(058)規模の価値と現実2017年11月24日
JA全中によると、平成29年10月1日時点で全国のJA数は652である。昭和30(1955)年には全国の総合農協数が1万2835であったことを考えると隔世の感がある。筆者が前職である全農に入会した昭和59(1984)年、初めて手にした全農手帳には農業と農協関係の各種統計の抜粋が掲載されていた。地元の農協や農家に出向いた際、それを見れば日本農業と農協の主な数字の概要が掴めたため重宝した覚えがある(注1)。 現在では携帯やタブレットですぐ得られる情報であるが、当時は手帳情報が貴重な時代であった。
 諸外国と比べた場合、日本の農協の特色は先人がいくつも指摘しているが、その中の一つに農政の具体的な実行機能を担っていたというものがある。農業の各分野において同じ領域を担う農家の自発的な団体(例えば、〇〇の生産者が集まってできた○○生産農協など)として発生した欧米の農協と異なり、国の農政を地方で具体的に実行する機能を担うために農協組織が発展してきたというものだ。是非の議論は別にして、地方において安定的な職場に就職するなら「役場か郵便局か農協」と呼ばれた時代があったことを記憶している人も多いと思う。
 さて、昭和28年(1953)年10月、町村合併促進法という法律が施行されたが、その当時の全国の市町村数は9868である。いわゆる「昭和の大合併」が行われた結果、市町村数は昭和31(1956)年4月には4668まで減少している。筆者が入会した翌年、昭和60(1985)年の市町村数は3253であり、同年の総合農協数4303とまだ農協の方が多いが、当時は概ね市町村の行政区画に対応した形で存在していたということになる。これも、農政を実行するにはお互いに好都合であったということであろう。
 その後、年月を経て、現在の市町村数は1727(786市、757町、184村)(注2) にまで減少したが、先述のとおりJA数は652と大きく減少している。この数字を見てわかることは、今やJA数は全国の市町村数の3分の1、言い換えればJAの管内には平均で2.6の市町村があるという「机上の計算」が可能なこと位である。
 
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 現実は拡大を志向するJAは益々大きくなる可能性が高い。例えば、筆者が住んでいる宮城県では平成31年4月に宮城県北部8JAの合併を実現しようと検討が続いている。この構想が実現すれば、正組合員数約6万5000人、准組合員数約2万5000人、合計9万人という組織が誕生することになる。農産物の販売高は軽く500億円を超えるであろう。
 この規模はどの位の食品メーカーに匹敵するか。売上高500億円前後というと、ロック・フィールド(506億円)、エバラ食品工業(514億円)、日東ベスト(514億円)というところだろうか。これらの企業の従業員数は概ね700~1500名前後である。
 
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 JAとこうした企業とは一概に比較は出来ないが、それでも合併して大規模化したJAが、食品企業で言えば、どの位の規模の事業を行っているかを理解しておくことは、今後、益々、JAの役職員にとって重要になる。合併して大きいと思っていたら、実は食品産業の規模の中ではそれほどでもなく、その一方でカバーする地域や組合員数の数を考えると日本でもトップレベルの大企業と同じレベルのマネジメントが求められることになるからである。そして、何よりも自分達のJAの規模が食品産業全体の中でどの位の位置にいるかということを正確に理解しておくことは出資者である組合員にとっては市場や顧客との関係を正確に理解する上で極めて重要なものとなるはずである。
 飲料・食品企業には、最大手の1社キリン・ホールディングスのように2兆円超えの規模の売上高と約4万人の従業員を持つ企業がある一方、売上高は数十億~数百億円規模であっても地域だけでなく全国的にも知名度の高い企業がいくつも存在する。規模を強さに変えることが出来ればそれで良い。規模を追求しないのであれば、小規模でも充分に長期にわたり成功している事例の秘訣をあらゆる業界・業種からJAの役職員は学ぶ必要がある。
注1:全農手帳には既に何年も前からこうしたデータが掲載されていないが、同様の機能を持つものとしては、農林水産省の「農林水産基本データ集」が便利である。
注2:正確に言えば、47都道府県、786市、757町、184村、23特別区、170行政区ということになる。なお、地方公共団体(地方自治体)には政令指定都市(19市)の行政区(170)は含まれない。
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