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里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く

  • ●著者:藻谷浩介・NHK広島取材班 / 日本総合研究所調査部主席調査員
  • ●発行所:角川書店
  • ●発行日:2013年7月10日
  • ●定価:781円+税
  • ●電話:03-3238-8555
  • ◎評者:品川優 / 佐賀大学経済学部准教授

 戦後の日本経済は、いわゆる大量生産・大量消費による実体経済の成長を追い求め、21世紀の日本経済はグローバリゼーションのもと、実体経済から乖離した金融が主役の「マネー資本主義」に飲み込まれている。本書は、このような経済システムにすべてを委ねる仕組みに疑問を投げかけ、マネー資本主義の対置として「里山資本主義」を提唱している。

地域に根ざす農協のヒントに

 戦後の日本経済は、いわゆる大量生産・大量消費による実体経済の成長を追い求め、21世紀の日本経済はグローバリゼーションのもと、実体経済から乖離した金融が主役の「マネー資本主義」に飲み込まれている。本書は、このような経済システムにすべてを委ねる仕組みに疑問を投げかけ、マネー資本主義の対置として「里山資本主義」を提唱している。
 里山資本主義とは、「お金の循環がすべてを決するという前提で構築された『マネー資本主義』の経済システムの横に、こっそりと、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方」である。つまり、この種の書籍によくみられがちなマネー資本主義の絶対否定とその対置の絶対礼賛といった二者択一的な視点ではなく、多様なシステムを構築し組み込むことが、日本というシステム全体の強さと持続可能性を兼備することになるという現実を見据えたスタンスに立っている。 本書には、多くの里山資本主義の実践実態が取り上げられている。いくつか列挙すると、岡山県真庭市における製材過程で生まれる木くずを利用したバイオマス発電の実践、農家と連携し地元の特産品を原材料にジャムづくりと直販に取り組む、いわゆる6次産業化により地域全体の利益を最大化する山口県周防大島での実践、負の遺産とみられがちな耕作放棄地を発想の転換により活用した放牧(島根県中山間地域)やホンモロコ(琵琶湖特産の魚)の養殖(鳥取県八頭町)、ヒト・モノ・カネが地域のなかで結び付き循環することで地域全体に本当の「豊かさ」をつくりだした広島県庄原市の実践など、農業・農村が目指すべき新たな方向性がいきいきと描かれている。
 それは同時に、現政権が農業・農村の基本方針とする10年間での所得倍増、そのための規模拡大、10兆円規模の6次産業、輸出倍増といった成長戦略一辺倒へのアンチテーゼでもある。
 1点気になることは、主体的な取り組みが描かれていたが、そのなかに農協の姿をみることができなかったことである。実際には深く関わりつつも本書では触れられなかったのか、それとも実際に結び付きがなかったのか、評者には知るよしもない。だが、仮に後者であるとすれば、本書を通じて地域住民が描く地域の姿やあり方、そのために必要なもの、それをサポートする仕組みなど、地域に根を張る農協に対し今後求められる事業やサービス、運動のヒントもそこにあるのではないか。そうした意味においても、農協関係者の必読書といえる。
 なお、マネー資本主義については、NHKスペシャル取材班『マネー資本主義』(新潮文庫、2012年)も合わせてご覧いただきたい。同書は、2008年のリーマンショックを切り口として、アメリカにおける金融界の暴走とシステム不全の背景を詳細に描くとともに、専門家以外には分かりにくい金融工学を用いた証券化の仕組みについても、分かりやすく解説している。

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