む姿は、家族型農業が再評価されている世界の潮流からすれば、周回遅れのトップランナーそのものです。
小松 そういうなかで、TPP11、日欧EPA、日米FTAと総自由化時代に突入していますが。
玉木 2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発)の、とくに「貧困」「飢餓」「不平等」の解消を強く意識した貿易通商のルール作りに着手すべきです。敗戦から短期間で経済大国になり、これから成熟国家を目指している日本が先導役としては最適です。不均衡、不平等を是正していく手段を組み込んだ自由貿易を進めない限り、多くの人びとを幸福にすることはできません。
小松 TPP11にはどのような姿勢で臨まれますか。
玉木 アメリカが抜けたわけですから、アメリカ抜きでの影響試算をやり直せ、ということです。きちんと検証することが大切です。万全の対策と口だけでは言うが、品目ごとのダメージ予測もなしに対策が立てられるわけがない。
小松 歯止めなき自由貿易で格差が顕在化し、この国が分断されてきています。この分断を防ぐにはどうすべきでしょうか。
玉木 自由貿易からのメリットに課税し、その税収をデメリットを被る人や産業に回していく仕組みづくりです。自由化のメリットを受けたグローバル企業の法人税がさらに減税され、内部留保が増えていくだけでは、額に汗して誠実に働く人は報われません。
それから最近警戒しているのが、北方領土問題が農業に及ぼす悪影響についてです。もし二島が返還されたときには、日米地位協定によってアメリカは米軍基地の建設を要求するでしょう。当然、プーチン氏はそれを認めない。返還された島に米軍基地や施設を置かない代わりに、武器を買え、農産物を買え、食の安全性に関する基準を緩和しろ、とトランプ氏は譲歩を迫ってくるはず。2019年1月から始まる二国間交渉では、米ロからかなりむしり取られる可能性が大きいです。
小松 鋭い指摘です。大いに論陣を張っていただきたい。ところで、国会では食料自給率向上策についての議論が展開されていませんね。
玉木 現政権は食料自給率を上げることを放棄しています。国家戦略として自国民の食料は自国で作る体制を確立する。効率性だけ考えて、自給するより輸入した方が安上がり、という考えは無責任です。食料自給率の向上という観点は市場原理からは出てきません。政治主導で取り組むべきです。
小松 2018年秋の臨時国会での代表質問で、自給率向上に貢献している飼料米政策を批判されていましたが。
玉木 総理は、米の取引価格は着実に回復していますと胸を張りますが、これは、10アール当たり最大10万5千円の税金を使って飼料用米に政策誘導した結果、主食用米の生産が抑制されて上がっているだけの話。法定化されていないため、常に財政制度審議会から圧力がかかるような飼料用米拡大政策に持続可能性はあるのか。財源は本当に続くのか疑問です。そこを問い質したかったわけです。
小松 それに代わる政策は。
玉木 税金を使って価格をコントロールする価格政策ではなくて、営農継続可能な所得を農家に直接補償する所得政策の方が効果的な制度です。農業者戸別所得補償制度をもとに、安心して営農継続できる新たな直接支払いの制度を提案します。
戦略作物として注目するのは麦です。水管理の手間が少なく、ゲタ対策と水田活用交付金という所得補償もあります。
小松 国政に地方の声が届きにくくなっていることを危惧されているそうですが。
玉木 政治だけではなく、すべての局面での東京一極集中をいろいろな角度から解消することを考えるべきでしょう。個人的には、地方の声を代弁する「田舎党」を作りたいですね。
小松 世論調査によれば御党の支持率は2%に届くか届かないところですが。
玉木 確かに低支持率です。ただ調査によっては、東北で5%弱、四国が10%弱と、地方ではそれなりの存在感を示しています。もう少し頑張って地方を訪れ、農業・農村のこれからについて訴えていきます。
小松 2019年夏の陣についての意気込みを。
玉木 野党共闘で自民党の議席数を減らし、多様で緊張感のある政治を作って、安倍政権に向き合っていきます。共闘のポイントは、一つが日米地位協定問題、もう一つが農業と食の問題です。この二つは共通政策の核になります。農業と食の問題に関しては、JAグループの動きがカギを握ってます。
小松 玉木さんのDNAの叫びを聞いた気がします。その勢いに期待しております。
玉木 各党党首のなかでもっとも農政とJAに詳しいとの自負を持っていますので、頑張ります。
(関連記事)
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・【日本共産党・志位和夫委員長に聞く】自給率向上を突破口 亡国農政の大転換へ
・【総括】連続インタビューから学ぶべきもの(小松泰信・岡山大学大学院教授)
※このほか本特集、【緊急特集:TPP11 12月30日発効】まとめページもぜひお読みください。
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