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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2017.09.12 
【建前→本音 政治・行政用語の変換表】 鈴木宣弘 東京大学教授一覧へ

 鈴木宣弘東京大学教授による新コラム「食料・農業問題 本質と裏側」がスタート。鈴木教授が農政改革、農協改革、国際貿易交渉、食の安全など、食と農林水産業をめぐる様々な問題について、表面的な事象の裏側に隠された実態に迫り、その本質を探る。
 第1回は、最近の政治・行政で横行している言葉のごまかしの実態を鋭く分析。表面的な用語や説明の裏にある真意を解する一助として、鈴木教授が作成した「建前と本音の政治・行政用語の変換表」をお届けする。

東京大学教授 鈴木宣弘氏

(写真)鈴木宣弘・東京大学教授

●国益を守る
=米国の要求に忠実に従い、政権と結びつく企業の利益を守ることで、国民の命や暮らしを犠牲にしても、自身の政治生命を守ること。

 

●自由貿易
=米国(発のグローバル企業)が自由に儲けられる貿易。

 

●自主的に
=米国の要求どおりに。

 

●規制緩和
=地域の均衡ある発展のために長年かけて築いてきた相互扶助的ルールや組織を壊して、ないしは改変して地域のビジネスとお金を一部企業に集中させること。規制緩和の名目で実質的な規制強化を行う場合もある。いわば「国家の私物化」。この国際版がTPP(環太平洋連携協定)型の協定で「世界の私物化」。

 

●規制緩和が皆にチャンスを広げる
=規制緩和すれば多くの国民は苦しむが、巨大企業の経営陣がさらに儲けられる。

 

●対等な競争条件(Level the playing field とか Equal Footing)
=もっと一部企業に富が集中できる市場条件にする。市場を差し出したら許す(例: 郵便局でのA社保険販売)。

 

●岩盤規制・既得権益
=儲けられる余地が減ってきたので、地域の均衡ある発展のために長年かけて築いてきた相互扶助的ルールや組織を壊して地域のビジネスとお金を一部企業が奪いたい。そこで、地域を守るルールや組織は障害なので岩盤規制・既得権益と呼ぶ。

 

●国家戦略特区
=別名、国家「私物化」特区。政権と近い特定の企業・事業体がまず決まっていて、その私益のために規制緩和の突破口の名目でルールを破って便宜供与する手段。

 

●幅広い視点からの諮問会議の委員構成
=利益相反的な賛成派、あるいは、素人で純粋に短絡的な規制緩和論者だけを入れる。「詳しい人や反対論者を入れたら決まらないでしょ。最初から決まった結論に持っていくためにやるのだから。」

 

●道半ば
=経済政策(アベノミクス、物価2%上昇目標など)の破綻のこと。

 

●1%の農業を守るために残り99%の利益を犠牲にするな
=1%の企業利益のために99%の国民は犠牲にする。

 

●農業所得向上
=農協を解体して、地域のビジネスとお金を一部企業が奪うための名目。(1)信用・共済マネーの剥奪に加えて、(2)共販を崩して農産物をもっと安く買いたたきたい企業、(3)共同購入を崩して生産資材価格をつり上げたい企業、(4)JAと既存農家が潰れたら農業参入したい企業が控える。規制改革推進会議の答申はそのとおりになっている。

 

●地方創生
=なぜ、そんなところに無理して住むのか。無理して住んで農業やって、税金使って、行政もやらねばならぬ。これを非効率という。地域の伝統、文化、コミュニティもどうでもよい。非効率なのだ。早く引っ越して、原野に戻せ。

 

●農業協同組合の独占禁止法「適用除外」は不当
=共同販売・共同購入を崩せば、農産物をもっと安く買い、資材を高く販売できる。「適用除外」がすぐに解除できないなら、独禁法の厳格適用で脅して実質的になし崩しにする。

 

●農業所得倍増
=貿易自由化と規制改革で既存の農家が大量に廃業したら、全国の1%でも平場の条件の良い農地だけ、大手流通企業などが参入して儲けられる条件を整備し、一部企業の利益が倍増すればよい。儲からなければ転用すればよい。

 

●農業競争力強化支援法
=農業競争力「弱体化」法。競争力強化に必要な協同組合の共販・共同購入を「中抜き」し、農業関連組織の解体と家族経営の崩壊を促進し、特定企業に便宜供与する。コメの種子情報を無償譲渡で獲得し、遺伝子組み換え種子で主要穀物市場を独占し、種子価格を吊り上げ、国民の命をコントロール下に置けるバイオメジャーには濡れ手で粟。

 

●漁家・漁協の既得権益の開放
=浜は既存の非効率な漁家の既得権益でなく、みんなのものだから、効率的な企業にも平等にアクセスできるように漁協に免許されている漁業権を開放しろ、と言って、結局、そう主張した企業が買い占めて既得権益化する(浜のプライベートビーチ化)という詐欺的ストーリー。しかも、最終的には外資に日本の沿岸国境線を握られ、日本が実質的に植民地化する亡国のリスクが見えていない。

