農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】現地ルポ:JAぎふ 農福共生に挑む みんな仲間、安心と幸福権追求(1)2021年4月14日
組合員が抱えるさまざまな営農・生活に関する課題を対話による相談活動を通じて解決していこうという事業を今後のJAのめざす姿に掲げる岐阜県のJAぎふは地域の障がい者が農業やJAの職場で安定して働き、自立を支援する子会社「株式会社JAぎふはっぴぃまるけ」を設立した。その一つが障がい者が農業分野で働くことで生きがいを持つ農福連携の取り組みでもあるが、事業の理念はそこにとどまらない。地域の障がい者をはじめとするすべての人たちと向き合い地域共生社会の実現をめざしている。(取材・構成:編集委員 野沢聡)
服部努所長(左)と従業員
(株)JAぎふ はっぴぃまるけ
対話で個性探し 適所適材柔軟に
JAの直売所「おんさい広場」やGS(ガソリンスタンド)などが集まる敷地内にある「JAぎふはっぴぃまるけ」(以下、はっぴぃまるけ)真正事務所を訪ねると社員がイチゴのパックづくりに励んでいた。パックにシールを貼り、数がそろえば段ボールに納めていく。
作業を見守るのは服部努所長。作業療法士であり職場適応援助者(ジョブコーチ)でもある。同社の社員は障がい者18人。知的、精神、身体に障害を持つ。真正事務所は農業部門で同社の農場で農業に取り組むほか、人手の足りない農家への作業補助、選果場やライスセンターなどの作業補助などで6人が働いている。
そのほか12人の社員はJAの本支店で清掃や事務、印刷や販売事業部門などに勤務している。
服部所長によると、この日、事務所でのパックづくりの仕事は同じ敷地内にある出荷場に社員自ら出向いて受託してきたのだという。自分たちで説明を聞き、社員同士で作業の段取りを話し合って納得し、材料を事務所に持ち帰った。
「障がい者も多様ですから、彼ら自身が理解して仕事ができるように話し合いを大切にしています」と服部所長。壁にイチゴのへたを取る作業をコンピューターで、イラスト化したマニュアルが貼ってあったが、これも社員が作成した。仲間が作業の注意点を絵で分かるように工夫したのだという。
みんなが幸せになるHappy-Happyの関係
岩佐哲司専務
JAぎふは以前から障がい者を職員として雇用していたが、組合員との話し合いや相談活動を進めるなかで、組合員のなかにも障がい者がいる家庭は決して少なくないことが分かった。
同社の代表取締役社長でJAぎふの岩佐哲司専務は「高齢の組合員が障がいを持つ子どもの将来を案じて、自分が亡くなったあとどう生きていけるのかと心配だと話します。10世帯のうち1世帯は何らかの障がい者を抱えている。今まで向き合わなかったこうした問題に農協こそ取り組もうと考えました」と話す。
5年前から常務直轄のJA改革推進室で障がい者雇用にどう取り組むのかを検討し、昨年7月に障がい者の安定した雇用体制と労働環境整備、さらに農業を通じた福祉活動の取り組みを目的に特例子会社(<注>参照)「JAぎふはっぴぃまるけ」を設立した。
はっぴぃまるけとは、幸せを意味する「はっぴぃ」と、岐阜弁で「○○だらけ」を意味する「まるけ」を合わせた。「まるけ」には市場を意味するマルシェの意味もある。JA改革推進室から事業化に関わり同社の統括部長に就任した高橋玲司さん(※高は異体字)は社名には「Win-Winの関係とよく言いますが、その裏に負けがある。そうではなくみんなが幸せになるHappy-Happyの関係をめざすとの意味を込めました」と話す。
高橋玲司部長
本社の事務所はJA本店内。本店の各部門でも障がいを持つ同社の社員が働いている。
「障がいは、その人の特性であり個性。そして農協の仲間。その個性を認知して同じフロアで同じように働くことが当たり前にならなければ」と話す高橋部長はジョブコーチ(職場適応援助者)でもあり、社員とのコミュニケーションを重視する。人の目を見ることが苦手で職場でのコミュニケーションに苦労する社員もいる。その一方、事務所での清掃を担当し口数が少ないと思われていた社員が農作業体験をしたら、非常に快活になり、屋外での仕事を希望するようになったなどの例もあるという。
家族との面談も重視して体調や希望に基づいて勤務時間などを柔軟に決めている。
「適材適所といいますが、彼らを見ていると適所適材のほうがしっくりくると最近は思っています。ここなら彼らがもっと活躍できる、という場を見つけることも大事だと思っています」。
昨年7月の設立からの農業部門の社員が行った業務は選果場やライスセンターでの作業補助のほか、稲作農家とダイコン生産者への収穫作業などの派遣もある。ダイコンは「祝大根」という正月用で年末の決められた期日までに出荷しなければならず、それに社員4人を派遣した。そのほか組合員所有の空き家の草刈り作業なども行った。
同社自らの農園事業としては、ジャガイモの栽培と岐阜市の特別支援学校からの実習生の受け入れなどを行った。今年からは農園で岐阜農林高校との連携し地域特産のマクワウリの栽培とJA女性部から引き継ぐことになった「まめなかな味噌(みそ)」づくりも行う。
農の癒しで高い能力発揮
精神科での作業療法士の経験も持ち、もともと障がい者就労継続支援B型事業所を立ち上げて障がい者と農業をつないできた服部所長は「土に触れて日を浴びることで気持ちが安定する。眠れないという苦痛を抱える人も心地よく休むことができる」と農業の癒やし効果に期待する。
同時に社員が意欲的に仕事に取り組むようになって高い能力も発揮しているという。昨年、稲作農家に派遣された社員は働きぶりを見込まれ「うちで働かないか」と持ちかけられた。同社で働きつづけることを選んだが、「この会社の先にも就労の場があることを示した例だと思います。障がい者が外に出て行く流れをつくり出していきたい」と服部所長は力を込める。
高橋部長は特別支援学校からの研修受け入れを重視したいという。その理由は「『はっぴぃまるけ』を地域の障がい者の憧れの会社にしたい」からだ。そのために畑でしっかり栽培し「見せる農業」で社員がいきいきと働いている姿をみせる。また、設立から1年も経たないが、この間、前述したように希望する職種に代わるなど、同社のなかでキャリアをステップアップしていけることも示した。これまでの障がい者雇用にはなかったことだ。
高橋部長と服部所長が今後検討を始めようとしている事業がある。それはグループホーム事業である。社員はもちろん地域の障がい者の将来を考えると生活支援も課題となるから、暮らしの場づくりも視野に入れる必要がある。単なる農福連携ではないとの考えからだ。同社の理念はここにも現われている。仕事とともに安心して暮らしていける場をどうつくるか。開かれた共生社会に向けてあらゆる問題に向き合うという理念の実現につなげていこうとしている。
「グループホームが必要だ、などと一言も言ってません。現場の彼らから提起されたことですが、そういう事業展開が私は好きです。組合員の暮らしを守るための実践であればいいのですから」と岩佐専務は話す。
<注>特例子会社・雇用される障がい者が5人以上で全従業員に占める割合が20%以上。障がい者の雇用管理を適切に行う能力など条件を満たすことで親会社(JAぎふ)との障がい者雇用との合算が可能となる。全国の単位JAで初。
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