【小松泰信・地方の眼力】公正取引委員会から「大分味一ねぎ」を救え2016年11月2日
◆小泉、奥野の"痛い"対談
-公正取引委員会が求める情報は何か-
文藝春秋11月号〝特集TPPを迎え撃て 日本農業改造計画 自民党と農協の改革派が抵抗勢力に挑む〟は、どこが改造計画だ、と叫びたい羊頭狗肉そのもの。若者言葉で表現すれば、小泉進次郞氏と奥野全中会長の"痛い"対談。もちろん、コラムのツカミネタ満載でお二人には感謝したい。その一つの件(くだり)の要点だけを紹介する。
奥野:先日、東日本のJAトップを集めたコンプライアンス集会を開きましたが、生産者部会については、「JAの外側にある組織だと思ってたらいかんよ」と改革を促しました。
小泉:公取は新たに農業分野タスクフォースを設置しました。農家のみなさんには、積極的に情報提供してもらいたい。
さて、奥野氏はこのような協同活動への監視体制を是としているのであろうか。是とすれば、はなはだ問題である。非とするのであれば、厳重に抗議すべきである。それが感じられないのが、"痛い"という表現の一つの理由である。
悲しいかな早速、小泉氏の期待に応えるような情報提供が大分県であった。
◆JAおおいたへの立ち入り検査の"背景"は何か
-これも農協改革の一環ですか-
日本農業新聞(10月28日)が、"JAおおいたに立ち入り検査 公取委"として伝える記事の全文は、"公正取引委員会は27日、大分県のJAおおいたが、一部の小ネギ農家に対して「大分味一ねぎ」のブランド名を使わせないなど、不当に扱った疑いがあるとして立ち入り検査した。公取委によると独占禁止法の「不公正な取引方法」に該当した可能性があるという。不当に扱われた疑いがあるのはJA特産の小ネギを作る「大分味一ねぎ生産部会」の組合員。JAに全量出荷しない人に対し、仕分けやパッケージをする施設を使えないようにした疑いがあるという。JAは「調査段階で詳細は分からないが、検査には協力する」としている"である。
日本経済と毎日の両紙はほぼ同じ内容であったが、朝日新聞(28日)はより詳細なものであった。要点は次の5点。
(1)「大分味一ねぎ」は、大分県北部で生産される小ネギのブランド名。登録商標を持つJAは、農家から手数料を取ってネギを集荷し、関東地方を中心に年間約1千トンを出荷している。
(2)組合員の3農家が、生産したネギの一部を独自に開拓した手数料の安い販売先に出荷。これに対し、JAはすべてのネギをJAを通し出荷するよう求め、従わない3農家に「味一ねぎ」のブランド名を使わせなかったほか、集出荷施設の利用も禁じた。
(3)公取委は、組合員であればJAを通さずに出荷する場合でもブランド名を使用することができる、とみている。このため、JAが使用させなかったのは、独禁法が禁じる事業者団体での差別的な扱いの疑いがあると判断した模様。
(4)公取委は監視を強めている。背景にあるのは政府が進める農協改革。今年4月に施行された改正農協法では、農協が「農業者に事業利用を強制してはならない」との内容を盛り込んだ。
(5)公取委は今年に入り、農家が情報提供をしやすいよう専用の申告窓口を設置。取り締まりの専門チームもつくった。公取委幹部は「監視を強化することで、適正な競争ができる環境にしたい」と話している。
どこが農協改革なのか。だれとだれの競争なのか。"適正"の判断基準は何か。公正取引委員会は明示すべきである。
◆産地化もブランド化も一日にしてならず。しかし失うのは一瞬
-ほくそ笑むのは安倍一狂一派だけ-
大分合同新聞(28日朝刊)は、同様の経緯と公取委に申し立てをした男性組合員の「販売先は農家の自由。組合員だからといって農協に全量を納めろというのはおかしい」との主張を紹介した。その後で、"複数の産地協力 県の「戦略品目」"という小見出しで、"「大分味一ねぎ」は、県が1次産品の生産・販売拡大を重点的に支援する「戦略品目」の一つ。各地の生産部会が2007年から銘柄の統一を進めた。県域で集出荷する体制が整った品目の第1号で、県農業をけん引する役割を担ってきた。複数の産地が協力して銘柄を統一することで、市場の要望に応えられる一定の出荷量を確保。大分ブランドの知名度アップと単価向上に力を入れてきた。取り組みを推進してきた県農林水産部の担当者は27日、「公取委の調査内容が把握できておらず、現時点でコメントできない」と困惑気味に話した"と、地元紙ならではの記事を載せている。
さらに29日朝刊でも、味一ねぎ部会員の「皆でまとまってブランドを育ててきた。法律の細かな取り決めは分からないが、部会員としては、ブランドを壊さないよう一層団結したい」と、別の生産部会代表の「全量出荷の是非は分からないが、一緒に決めた約束は守ってほしい」というコメントなどを紹介し、生産者の複雑な心境を紹介している。
何が適正な競争だ。みなが悲しい思いをする、不毛な争い。ほくそ笑むのは、JAつぶしに余念のない安倍一狂一派だけ。
◆「惨地」化に手を貸すのが公正取引委員会の仕事ではない
-問われるべきは、"道義的"に不公正な取引方法-
生産部会は、同じ種類の作目をつくっている組合員が集まり、生産・販売計画の樹立、視察研修などによる技術の共有や改善、そして高度化、加えて共同検査や選別による規格統一などをはかり、市場において有利販売を目指す組織である。換言すれば、高位平準化された農畜産物を量的にまとめ上げることで、個々の農家の経済的弱者性を克服しようとするものである。その地域的まとまりが「産地」である。農家が農業協同組合に結集し、産地づくりに邁進するのは、小泉氏の一つ覚えにならえば、1円でも高く売ることを目指したものである。そのためには、原則として作り方から生産資材、もちろん売り先まで同じであることが求められる。まして、信頼の証である「大分味一ねぎ」という登録商標を得るレベルになるまでには、生産者とJAの血の滲むような努力と、県関係者や市場関係者の長期にわたる支援が不可欠である。だからこそブランドを毀損(きそん)させることなく、守り抜くための持続的協同活動が不可欠となる。毀損させる可能性を排除するのは当然である。
新聞で得られた情報のみで言えば、部会の対応は間違っていない。訴えた方々の販売努力は認める。しかし、独自に開拓した販売先の手数料が安いのは、ブランド構築コストを負担していないからだ。業者がほしいのはそのブランド。このような人たちをフリーライダー(ただ乗り)と呼ぶ。集出荷施設の利用に関しても、予定出荷量を見越して諸掛かり経費が算出されているはず。その時々の甘い話に乗った出荷者の行動で、JAの取扱量が下方修正されたら、決めた通りに出している方々のコスト負担が増えること間違いない。さらに、信頼を損なう欠品リスクも高まり、結果、正直生産者が馬鹿を見ることになる。
このような行為や訴えが全国の産地でまかり通れば、産地は、散地となり、最後に惨地と化す。これが、日本農業改造計画のシナリオに組み込まれているとすれば、わが国の農業には破滅あるのみ。無知が栄えたためしなし。
経営マインドにあふれ、自由を謳歌したい組合員には、"脱退の自由"がちゃんと保証されている。ご安心あれ。
公正取引委員会の見立ては、独占禁止法の「不公正な取引方法」に該当した可能性があるとのことだが、農業協同組合論の見立てでは、訴えた方々に「"道義的"に不公正な取引方法」の可能性あり。公取委は「惨地」化に手を貸すべきではない。
「地方の眼力」なめんなよ。
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