 

●漁場の共同管理をやめるべき
=既存漁家から浜のビジネスを奪いたい。コモンズ(共用資源)は共同管理することで資源の枯渇による共倒れという「悲劇」を回避してきたのが理論的にも実証的にも確認されている。コモンズに短絡的規制緩和論を主張するのは根本的な間違い。我々の社会を「グローバルコモンズ」と見做せば、個々が利己的に自己利益の最大化をめざせば社会全体の利益が最大化されるという新古典派経済学が適用できる余地は実はほとんどない。

 

●改革の総仕上げ
=延長された所管官庁のトップの在任中に、一連の農林水産業の家族経営の崩壊、協同組合と所管官庁などの関連組織の崩壊に「とどめを刺し」、国内外の特定企業などへの便宜供与を貫徹するという強い意思表示。

 

●科学主義
=疑わしきは安全。安全でないと証明される(因果関係が完全に特定される)までは規制してはならない。人命よりも企業を守る。対語は、予防原則=疑わしきは規制する(手遅れによる被害拡大を防ぐため)。

 

●枕詞
=国会決議などを反故にする言い訳に使うために当初から組み込んでおく常套手段の修飾語。最近の事例は、「再生産可能となるよう」「聖域なき関税撤廃を前提とする(TPP)」「国の主権を損なうような(ISD条項)」など。

 

●単なる情報交換
=日本のTPP交渉参加を米国に承認してもらうための「入場料」支払いのために水面下で2年間行った事前交渉の国民向けの呼称。国民を見事に欺いて米国への事前の国益差し出しに貢献したことで経産省初の女性局長(その後、総理秘書官を経て特許庁長官)に昇進した人もいる。

 

●生産性向上効果と資本蓄積効果
=貿易自由化の経済効果を操作して水増しするための万能のドーピング薬。

 

●緊急対策
=政治家が自身の力で実現したのだと「恩を着せる」ための一過性の対策。政策に曖昧さを維持し、農家を常に不安にさせ、いざというときに存在意義を示すための日本的制度体系。しかも、既存の施策を○○対策として括り直して看板付け替えただけの場合が多い。対語は、対策の発動基準が明確にされ、農家にとって予見可能で、それを目安にした経営・投資計画が立てやすくなっている欧米型のシステマティックな政策。

 

●情報公開
=基本的に情報は出すものではなく隠すもので、出す場合は政府が国民を誤認させて誘導するのに都合のいいところだけ公開する。公開を迫られたときは黒塗り(「のり弁当」)にするか、記録を廃棄したことにする。ウソを貫徹した人は国税庁長官やイタリア一等書記官に異例の処遇をする。真実を述べた人はスキャンダルで人格攻撃する。

 

●記憶にない
=事実と認めるわけにはいかない質問に偽証に問われないように答えるときの常套句。「私の記憶によれば○○していない」という言い回しもある。

 

●コンディショナリティ
=貧困緩和のためには規制緩和の徹底が必要と言い張り、途上国を支援する名目で、世界銀行やIMF融資の条件として、アメリカ発のグローバル企業の利益を高める規制緩和やルール改変(関税・補助金・最低賃金の撤廃、教育無料制・食料増産政策の廃止、農業技術普及組織・農民組織の解体など)を強いること。しかも、強制したのでなく当該国が「自主的に」意思表示したという合意書(Letter of Intent)を書かせる。

 

●トリクルダウン
=99%→1%に富を収奪しようとしている張本人が1%→99%に「滴り落ちる」という論理破綻。

 

●CSR(企業の社会的責任の履行)
=「安全性を疎かにしたり、従業員を酷使したり、周囲に迷惑をかけ、環境に負担をかけて利益を追求する企業活動は社会全体の利益を損ね、企業自身の持続性も保てないから、そういう社会的コスト(外部費用)をしっかり認識して負担する経営をしなくてはならない」というのは建前で、本当は、TPP型の ISDS条項で、企業が本来負担すべき社会的費用の負担(命、健康、環境、生活を毀損しないこと)の遵守を求められたら、逆に利益を損ねたとして損害賠償請求をしたい。

 

●主流派経済学
=巨大企業の利益を増やすのに都合がいい経済学。

 

●独占・寡占は取るに足らぬ問題で、独占禁止政策も含め、規制緩和あるのみ
=独占・寡占が常態化する市場で、それを抑制する政策も含めて規制緩和すれば、さらに市場を歪め、独占企業への富の集中を進められる(社会全体の経済厚生は低下する可能性がある)。規制緩和が正当化されるのは、市場が競争的であることが前提で、不完全競争(独占・寡占)市場での規制緩和は正当化されない。したがって、主流派経済学は独占・寡占の存在を無理やり否定する。

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